続 ゴーストバスターかまぼこ | ナノ
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善逸くんがどこかに行ってしまった。2人で一緒にこの世界から出るんだって約束したのに、私、何もできなくて見ているだけだった。


「おねえちゃんもぼくを嘘つき呼ばわりするの?」


依然として体は動かない。目の前の子供は俯いたままで、何が目的で、何を考えているのかわからない。私…?いや、多分違う。それならわざわざ善逸くんにコンタクトをとったりしない。


「そんな事しないよね?だって、おねえちゃんだってぼくと同じだから。同じこと言われて、同じような扱いされて…だから、ぼくの気持ちわかるよね?」


子供の手が私の手に触れた。まるで氷のように冷たくて、触れたその場所からどろどろとした黒い何かが私の中に入り込んでいるみたいで…


「うそつきはいらないよ」


だんだんとぼやけていく視界。途切れる寸前、忌々しそうに顔を顰めた、だけど、今にも泣き出してしまいそうなーーくんが見えた気がした。





***



「うそつき!!」


ばしゃッ!!頭から水が降ってくる。全身が濡れ鼠になった少年は呆然と、だけど何も言い返さずに唇を噛んだ。


「こいつ、気味悪いんだ。誰もいないのに一人でずっと喋ってんの」

「この前だって急に叫んだと思ったら、周りにいた子押しのけてどこかに走って行ったりしてたよね…」

「こわ…なにそれ…」


嘘つき。気味が悪い。そういう類の言葉は少年にとって当たり前のものであった。だけど、仕方がない。“視えて”しまうのだから。

少年は物心ついた時から人じゃないものが見えた。神様であったり、妖怪であったり、はたまた、人に害なす悪霊であったり。
そしてさらには、聴覚の優れた少年にはそれらの声が聞こえた。毎日何かしらが少年に話しかけ、構ってもらおうと、気を引こうと、あちら側に引きずり込もうとしていて、けれど、まだ幼い少年には現実とそれらの区別がつかないでいて、それらが別のものだと気付いた時には全てが遅かった。


「おかあさん…」

「ッ…な、何…?どうかした…?」

「……ううん、なんでもない」


家では、母親に話しかけようものなら恐れと怯えの表情をされ、父親に関してはもはや自分をいないものとして扱っていた。
台所でちらちらと少年を見ながら洗い物をする母親。しかし少年には見えていた。母親の隣に佇む黒い人影。3日程前だろうか。その時からずっと母親に憑いているそれに少年は気付いていたが、自分が何か言おうものなら不気味な目で見られる事がわかっていたから、何も言わず、何も見ていないふりをして視線を手元のサラダに戻した。

それから暫くして、母親が死んだ。原因不明の突然死だった。悲しむ人間はもちろんいた。だけど、それ以上に少年の方に注意が向いた。
半年後、父親が死んだ。少年への畏怖と敬遠は拍車がかかり、一人ぼっちになってしまった少年を引き取りたいと言う親戚は誰一人としていなかった。
少年は自分の人じゃないものが視える力を抑えようとした。できるだけ普通に。周りの人間と同じように。だけど、それでもいつかボロが出る。普段から当たり前のように見聞きしているものを無視しようとしても、それらは当たり前のように視界に入ってくるし囁いてくる。気を抜いた瞬間、ふとした瞬間に受け答えしてしまい、バレる。
そんな少年を不気味がってはよそへ追いやっていたため、少年は親戚の家を転々としていた。

そんな少年が14歳の時、出会ったのはとある老人であった。

その老人は少年と同じものが視える人間で、老人は少年が力を自分でコントロールできるように厳しく鍛錬を積ませた。
あまりの厳しさに逃げ出す事もあったけど、老人は少年がどんなに泣いても弱音を吐いても決して見捨てなかった。
そんな老人に少しずつ心を開き、泣きべそをかきながらも必死に鍛錬をした少年。

自分を守る術も、自分と同じような思いをしている誰かを助ける事が出来る力を身につけた少年。だけど、どれほど誰かを助けたとしても、その心の奥底にある深淵はなくなることがなかった。

いくら友達ができようと、祓い屋として力を付けようと、所詮自分は臆病で何もできない。誰かを助けたとしても、誰かを助けて自分が救われた気になってただけ。
生まれた時から色んなものが視えて、怯えられて、怖がられて、罵られて、指さされて、蔑まれて、ずっとずっと一人で、誰からも必要とされない自分なんて消えてしまえばいい。

そんな、黒く黒く淀んだものが、いつまでもいつまでも少年の心に巣食っていた。