続 ゴーストバスターかまぼこ | ナノ
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -
06




あの後、私たちは善逸くんがいるであろう神社に行ったはいいものの、彼のおじいさん…桑島さんに「大丈夫だから帰りなさい」と言われてしまい、善逸くんへの手土産だけ渡して結局引き返してしまった。


「もおおー…私の馬鹿…」


ぼっふん。布団に倒れ込み、ごちる。桑島さんが言うのならと後ろ髪引かれながらも帰って来たけれど、正直な話、絶賛後悔中である。

だって、桑島さんは善逸くんの祓い屋のお師匠様で、その桑島さんが善逸くんは大丈夫だって言うんだったら引くしかないじゃん…。
自分のあまりにも弱すぎる意志にほろり、と涙がちょちょ切れだ。

もんもんと考えこみながら布団を転げ回る。そうしていると次第に瞼が重たくなってきて、気付けば深い海に沈むように眠っていた。





***



真っ暗だった。上も下もわからないくらいの闇は、目の前に翳した私の手すら飲み込んでしまうほど深いものだった。


「(ここは…ーー)」


口を開こうとして、ごぽり、代わりに気泡のようなものが口から漏れ出る。体も、全身に何かがまとわりついて重い。まるで光が届かない深海にいるみたい。
…変な夢だなぁ。

ふと前方からふよふよとした何かが近付いてきた。淡く発光するそれは私の周りをくるりと回るだけで何もしてこない。ふ、と肩の力を抜いた瞬間、ぱちん!いきなりそれが目の前で弾けた。同時に、映像のようなものが目に映る。

ーー電車だった。ひどく古ぼけた内装に、不気味に明滅する蛍光灯。そして数人の乗客は、片側の座席だけに並んで座っていて、その中に見覚えのあるたんぽぽ頭を見つけた。


「(善逸、くん…?)」


ぱちん。場面が切り替わる。一番端に座っていたお婆さんが、車掌の姿をした黒い人影に群がられて刃物で滅多刺しにされていた。目玉をほじくられ、内臓を引きずり出されているその光景はあまりにもショッキングで、せり上がってきた吐き気に口元を押さえた。

なんで…なんで誰も気にとめないの…他人とはいえ、人があんな事になってるのに…!


「ッ…」


誰も、何も気にしていない。一瞥もくれないで、ただぼんやりと下を向いているのは狂気の沙汰でしかない。…善逸くんですら、見向きもしないなんておかしすぎるよ…

ぱちん。また場面が変わった。さっきまで床一面に血やら臓物が巻かれていたというのに、次の瞬間にはきれいさっぱりなくなっていて、今度は小学生くらいの男の子が立たされていた。


“次は〜、挽き肉、挽き肉です”


どこからともなく現れた大きな機械。ゴウンゴウンと不穏な音を響かせるその中に黒い人影たちの手によって男の子が放り込まれる。骨が砕かれる音。肉を断つ音。機械の後ろからきっとさっきの男の子だったであろう肉が床に落ちていく。

目を、閉じた。あまりにも、惨たらしすぎる。なんで誰も助けないの…なんで誰も逃げないの…なんで私は、こんな夢を見ているの…?こんなの…


「目を逸らすな」


耳元で声が聞こえた。


「見て、気付け。今ここにいるお前にしかわからない」


女の人の声。
気付くって何?私、もう見たくないよ。だつてこんな…あんまりだ。


「これを逃すと、もう二度と救えない。それでもいいの?」


はッ、と目を開けた。同時に飛び込んでくる惨劇にまた目を閉じそうになるけれど、それをどうにか堪えて映像を見つめた。
依然として、機械は動いたままである。べちゃべちゃと落ちていく肉塊に込み上げる何かを無理矢理嚥下してーーぱちん。場面が変わる。


「(……え?)」


さっきと同じように忽然と消えた惨劇。夥しい量の血も何もかもがなくなって、今度はサラリーマンの男の人が立たされていた。
違和感があった。小骨が喉に引っかかるような、奥歯に何かが挟まるような、そんな違和感。凝視して、観察して…ふと、善逸くんを含めた乗客の位置が変わってるような気がした。
内臓を引きずり出されたり、挽き肉にされたり、そっちばかりに目を向けていたから気付かなかったけど、明らかに善逸くんがさっきまで座っていた位置が変わってる。誰かの惨劇が終わると同時に、善逸くんも着々とそっちに近付いていってるような…

そこまで考えて、ぱちん!目の前が真っ白に弾けた。





***



「ッ…!」


がばり、起き上がる。ばくばくと脈打つ心臓は今にも口から飛出そうで、とめどなく湧き出る汗はびっしょりと寝巻きを濡らして気持ちが悪い。
…わかってしまったかもしれない。いや、多分きっとわかった。誰かが惨劇を迎えれば迎えるほど、善逸くんがそっちに近付いていっている。座席に座っている順番に殺される…?善逸くんのところまであと5、6人だったはず…なら、それまでにどうにか善逸くんを起こさないと、善逸くんが殺される…!

布団を蹴り飛ばして、急いで寝巻きを脱ぎ捨てる。引き出しから適当に引っ張り出してきた服を身につけて、必要最低限の物だけ持って家の鍵を握りしめた。


「…これも持って行こう」


家を飛び出し、夜道を走る。普段この時間帯に外なんで出歩いた事なんてなかったから変な感じだ。

生温い風が吹き抜ける。今日はとても細い三日月の夜だった。