続 ゴーストバスターかまぼこ | ナノ
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映写機で見ているような、実体験をしているような、不思議な感覚だった。
その子と同じ目線になりながらも、だけどどこか第三者として離れた場所からが見ているような、そんな感覚。

なんて切なくて、悲しくて、残酷。まだ小さなその子が背負うにはあまりに大きすぎた。
見ているものを通して、不安。悲しみ。疑問。苦しみ。諦め。その他多くの負の感情が号哭となって私の中に流れ込んできた。


「(すごく、苦しい)」


深海に沈められたような息苦しさだった。周囲の言葉は鋭い刃となって全身を貫いて、本当に、苦しくて、苦しくて、悲しくて、どうしようもなくて…ーー
あぁ、涙が。私が泣いては意味がないのに。なのにどうして、涙が止まらない。私の涙じゃない。これは…ーー


「人って、生きている限り誰にでも心の内に何かを巣食わせているものだよ。それをかわいそうだとか、不憫だって思うのは同情で、だけど、同じ痛みを知るおねえちゃんなら、あの人の手を掬い上げることができる」


背後からそっと目を塞がれる。不思議と怖いって思わなくて、むしろ懐かしい気持ちが胸に溢れる。両目を覆われ、閉ざされた視界の中に聞こえる誰かの声ははっきりと力強く私の耳に届いた。

いいのかな。いいのかな。私でいいのかな。こんな私が、何もできない、してもらってばかりな私が手を伸ばしてもいいのかな。


「自分が思う事をそのまま伝えればいいんだよ。飾らない、真っ直ぐなおねえちゃんの本心をあの人に言ってあげて。心細いと感じるなら、大丈夫。おねえちゃんはひとりじゃないよ。だから、あの人の事もひとりにしないであげて」

「……うん」


私の目を塞いでいた手がゆっくりと離れていく。すごく泣きたくなって、だけど、いつまでも泣いてばかりじゃいられない。歩かないと。
右足を前に出す。次に左足を踏み出して、右、左、右、左と交互に。ゆっくりと歩いていた足は、気付けば何かを振り払うように駆け出してした。背後にあった気配が徐々に消えていく。それになんとも言えない寂しさを胸に抱えながら、けれど決して振り返ることなく前だけを見て走り続けた。

ここがどこで、今私がどこにいるのかなんてわからないけれど、不思議とどこへ向かうべきなのかはわかっていた。走れば走るほど、前に進めば進むほどどんどんと暗く空気が澱んでいく。永久の深淵に誘われているみたいだけど、大丈夫、怖くないよ。なぜかそう思う。

……そう、怖くない。怖くないんだよ。だからもう泣かないで。


「善逸くん」


暗い暗い闇に紛れるように膝を抱えて縮こまる小さな少年の体を抱き締めた。私が知る善逸くんよりもずっとずっと小さくて細い体は少し力を入れただけで潰れてしまいそうだった。強ばって、僅かに震える背中をそっと撫でる。大丈夫、大丈夫。宥めるように、言い聞かせるように。そうすると、少しずつ小さな善逸くんの体から力が抜けていくのがわかった。


「…どうして、わかったの…?」


何が?そう聞くのは野暮だ。…いや、聞かずともわかる。この子が何に対してどうしてって問いかけるのか。


「わかったわけじゃないよ。なんとなく気付いただけ」


そう、本当に何となくだったんだ。初めこそ、善逸くんの夢に入ったばかりの時は悪い何かが善逸くんに取り憑いているのだと思っていたけれど、彼と行動を共にして、この世界を歩けば歩くほど私の中に小さな違和感が募っていった。
私は鈍いから、この子に出会うまで微塵もそれを疑うことはなかったし、善逸くんを疑う事もしなかった。今だって疑ったりなんてしていない。黙っていたのも、きっと理由がある。だけど、私はその理由を知っている。

それはきっと…あの頃の私と同じなんだ。


「僕は善逸だけど善逸じゃない。あいつが抱える胸のずっとずっと奥深くに溜まった負の感情が僕だ」


言わなくても、顔に出さなくても、思っていなかったとしても、人間である限り、生きている限り心のどこかでは必ず渦巻いているのだ。それが積もりに積もって、ある拍子に膨れ上がってこの空間を生み出したのだと小さい善逸くんは言う。


「消えてなくなればいいって…そうしたら、辛かったことも、悲しかったことも、全部なかったことになるのにって…」

「…それは、違うよ」

「え?」

「確かに消えてしまえば、これから受けるであろう苦しみも、今まで感じた悲しみも全部なくなるんだと思う。だけど、それじゃあ寂しすぎるよ…。君はそう言うけれど、私にとって善逸くんはどこまでもかっこいいヒーローなんだよ」


嘘だ、と言いたげに小さい善逸くんは私を見たげた。嘘じゃない、嘘なんかじゃないんだよ。


「何もできない、怯えているだけだった私に手を差し伸べてくれたのは善逸くんだった。ただ悪霊として暴走する妹に救いを与えたのは善逸くんだった。怖くても、辛くても、それでも私たちを見放さないでいてくれたのは善逸くんだった。私は…ううん、私“たち”は善逸くんが大好きだよ。だって、善逸くんがいなかったら私も美羽もここにはいない。他の誰でもない、善逸くんが私たちを助けてくれたんだよ」


だから、そんな悲しい事を言わないでほしい。
ぎゅう、と小さい善逸くんを抱き締める腕に力を込めた。そうしたらなんだか目が熱くなって、ぱちり、瞬きをしたと同時に目玉からぼろりと水滴がこぼれ落ちた。
目頭と小さい善逸くんが顔を押し付ける肩が熱い。さっき彼に触れた時の氷みたいな冷たさが嘘のように熱かった。


「君ってほんと、そういうところだよ…なんで許しちゃうかなぁ…」

「許すも何も、私は本心を言っただけだよ。きっと美羽だってそう思ってる。…ねぇ、帰ろうか。きっと皆が心配して待ってるよ」

「……うん」


抱き締める小さな善逸くんに光が集まり、シャボン玉が割れるように弾けた。粒子となった光は暗闇の中上へ上へと登っていき、そして…ーー


ぱちん。


瞬きをした直後、私は学校にいた。