続 ゴーストバスターかまぼこ | ナノ
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04




何の変哲もない、1日だと思っていた。


「…で、あるからして、織田信長は本能寺にて…」


歴史の教科担当である煉獄先生が教科書を読んでいるのを片耳に入れながら、私はぽけぇっと窓の向こう側を眺めていた。


「(あ、善逸くんだ)」


この時間は隣のクラスがグラウンドで体育をしているようだ。喧騒と共に動き回る彼らの中に一際目立つたんぽぽ頭を見つけて、口元が緩む。「おーい、鳩間少女」何となく善逸くんを目で追っていると、すぐ側で何やら気配が…


「窓の外を眺めるのもいいが、今は黒板を見てくれると助かるな」

「…!!す、すみません…!」

「今やってる所は次の定期考査に出るから、ちゃんと聞くように」

「は、はい…」


「じゃあこのページを読んでくれ」煉獄先生に指定された箇所を慌てて朗読する。ちらりと横目で見た炭治郎くんは「あちゃー…」と言いたげに眉を下げていて、何だか急に恥ずかしくなって教科書に視線を落とした。
言われたところを読み終わって、座席に座る。もう注意されないように気を付けないとなぁ…なんて思うものの、私の視線は性懲りも無くまた窓の外に向けられるのだった。

グラウンドを動き回る善逸くんは、ギャーギャー騒ぎながらも楽しそうだ。だけど、どうしても寝不足だからか少しだけ反応が鈍いような気がする。ほら、今もボールが後頭部にぶち当たって……


「!?」


ガタガタッ!と思わず立ち上がってしまった。「き、急にどうした鳩間少女」しばらく呆然と見つめるものの、戸惑う煉獄先生の声ではッ、と我に返る。気付けばクラス中が私に注目していて、恥ずかしいやらなんやらで頭が爆発しそうになったけれど、それでも今しがた後頭部にボールをしこたまぶつけた善逸くんが心配で仕方がない。


「す、すみません…虫が飛んできて、びっくりして…」


返せた言葉はこれだけだった。煉獄先生から再び注意を受け、再開される授業だけど、どうにも集中なんでできない。
ちらりと横目で見たグラウンドにはもうあのたんぽぽ頭はいなくなっていて、きっと保健室に運ばれたのかなって思った。


「(…あとで保健室に行こう)」


心配なのは変わりない。だけど、気になりすぎて気をよそへやってたらまた煉獄先生に怒られてしまうから、なんだか妙に逸る心臓を無理矢理押さえ込んで黒板を見つめた。





「ちょっと行ってくるね」


授業が終わって早々。軽く煉獄先生からお叱りをもらってから、教材を纏めるのもそこそこに教室を飛び出した。「いってらっしゃい」「うん!」出際に炭治郎くんに見送られて、軽く後ろ手に手を振る。彼はどうやら私がどこに行こうとしているのかわかっているみたいだった。
走らない程度に急ぎ足で保健室に向かう。こんこん、小さくノックしてから横開きのドアをスライドさせると、保健室特有のなんとも言えない匂いが鼻をついた。


「どうかされましたか?」


なんとなく入るのが憚られて入口でたたらを踏んでいると、準備室であろう場所から珠世先生が出てきた。
相変わらず綺麗な人だなぁ…。なんて見惚れる。

……見惚れている場合じゃなかった。


「あの、ぜん…我妻くんは…」

「我妻くんならついさっき早退しましたよ」

「え?」

「彼の兄だと言う方が迎えにこられて、我妻くんを背負って行かれました。鳩間さんとちょうど入れ違いだったから、もし追いかけるのであれば今から走ればまだ間に合うかもしれませんよ?」


珠世先生にそう言われて、一瞬頭を悩ませた。善逸くんの事はめちゃくちゃ心配だけど、ちゃんと迎えが来てくれるのなら安心ではある。それに、今から追いかけて戻る頃には休み時間が終わってしまうから微妙なところはあるのだ。
…早退できたのなら安心、なんだけど…


「(なんだろう、この、妙な胸騒ぎ…)」

「鳩間さん?」

「へ、え?」

「顔色が悪いですよ…?体調がよくないんじゃ…」

「だ、大丈夫です!教えてくれてありがとうございました」


失礼します。そう告げてから保健室を後にした。
さっきからずっとだ。さっきから私は変に気が急いでいる。焦っているような、誰かに心臓を握られているような緊張感をずっと感じている。
このまま善逸くんを見送れば、もう会えないような気がしてならない。


「杜羽!」


不意に名前を呼ばれた。ずっと考えながら歩いていたせいで自分の教室まで来ていた事に気付いてなかったや。
通り過ぎる直前で炭治郎くんに声をかけてもらわなかったら、私は廊下の突き当たりの壁に突撃をかましていただろう。


「善逸の様子はどうだった?」

「お兄さんが迎えに来てくれて早退したみたい」

「え!?そ、そうなのか…?」

「どうかした?」

「いや、善逸の鞄が教室に置きっぱなしみたいなんだ。だから、今日の放課後に届けに行こうと思って…」


ふむ。思案した。なんとなく、本当になんとなくだけど、この機会を見逃しちゃダメな気がする。


「あのさ、炭治郎くん…」

「ん?どうかしたか?」

「私もついて行ってもいいかな…?善逸くんところに行くの…」


ぱちくり、目を瞬かせる炭治郎くんの目を見つめ…いや、半ば睨み返すように見つめた。
ただの胸騒ぎであってほしい。眠れない夜と、げっそりする程悪夢を見る善逸くんに追い討ちをかけるようにぶち当たったボールに心配になっているだけならいいのだけれど…


「わかった、なら、伊之助も呼んでみんなで行こうか」


どうか杞憂であれと、願わずにはいられない。