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5 コーディネートはシックに




待ちに待った休日だけれど、生憎私には誰かと遊んだりする予定なんてない。たんに友達がいないだけなのだけど、別段それが寂しいとか思ったことはないし、困った事はない。……あ、嘘。一つ困った事はある。授業で「二人組みになってください」っていうの。あれの気まずさときたらたまらない。先生はもっと配慮すべきだと思う。

…なんて、責任転嫁しながら誰に言うわけでもなく言い訳をする。だいぶ話は逸れたけれど、つまるところ私は休日を一人で過ごせるタイプの人間だという事だ。
今日もストーリーが途中だったゲームの続きやって、飽きたら本でも読んで過ごそうかと思っていたんだ。部屋に引きこもるためのおやつも準備したし。


「琴里、ちゃんと鏡の前に立ってくれなきゃ合わせられないだろ」

「………」


…なのに、どうして私は善逸くんと服屋巡りをしているのだろうか。疑問符ばかりが頭上を飛び交う私をそっちのけで、善逸くんはあーでもない、こーでもない、とハンガーを私にあてがっては戻してを繰り返している。
…というのも、朝の8時を過ぎた頃に急に私の携帯に「出かける格好して俺ん家集合」だなんて簡潔なメッセージが届いてたのだから、てっきり竈門くん宛に送ろうとして普通に誤送信したのだと思ったよね。
だから念の為に「私竈門くんじゃないよ」って送ったら今度は電話がかかってきて「いや、知ってるけど」って言われた。
なんにせよ、ただの用事だったらメッセージですむはずなのにわざわざ呼び出すということはそれなりの用事があるということで。とりあえず適当なパーカーとスキニーに着替えて隣の善逸くんちに行けば、私の顔を見るなり深刻そうな表情を浮かべてため息を吐かれてしまった。どうして。

そうしてあれよあれよと手を引かれるがまま連れていかれた先は電車で何駅か行ったところのショッピングモールで、私は冒頭の現実逃避に戻るのであった。


「ちょっと琴里、聞いてる?」

「あー、うん…聞いてる…そのスカートかわいいね」

「いや見てるのワンピースだから。もぉー!自分の事だろ?琴里はどういうのがいいとかないの?」

「どういう…」


そんな事言われても、正直あまりよくわからない。自分に何が似合うのかとか、はやりの服装とか、チンプンカンプンだ。普段は今みたいにスキニーとパーカーだったりTシャツだったり、ラフなものが多い。
…けど、強いて言うなら…


「あまり派手じゃないもの…?」

「じゃあ、これとこれと…これ持って試着室入って」

「え、これ私が着るの…?」

「逆になんで俺が着ると思ったんだよ…」


だってあまりにも善逸くんが楽しそうに選んでるから…。
そう言うと善逸くんはなんとも言えない渋い顔をした。なんか…ごめん…。


「…にしても、本当…どっからこんな知識身につけてるんだろう…」


半ば駆け込むように試着室に入った私は、今まで着てたパーカーやスキニーを脱いで善逸くんから手渡された洋服を着込んだ。上はシンプルな黒い無地のカットソー。チェック柄のスカートは…えっと、タイトスカートって言うんだろうか…。
まじまじと鏡に写った自分を見て、似合ってるかどうかはさておき、私ってこんな格好もできるんだ、なんて思った。
…けれど、普段こんな格好をしないから、謎の気恥しさに苛まれて中々試着室から出れないでいる。あ、待って。別にこれ着たまま出なくてもいいんじゃ…?パーカーに着替えて「着たよー」って報告だけでもよくない…?よしそれでいこう。
そうと決まればさっそく着替えようとスカートのファスナーに手をかけた瞬間、スマホにメッセージアプリの通知が届いた。


琴里の事だから服着た後にまた着替えると思う。パーカーに着替えるなよ。


……読心術か何か心得ているんだろうか、善逸くんは…。長年幼馴染みしてるから、私の事なんて筒抜けなんだろうか…。なんにせよ、司令が出てしまったのなら渋々このまま出るしかない。着替え終わった旨のメッセージを飛ばして、緊張で震える手でカーテンを開けた。


「あ!!めっちゃ似合ってる!!」


カーテンを開けた目の前にいた善逸くんが、私を見るなり嬉しそうに声を上げた。


「うんうん、やっぱり俺の目に狂いはなかった!シフォンスカートにするか悩んだけど、今回はシンプルに纏めてみたんだけど、どう?」

「…私、こういう感じの服装好きかも…」

「そっか…よかった」


少し安心したような、嬉しそうに笑う善逸くんに心臓がざわめく。なんか、最近の私はちよっと変だ。誰かの言葉に一喜一憂するなんて。これじゃあまるで……。


「柄物を履くなら上はシンプルな無地にしたらいい感じに纏まってくれるぜ」


そこまで考えて、善逸くんの声にはッと我に返る。私、この前から変だ。「そうなの?」と咄嗟に答えると、善逸くんは私の体をくるりと回して鏡に向かい合わせた。


「今着てる服の雰囲気を参考にすればいいよ。靴はミドルブーツとか合わせてみるのもありかも」

「なるほど…」

「てことで、これ履いて、ここで待ってて」


善逸くんに言わせるがまま黒いブーツに足を入れて、その辺にいた店員さんに声をかけてそのままどこかへと行ってしまった善逸くんを待つ。私はどうすればいいんだろうか。
ひとまず、いつまでも試着室の前に突っ立っているのは普通に邪魔だから、適当に畳んだ自分のパーカーやらを抱えてその場を離れる。少しだけそこで待ちぼうけしてたら、紙袋を片手に持った善逸くんが帰ってきた。


「はい、これにパーカーとか全部入れて」

「?分かった」

「よし。じゃあ、行こうか」

「え?」

「ん?」

「いや、ん?じゃなくて。え?なんで?パーカー紙袋にしまってる場合じゃないよ。お会計してないんだから着替えなきゃ」

「あぁ、それなら大丈夫。もう終わってるから」

「え?」

「服は買ったし、あとは…」

「ちょ、ちょっと待って!お会計終わったって…!お金…!お金返すよ!」

「いいからいいから!それに俺バイトしてるし、これはちょっと早い誕生日プレゼントってことで!」


誕生日って…私の誕生日まだまだ先なのに…。きっと善逸くんの口実なんだろうけど、あまりにも申し訳なさすぎる。いくら善逸くんがバイトしてるからといって、服を買ってもらうのはしのびない。だけど、私が何を言おうと善逸くんは頑なにお金を受け取ってはくれなかった。
なおも食い下がろうとすれば、善逸くんは「じゃあ駅前のクレープ奢ってくれよ」と言って私の手を引いて店を出た。「ありがとうございましたー」と言う店員さんの高い声を聴きながら、申し訳なさと嬉しいって気持ちが綯い交ぜになった複雑な心境を胸に心無し足取りが軽い善逸くんの背中を追いかけた。