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1 地味?とんでもない!




俺には幼馴染みがいる。名前は白井琴里。家も隣同士で、お互いの家を行き来するくらいには仲がよかった。性格は至って大人しく、控えめ。長い黒髪に、同じく顔の半分ほど長く伸ばした前髪。座る時も歩く時も猫のように曲がった猫背。極めつけには分厚い瓶底メガネが顔を覆っていた。
委員長スタイル、と言えば聞こえは言いが、クラスメイトたちは琴里の事を貞子だの地味子だの、言いたい放題だ。

…まぁ、たしかに見てくれはそうだと思う。琴里、髪長いし、あまり誰とも関わらないし、笑ってるところなんて数回しか見たことがない。事情も知らない人間からしたら普通に不気味だから、琴里は皆から敬遠されている。……昔はそんなことなかったんだよな。ちゃんと笑ってたし、喋るし…かわいいんだぜ、笑ったら。こう、なんて言ったらいいんだろう、花が咲いたみたいな、そんな感じ。


「あの、白井さん、日誌なんだけど…」

「…書きます。置いておいてください」

「あ、うん…」


日直当番であるもう一人の男子に淡白に返す琴里を見て、ため息を吐く。喋り方が敬語だから余計に遠巻きにされるんだよなぁ…

クラスメイトは…というか、この学校の人間は誰も知らない。琴里は本当はすっごく美人なんだ。色白で、目は切れ長だけどぱっちりしてる。ちょこんと乗った小さな鼻に桜色に色づくぷっくりとした唇はきっと触ったら柔らかい。
スタイルだっていいはずなのに、猫背になることでそのよさが全部隠れてしまっている。貞子だ?地味子だ?んなわけあるか。俺の幼馴染みは天使じゃい。

…琴里は隠しているんだ。自分の容姿も何もかもを。どうしてかはわからない。ある日突然あんな風になったし、本人は何も言わない、聞いたとしてもはぐらかされるけど、だからと言って俺が琴里との接し方を変えるかと聞かれれば答えは否、だ。

…だけど、やっぱり幼馴染みが悪く言われるのは嬉しくない。


「なぁ善逸、聞いてるのか?」

「んー?」

「聞いてないな」


はぁ、とため息を吐く炭治郎を横目にスマホをスワイプする。なんてことのない、電子書籍化された雑誌だ。女性誌ではあるけど、この服琴里に似合いそうだなーとか、こういう化粧なら琴里の切れ長の目を際立たせるんだろうなぁとか、そんなことを思いながら流し読みしていると、とあるページに視線が釘付けになった。
両面一面にでかでかと書かれた文言は、今の俺がきっと探し求めていたものだ。


“恋人をあなたがプロデュース!!”


「これだ!!」

「うわッ」

「んだよ紋逸!いきなりでけぇ声出すんじゃねぇよ!」

「これだよ、これ!そうだよ、本人がしないなら俺がすればいいんじゃん!はーー俺天才かよ。天才だな。今まで蓄えてた知識はこのためにあるんだな!」

「…おい、権八郎、紋逸がぶっ壊れたぞ」

「とりあえずそっとしといてあげような」


何やら約二名ほどこそこそ話しているが、今はそんなのどうだっていい。恋人じゃないけど、琴里を変えるのには打って付けの殺し文句だ。残念ながら恋人という真柄ではないけども。
LINEを開いて目的のアイコンをタップして文字を打ち込む。画面に俺のメッセが送信されたのを確認して、窓際に座る琴里を見る。ちょうどLINEを見てくれたところみたいで、ほんの少しびっくりしたような音をさせて横目で俺を見たから、軽く手を振った。…ら、普通に逸らされて心が折れるかと思った。
なんにせよ、必要なもの取り揃えて琴里の家に行くことには変わりない。

絶対に!ぜぇーーーーったいに琴里をかわいくして、地味子だなんて言わせないようにしてやるからな!

メラメラと人知れず燃える俺を心底面倒くさそうに見つめる炭治郎と伊之助がいたのは俺の知る由もない。