続 ゴーストバスターかまぼこ | ナノ
14
商店街を飛び出した先は住宅街だった。誰もいない、けれど、時々視界の隅を黒く薄い人型の影が横切る。それが何なのかを確認する余裕なんてない。ただ善逸くんに手を引かれるがままついて行って、そうして駆け込んだ先は一軒の民家だった。
なぜかあいていた鍵。善逸くんと私は家に飛び込むや否やがちゃんッ!と鍵とチェーンを閉めて、息を潜めて外の様子を伺う。這いずる音も、不気味な笑い声も聞こえない。撒いた…の、かな…そうだったならいいんだけど…
「…はぁーーー……死ぬかと思った…まさかあんなのに追いかけられるなんて…」
「杜羽ちゃん!!」
「わ!!」
がッ!と善逸くんが私の肩を掴んだ。
「さっきのやつ、見てないよね!?」
「へッ…?」
「上半身だけとかだったらまだいいけど!下半身とか!見てない!?」
「か、下半身…!?」
ど、どうしたんだろう急に…見たとか見てないだとか…。上半身は見た。女の人の顔で、腕が6本あったのを覚えてる。下半身は…多分見てない。這いずる音はずっと聞こえてきてたけど、それだけだ。
それをどうにか善逸くんに伝えると、心底安堵したと言わんばかりにずるずると床に崩れ落ちていった。
「そんなにまずいものなの…?」
「まずいもなにも、もし仮に見てしまったとして、きっとあいつは俺たちを殺すまで追いかけてくるよ。……だからここにまで…」
「善逸くん?」
「…なんでもない。せっかくだから、少しここで休憩していかない?ずっと走ってたから疲れたでしょ?」
「わ、私は大丈夫だよ…!それより、早く帰り方を探さないと…」
「いいからいいから!」
再び私の手を取った善逸くんは土足のまま家に上がる。夢の中とはいえ、ましてや人の家に土足で上がるなんてすごく躊躇したけれど、いつどのタイミングで何が起きるかわからないこの世界じゃ靴を履くその一瞬が命取りになる。
土足でごめんなさい…!心の中で全力で謝りながら善逸くんに続くけれど……うぅ…やっぱり憚られる…!
玄関を入って廊下を抜け、ドアを開けた先はリビングだった。わりとどこにでもありそうな、よく言えば一般的なリビングが広がっていて、テレビの前に置いてあるソファーに座らされた。
「念の為、この世界のものは食べたり飲んだりしないでね」
「わかった。…善逸くんは?」
「俺はこの家を見てくるよ。その間杜羽ちゃんはここで休んでて」
「それなら私も…!」
「大丈夫!!」
「、…」
「…ごめん、急に大声出して…けど本当、俺一人で大丈夫だから…」
そう言って善逸くんはリビングから出て行った。ばたん。ドアの閉まる音が虚しく響き、少ししてから階段を上がる音が聞こえてきたからどうやら彼は2階に上がったみたい。
……この家に来てから…ううん、この“町”に来てから、どこか善逸くんの様子がおかしい。おかしいって言うか、変っていうか…上手く言えないけど、なんとなく何かを隠しているような、そんな気がする。
隠し事、隠したい事は誰にだってある。それを打ち明けてほしいだなんて思う事は傲慢だ。…けど、一人で抱えてほしくないって気持ちも嘘じゃない。あの時私を助けてくれた善逸くんみたいに、私も何か善逸くんの力になれたらって思うのに…
「難しい、なぁ…」
ぐるり、リビングを見渡しながら呟く。当然ながら生活感のないこの空間は、ただ私の声を反響させるだけだった。