続 ゴーストバスターかまぼこ | ナノ
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駅から外に通じる階段を降りれば、そこは変に古臭く、それでいて妙に現代的な町並みが広がっていた。空は相変わらず血を垂らしたように赤い。だからか、夕暮れの町並みにしては嫌に不気味だった。ごくり。隣で生唾を飲む音が耳に入る。


「い…行ってみる…?」

「うん…」


お互い手は離さないまま、ゆっくりと駅を離れて町を歩く。誰もいない。猫も、カラスでさえいないこの町を歩いていると、私と善逸くんたった二人ぽっちが取り残されたみたいな錯覚に陥る。…錯覚どころか、実際にそうなんだけどね。


「……誰もいない」


わかってはいる。わかっているけれど、やっぱりどうしようもなく寂しく感じてしまうのだから仕方がない。「そうだね…」善逸くんの呟きにそれだけを返す。
商店街に足を踏み入れた。背が高くて大きなアーケードと、その中に並ぶお店にそこそこ大きな商店街なんだなと思いながら周りを見渡す。喫茶店。薬局。服屋。小さなゲームセンター。喫茶店。レンタルビデオ屋。服屋。たこ焼き屋。靴屋……ーー

人っ子一人もいない静まり返った商店街は、町の中よりずっとずっと不気味で重たい空気で満ち溢れているのに、所々妙に懐かしい気持ちになるのだから不思議な話だ。


ーからんッ


唐突に私たちしかいないこの商店街に乾いた音が響いた。後ろを振り返ると、離れた場所に転がる空き缶があって。風かなにかで飛ばされてきたのかな、なんて首を傾げる。


「ねぇ、善逸くん」


空き缶を見つめたまま善逸くんに声をかけるけれど、いつまでたっても返事が帰ってこない。「善逸くん?」隣を振り返る。すると、彼は病人のように顔を真っ青にさせて耳をそばだてていた。


「……て…」

「え?」


あまりにも声が小さくて思わず聞き返す。


「走って!!!」


怒声にも似た善逸くんの言葉を理解するよりも先にぐんッ!と腕を引かれる。同時に、商店街の路地から大きくて長い“何か”が色んなものを巻き込みながら飛び出してきた。
善逸くんに手を引かれながら走る、走る、走る。ちらりと一瞬だけ見えたそれは女の人の姿をしていて、腕が左右に三本ずつ生えていたような気がした。

もつれそうになる足を必死に動かす。一体何に追いかけられているのか確認しようと後ろを振り返ろうとしたら、その気配を察知したらしい善逸くんが「振り返るな!!」と叫んだ。


「絶対に振り返るな!!俺の手も離しちゃダメ!!前だけ見て走って!!」

「だ、だって善逸くん…」

「いいから!!」


あまりにも必死な形相と声に思わず口を噤んだ。だって、こんなに必死な善逸くん見たことがない。いや、今までもずっと必死だったんだろうけど、それの比にならないくらい…死に物狂いって言葉が合うくらいには。

私たちが走る音と、背後からは色んなものを巻き込みながら這いずっているのであろう音だけが商店街に響く。存外長く感じる商店街に元より体力のない私の足が限界を迎えようとしている。けれどここで転んではいけないことくらいさすがに分かる。だから、今にも崩れ落ちそうな足を無理矢理動かし続けた。


「出口…!杜羽ちゃん頑張って!」

「う…うん…!」


ようやく商店街の終わりが見えたらしい。逆光のように商店街の中に差し込む光にほんの少し目を細めながら、けれど震える足を叱咤して走り続ける。走って。走って。走って……そうして商店街を飛び出した瞬間、後ろから「ぐぎッ…!」と蛙が潰れるような声が聞こえた気がした。