続 ゴーストバスターかまぼこ | ナノ
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善逸くんの様子がおかしい事には気付いていた。どこからと聞かれたら首を傾げてしまうけど、明らかに変だなって思い始めたのは私たちが休憩に使った家に入ってからだった。
初めは調子が悪いのかなとか、電車の中で怖い目に遭ったから精神的にも疲れているんだと思っていたんだけど、こう、なんと言うか…うまく言えないけど、言えない事があるのかなって。

ちらり、隣を歩く善逸くんを見つめる。2階のベッドで横になってたって言ってたけど、依然として目の下の隈は濃いままだ。だけど妙に張り詰めているから、いつかそのうちぽっきりといってしまいそうで怖い。そんな危うさを今の善逸くんは持っていた。


「杜羽ちゃん、どうかした?」

「ん、え…?何が?」

「いや、俺の事ずっと見てたから………はッ…!ま、まさか惚れちゃった!?俺に見惚れた!?ならもうデートするしかないよね!!デートしよう!!」

「しません」

「ヴッ…杜羽ちゃあん…」

「というか、何でそういうことになったの!」

「だって俺の事見つめるから、そうなんだと思うじゃあん…」


もう、思い詰めてるから心配してみればすぐこれなんだから。
ぶ、としかめっ面をしてみて…けれどすぐにおかしくなって笑ってしまった。「えッ、えッ?なんで笑うの!?」だって、あまりにも善逸くんの表情がころころ変わるからおかしくって。
それを本人に伝えてみれば、何とも微妙な顔をして私を見ていた。


「…杜羽ちゃん、変」

「…善逸くんにだけは言われたくないなぁ」


切実である。

…私たち、まだ夢の中にいて、帰り方も何もわからなくていつまた怪異に襲われるかわからないのに、私と善逸くんの間に流れる空気はひどく穏やかだ。
現実世界のいつもの日常みたいで、そう言えば桑島さんや獪岳さんはどうしているだろうかとふと脳裏を掠めた。獪岳さんは私次第って言ってたけど、それってどういう…


「杜羽ちゃん」


くん、と善逸くんと繋いでいた手が引かれた。緊張を帯びた声に私まで身構えて、何かいるのだろうかと周囲を見渡す。だけどそんな影は一つもなくて、代わりに近くの場所からきゃらきゃらと笑う子供の声がした。
そこは公園だった。大きすぎず、かといって小さいわけでもないどこにでもある様な至って普通の公園。そんな夕暮れの公園の中で、どういうわけか顔のわからない三人の子供が遊んでいた。


「子供…?なんでこんなところに…」


何となく足が向いた。引き寄せられるように足を踏み出して、二歩目を繰り出そうとした時、勢いよく後に腕を引かれた。善逸くんだった。


「善逸くん?どうしたの?」

「……」

「…?善逸、くん…?」


俯いている善逸くんの表情は読めない。だけど、私の手を握る彼の手が尋常じゃないくらいに震えていて、あの公園で遊んでいる子供たちはそれ程までによくないものなんだって思い知る。
なら、見つかる前に早くここから逃げないと。

どこが隠れる場所…さっきの家に引き返した方が早い…?そんな事を思案しているうちに「ねぇ!」と新しい子供の声が聞こえた。ぴくり。善逸の肩が小さく跳ねた。


「おれもまぜて!」


三人に向かって男の子は言う。けれど三人は顔を見合わせたあと、まるで気味の悪いものを見るみたいに男の子を睨んだ。


「おまえ、へんなことばっか言うからやだ!」

「この前だれもいないところにむかって、一人ではなしてたんだぜ」

「嘘つきはあっちいけ!」


心無い子供の残酷な言葉。そう吐き捨てて三人はどこかに行ってしまった。
賑やかだった公園に静寂がおりる。ぽつねん、と立ち尽くす黒い髪の子供になんとも言えない感情が胸中を渦巻いて、それと同時になんとも言えない妙な気配が背中を粟立たせた。


「………だれも遊んでくれないんだ」


不意に声が響く。私たちと子供の間には多少なりとも距離がある。なのに、小さく囁いたくらいでまるで耳元で話しかけられているような感覚だった。「ひゅッ…」息を飲む音が聞こえた。


「みんなぼくを嘘つきだって言うんだ。嘘なんてついてないのに…ぜんぶ本当で、本当のことしか言ってないのに…」


子供にしては酷く冷めきった声だった。悲しみの中に氷のような冷たさを伴った言葉に私たちは動けないでいた。
くるり、子供が振り返る。俯いてて顔は見えない。だけど、確かに禍々しい何かを感じた。


「お父さんも、お母さんも、クラスの子たちも、先生も、近所のおばちゃんも、ぼくを嘘つきだって言って、気味が悪い化け物だって…」


一歩、一歩、子供が歩いてくる。「杜羽ちゃんッ…!」切羽詰まったような善逸くんの声が聞こえるけれど、私の体はまるで金縛りにあったみたいに指1本動かすことができない。


「…逃げないんだ」


いよいよ子供が目の前にやって来た。逃げないんじゃなくて、逃げれないんだよ。そう言えたらいいのだけど、声すらも発せれないこの状況でそんな事言えるわけがなかった。


「いつもみたいに逃げればいいのに、しないんだ?」


…あれ?私に言ってるわけじゃ、ない…?


「どうして?逃げるじゃん。泣いて、喚いて、見て見ぬふりをして、誰よりも先に逃げるのに、どうして?」


子供の視線は私……ではなく、私の一歩後ろにいる善逸くんに向いていた。
どういう事…?というか、どうしてこの子供は善逸君に声をかけたんだろう…


「…杜羽ちゃんを置いて、逃げれない…」

「逃げたじゃん。見捨てたじゃん」

「それは昔で…!けど今は…!!」

「うそつき」


ぶわ!!唐突に地面から真っ黒い靄が吹き出した。それらは善逸くんにまとわりつくように蠢き、そして…


「ばいばい」


ばくん。飲み込まれるように消えてしまった。