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4 三つ編みを解く




ちらり。ちらり。ことある事に投げかけられるクラスメイトからの視線に、私は人知れずため息を吐いた。
理由は自分でもわかっている。顔を覆うほど長かった前髪をばっさり切ったのが周りからすれば物珍しいのだと思う。
…あぁ、あともう一つ。


「白井さん、なんかいつもと違うくない?」

「髪がふわふわしてるんだって。パーマ?それともくせ毛?」


こそこそ話をするクラスの女子の言う通り、いつも三つ編みをしていた私の髪はほどかれたことによってくせ毛のような、見る人からすればパーマのようなウェーブが出ていて緩く波打っている。
…というのも、これも善逸くんの発案なのだけど。寝る前に髪を三つ編みにして、朝起きた時にほどけばパーマ風になるのだと言って私の髪をいじっていったのは彼である。

というか、彼は一体どこからこんな知識を引っ張ってきているんだろう…不思議で仕方がないうえに男の子がこういうのに詳しいことってあるの?って思ったけど、よくよく考えたら美容師やメイクさんでも男性がいるからおかしなことではないのかもしれない。詳しい人は詳しいだけのこと。偏見はよくない。


「でも、急にどうしたんだろうね。白井さんからしたら結構なイメチェンだよね」

「もしかして、好きな人ができたとか?」

「えー嘘ー!」


…なんか、結構好き勝手言われている気がする。まぁ、相手になんてしないけれど。だって、変に否定しようものなら逆に火種をつけることになるのは明らかだ。こういう手の話は放っておくのに限る。

けど…


「好きな人、かぁ…」


誰にも聞こえないよう、ぽつり、こぼす。変わりたいって思ったのは事実だ。だけど、私はどうして変わりたいだなんて思ったんだろう。


ー『ほら、やっぱりかわいい』


唐突に先日の出来事がフラッシュバックした。遮るものが何もなくなった視界の中で笑う善逸くんを思い出して、ぎゅ、と心臓が変な風に音を立てる。…いや、いやいや、違う。多分きっと、そう…違うの。幼馴染みとして彼のことは好きだよ。こんな私と真摯に向き合ってくれるのって善逸くんぐらいで、それに私が救われているのも事実。…なら、どうしてこんなふうに心臓がしめつけられるの。


「ウィッヒヒ」


不意に教室のすみっこから変な笑い声が聞こえた。ちらり、そっちを見やると、いつも一緒にいる竈門くん、嘴平くんがその笑い声の主…善逸くんを心底ドン引きしたような顔で見つめていて。
…というか、善逸くんはどうしてそんな不気味に笑っているの…?なんか、その…


「善逸…気持ち悪いぞ…」


今まさに私の内心を代弁した竈門くんに赤べこのように心の中で頷く。いや、でも本当…気持ち悪いよ…善逸くん…
そのあと彼らが頭を突き合わせて何を話していたかはここまでは聞こえなかったからわからない。なんにせよ、いつまでも好奇の視線に晒され続けるのは割と心臓にくるものだ。
図書室にでも行こう…。そう思って、立ち上がる。図書館は静かだし、誰も干渉してこないから私は好きだ。本というひとつの世界に没頭できる完成された空間は私にとって心地のいい場所だから。
騒がしい教室を誰にも気付かれないようこっそりと抜け出し、廊下を歩く。角を曲がって、階段に刺しかかろうとした瞬間、どん!と前から来たであろう誰かに思いっきり正面からぶつかってしまった。


「いった…」

「ご、ごめんなさい…!ちゃんと前を確認してなくて…!大丈夫ですか?」

「あ、いや、大丈夫…私こそ前を見てなかったから…」


尻もちは付かなかったものの、さっきの衝撃で手に持っていた本たちを落っことしてしまった。廊下に散らばる数冊の本を集めるべくしゃがみこむと、ぶつかって来た本人も一緒になって拾ってくれた。「本当に、ごめんなさい」別にもう気にしなくていいのに。
ちらり、と横目で見てみれば、その子は中等部の制服を着ていた。


「はい、どうぞ」

「ありがとう、拾うの手伝ってくれて」

「いえ、元はと言えば私がぶつかってしまいましたから」

「…高等部に何か用事?」

「え?あぁ、お兄ちゃんに渡すものがあって…」

「お兄ちゃん…」

「竈門炭治郎って言うんですけど…」


竈門炭治郎。突然飛び出てきたクラスメイトの名前に目を見張った。彼に兄弟がいる事は知っていたけれど、まさかこんなにも美人さんだとは思わなかった。いや、彼自身もかわいらしい顔をしているし、目の前の彼女も、よくよく見てみれば目とか竈門くんにそっくりだった。
兄弟揃って美男美女かぁ…。


「竈門くんなら教室にいるよ」

「本当ですか?ありがとうございます!」


ぺこり、一礼して去っていく竈門くんの妹さんを見送る。礼儀正しくていい子だったなぁ。
なんて事を思いながら階段を降りた。「禰豆子ちゃん!?どどどどうしたの!?俺に会いに来てくれたの!?そうだよねそうに決まってるよね!!」「善逸、うるさいぞ!!」そんな声が教室から聞こえてきて妙に心臓が軋んだような気がしたけど、きっと気のせいだ。