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6 変身しても中身は変わらない




ショッピングモール内は休日と言うのもあって人が多い。それに加え今は昼時でもあるため、フードコートが立ち並ぶエリアは余計に喧騒としていた。
こんなにも長時間人混みの中にいた私は情けなくも人酔いをしてしまい、フードコートのテーブルの一角をどうにか陣取って昼休憩をとっていた。


「琴里、大丈夫?」

「大丈夫、だけど…人が多い…」

「まぁ、休日だしな」

「…善逸くんはなんでそんなに平気なの…」

「俺別に人混み平気だし」


…そうですか…。
あっけらかんと言い放つ善逸くんに脱力した。確かに彼は私と違ってアクティブだ。こう見えて運動もできるし、頭も決して悪いわけじゃない。ただ、普段の素行があれだから勘違いされやすい。
…そしてもっと言うなら、女の子が関心のあるものには滅法詳しい気がする。この数日私に構い倒す善逸を見てそう思う。
心底美味しそうにカルボナーラを頬張る善逸くん見ながら冷たい月見うどんを啜った。


「…というか、琴里さぁ、なんでうどんなのよ」

「なにが?」

「こういう時はもっと女の子らしいものを頼むものなの!例えばほら、あの子みたいにドリア食べるとか」


ちょいちょい、と善逸くんが示すのは斜め横に座っているカップルの女の子。熱いのか、息をふきかけながら食べる様子は同じ女から見てもかわいらしいと思う。…けど。


「食べるものくらい好きなものを食べたいもの。食べるもので見方を変える人は好きじゃない」

「…へへ」

「…?なんで笑ってるの…?」

「いや、琴里らしいなって。俺、琴里のそういうところ好きだよ」

「んなッ」


べちょ。麺がテーブルに落ちてしまった。慌てて鞄からティッシュを出して拭くものの、私の心の中は穏やかじゃない。
落ち着け、落ち着くのよ琴里。善逸くんは別にそういう意味で言ったんじゃないんだから。というか、いつもの他の女子たちと話すようなあの慌ただしさはどこに行ったの。
こっそり、深呼吸。ちらッと善逸くんに目を向けてみても手元のカルボナーラを一生懸命つついていて、なんとなく残念なような、安心したような、複雑な気持ちになった。
…残念って何がなの。


「あれ、我妻じゃん」


食後の水をちびちびと飲みながらこれからどうするか善逸くんも話していると、唐突に声がかけられた。ぱッと顔を上げると、同じクラスの男子が数人善逸くんの後ろに立っていた。


「こんなところで何してんの?…って、え、こっちの子ってもしかして彼女!?」

「嘘!めっちゃかわいいじゃん!」

「えっと…」

「ふふん、かっわいいだろー?」


どやさ、と胸を張る善逸くんをよそに、クラスメイトは興味津々、といったように私を囲む。というか、もしかして彼らは気付いていない…?
だとしても、こうやって囲まれて見下ろされるのはちょっと…怖い。


「なぁなぁ、この後俺らと行動しない?あ、もちろん我妻も一緒だからさ」

「いや、私は…」

「そんな緊張しなくてもいいって!俺たち我妻のクラスメイトで、怪しくないから!」


怪しくないって自分で言うんだ…。いや、でもほんと、正直な話これ以上は本当に近付いてほしくない。
もはやトラウマと化した小学生の時の記憶が脳裏を掠める。彼らがあの時の教師みたいなことをする人間じゃないってわかってる。曲がりなりにもクラスメイトで、どういう人たちかっていうのは見てるから知ってるはずなのに、その気持ちとは裏腹にどうしようもなく震えてしまう体にげんなりした。


「よかったらみんなでゲーセンとか…」

「ごめん、俺たち今日は遠慮しとく」


俯いた視界に映る服の色が変わった。今日で見慣れた服の色は紛うことなき善逸くんで、クラスメイトたちと私の間に割って入ってきてくれたらしい。


「琴里、すっごい人見知りなの。だから、そうやって囲んだら怖がっちゃうでしょうが」

「あ、ごめんな!ちょっと威圧感感じ……え?琴里、って…」

「じゃ、そういうことで!」

「お、おい我妻!その子もしかして…!」


私の手を掴んだ善逸くんは器用に食べ終わった食器を持って、それを返却口に返してから私たちはフードコートを後にした。


「やったね琴里!変身大成功!あいつら、琴里だって気付いてなかった!」

「ちょ、善逸くん…!」

「ご、ごめんごめん!痛かった?」


手首を離され、隣あって歩く。


「にしても、そんなにわからないものなのかね。あまりにも気付かないから琴里の名前出したんだけど…」

「…あ、だからあのタイミングで…」

「だってせっかくかわいくしたんだから気付いてほしいじゃん!ま?俺は琴里がどんな格好していようとすぐにわかるけどな!」


ふふん、と胸を張る善逸くんに呆れ半分で息を吐く。ほんと、そういうところだよ。


「…もう大丈夫?」

「え?」

「琴里、ちょっと怯えてたろ」

「そんなこと…」

「あった。何年幼馴染みしてると思ってるの。琴里のことくらいわかるよ」


助け舟を出してくれたんだ。相変わらずよく見てるというか、なんというか。…けど、何度もそれに助けられてるのだから、何も言えない。
私のことを見てくれている。嬉しい反面、だったら私の気持ちにも気付いてよ、なんて。


「(私の気持ちって…何…)」


答えなんてすぐそこまで出かかっているにも関わらず、ひねくれて臆病な私はそれに知らんふりをする。ほんと、天邪鬼にもほどがある。けど、認めてしまえば、今までのように善逸くんと接することができなくなってしまいそうで怖い。
施設内マップと睨めっこしている背中を横目に、行き場のない思いを胸に燻らせた午後だった。