続 ゴーストバスターかまぼこ | ナノ
02
私はどうも幽霊だの悪霊だのに好かれる体質だったそうで、昔から何かしらをくっ付けてきてちょっかいをかけられたりされてきたわけだが、紆余曲折あってようやく念願の平凡な女子高生になる事ができた。
「んー…!いい天気だなぁ」
小さなベランダに出て大きく伸びをすると、固まっていたらしい背骨がパキパキと音を立ててちょっぴりぎくり、と心臓を震わせる。
もう一度朝の清々しい空気を肺いっぱいに取り込んでいると、起き抜けにセットしておいたトースターが軽快な音を立ててパンが焼けた事を教えてくれた。部屋に戻り、コップに賞味期限切れ間近の牛乳を注いでパンを齧る。因みに余談だけど、私の家にバターなんて高価なものはない。…だけど、最近は実家がパン屋の炭治郎くんにおすすめだからともらったブルーベリーのジャムを塗って食べる事の方が多い。素材の味を楽しむのもいいけれど、ブルーベリーの甘みと絶妙な酸味をパンに乗せて食べるのもいいかもしれない、だなんて。
きっとこれは、私一人だったら頑固にもやらなかった食べ方だっただろうなって、心優しい友人たちを瞼の裏に思い浮かべて小さく笑った。
「……ん"ッ!?も、もうこんな時間…!?」
ふと時計に目をやると、普段私が家を出る時間から10分ほど針が先に進んでいた。残りのパンを慌てて口に詰め込み、牛乳で胃の中に流し込む。途中詰まって苦しかったけど、それは無理矢理嚥下する事によって事なきを得た。
「い、いってきます!」
何事もなくなった今でも、もはや癖で持ち歩いている竈門印の塩袋と善逸くんからもらったお守りを手に取り、誰もいない小さなワンルームに向かって叫ぶ。当然私は一人暮らしであるため、返事は返ってこないのだけど…
ーいってらっしゃい
ふわり、暖かな気配を肌に感じ、もう一度小さく「いってきます」と呟いてからドアを閉めた。
「おはよう」
教室に行けば、もうすでに顔馴染みの何人かが登校していて、その中に炭治郎くんと伊之助くんこと親分を見つけて軽く手を振った。
「おはよう親分、伊之助くん!」
「子分、あんぱんくれ」
「今日は持ってないよ…」
「伊之助、そう毎日杜羽のパンを狙うんじゃない。俺のメロンパンあげるからこれで我慢してくれ。な?」
「権八郎がどうしてもって言うんなら、もらってやらん事もない!」
「そうか!ありがとう!」
手馴れてるなぁ。炭治郎くんからもらったメロンパンを頬張る親分を横目に自分の席に座る。予鈴はまだ鳴らない。
「あ、善逸くんだ」
予鈴が鳴る時間が迫るにつれ増えていく生徒たちに紛れて、見覚えのあるたんぽぽ頭を見つけた。風紀委員の立番が終わったのだろう、少し疲れたような顔をして歩いていた。「善逸くん、おはよう!」炭治郎くんたちに一言断って善逸に駆け寄れば、振り返った彼はまるで血の気が引いたかってくらいに顔が真っ青だった。
「ぜ、善逸くん、どうしたの!?顔が真っ青だよ…気持ち悪い?どこか痛いところでも…」
「いや、どこも悪くないんだよ…ただ…夢見が悪くて…」
夢見が悪い。確かにそう言う善逸くんの目の下は墨を塗ったくったみたいに真っ黒だった。
「あまり、眠れてないの…?」
「ん、まぁ、ね…けど大丈夫!ただの寝不足なだけだし、ほら、この通りピンシャンしてるかんね!」
「本当…?無理してない…?私心配だよ…もし何か力になれる事があるなら言ってね。私にできる事ならなんでもするよ!」
「へへ、ありがとぉ」
ふにゃり、笑う善逸くんは「じゃあ、俺んとこもうすぐHRだから」と自分の教室に入って行った。
「杜羽」
「…ん?」
「心配なのはわかるけど、とりあえず今は席に着こう。もうすぐ先生が来る」
「…うん」
炭治郎くんに促され、私は自分の席に着いた。まもなく担任が教室に入ってきて、朝のHRが始まる。
……善逸くん、顔が真っ青で、今にも倒れそうだった…。本人は大丈夫だなんて言うけど、本当はあまり大丈夫じゃないんじゃ…
目の下にできた真っ黒な隈が、善逸くんの寝不足の程を語っている。
「夢見が悪い、かぁ…」
ぽっつり、呟いた言葉は、誰の耳に入る事なく空気に溶けた。