続 ゴーストバスターかまぼこ | ナノ
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駅の内部は、多少古びてはいるものの普段私たちが使っている駅と同じような造りになっていた。
少し広めのコンコースを歩き、売店を通り過ぎて、改札を抜ける。動いていない改札は違和感がありすぎて何だか変な感じ。


「駅長室とか探したら何か手がかり見つかるかな?」

「行ってみる?」

「うん」


見てみる限り、改札の隣には駅員さんが待機しているスペースがあって、その奥に駅長室がある構造になってるみたい。がちゃり、駅員室へと続くドアを開け、中に入り込む。
あちこちに書類が散らばっていたり、そこらへんに乱雑にものが置かれていたであろうものが倒れていたり、中はめちゃくちゃだけれど、どうにか足と踏み場はあった。


「探し甲斐があるというかなんというか…むしろ億劫になりそうな…」

「うーん…分担した方がよさそうだよなぁ…じゃあ、俺がここ探すから、杜羽ちゃんは駅長室お願いしていい?」

「わかった」


足元に注意しながら駅長室があるところまで近付く。ドアノブに手をかけて回した瞬間、ガチッと中途半端なところで止まった。鍵がかかっているみたい。こういうのって、学校の職員室みたいに纏めて鍵が管理されてたりするのかな…
ぐるり、室内を見渡す。そうしたら、ちょうど善逸くんがいる後ろの壁に、いくつか鍵が吊ってあるコルクボードを見つけた。


「善逸くん、後ろのボードに駅長室の鍵かかってない?」

「駅長室?えーっと…あったあった」

「投げてー」

「はい」


ぽーい!綺麗な放物線を描いて飛んできた鍵をなんとかキャッチした私はそのままの手で駅長室の鍵穴に差し込む。ガチャリ。今度こそ途中で止まることなく回りきったドアノブに内心で喜びながらドアを開けた。建付けが悪いのか、ほんの少し開きにくいドアの隙間に体を滑り込ませ、壁に手を這わせて電気のスイッチを入れる。
急に明るくなった視界に少し目を細めた。
机と本棚しかない簡素な駅長室は駅員室と比べてそこまで荒れておらず、むしろどっちかというと整頓されている方だった。

本棚は空っぽで、ロッカーの中にも上着がかかっているだけで特にこれといったものは見つかっていない。机の引き出しもめぼしいものはなくて、なんとなく、本当になんとなくパソコンの電源ボタンを押した。


「あ、ついた」


この部屋の電気がついたんだからパソコンもつくんじゃないかっていう予想は当たっていたみたい。ロード中なのか、くるくる回るカーソンを見つめる。そうしたら数秒も待たないうちに今度はパスワードを打ち込む画面に変わった。

まぁ…さすがにかけられてるよね…パスワード…

何桁かもわからないパスワードに頭を抱える。とりあえず思いつく限りの数字やらアルファベットやらを打ち込んでみるけれど、当然ながらパスワードが解除されるはずもなく。いや、逆に解除されたら普通に怖いから…

結局ここも収穫なしかぁ…善逸くんは何か見つけただろうか。いったん合流しよう。
そう思ってパソコンの電源を落とした瞬間、暗い画面の中に私の背後あたりからぶら下がる下半身が映りこんだ。


「ッ…!?」


ばッ!と背後を振り返る。そこにはぽつねん、とさっき私が入ってきたドアと本棚があるだけで、画面に映りこんだ“それ”は見当たらない。

気のせい…?疲れてるのかも…それか、夢の中だからって私が作り出した幻…?…どっちにしろ、そんなものには遭遇しないに越したことはない。


「(早くここから出よ…)」


そそくさとパソコンから離れる。なんとなくさっきより部屋の空気が重たくなった気がして、妙に早鐘を打つ心臓を押さえながらドアノブに手をかけた時……ーー


ーーバンッ!!!


「ひッ…」


唐突にこの部屋に響く音に肩が跳ね上がる。振り返れない、振り返りたくない。


ーーバンッ!バンッ!バンッ!バンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバン!!!


「ッ…」


思わずその場に蹲る。耳を押さえても聞こえ続けるその音が直接鼓膜に叩きつけられているみたいで、どうしたって消えてくれない。早くここから出ないと…焦りばかりが募る。震える手でドアノブに手を伸ばすものの、回すことはできても一向に開く気配がない。そういえば建付けが悪かったんだっけ。最悪。焦りだけが募る。徐々に大きくなる音に焦って、震えて、うまくドアノブが回せなくなって爪で引っ掻く。
早く、早く開け、開いて、お願い、開いて、開け、開け、開け、開け開け開け開け開け開け開け……ーー


「杜羽ちゃん!!」


唐突に蹴破らんばかりの勢いで目の前のドアが開け放たれた。誰か、なんて確認する間もなく腕を引かれ、駅長室の外に引きずり出された。ドアが閉まる音が聞こえて、壁を叩く音が聞こえなくなって、だけど全身の震えが止まらないから、床にへたりこんだままガクガクと震えていると背中に暖かいものが触れ、ゆっくりと上下に動いた。


「大丈夫、大丈夫だから…もう怖いのはいないよ…大丈夫、落ち着いて…」

「ふッ…ふ…ぜ、ぜん、いつく…」


少しずつ、少しずつ体の震えがおさまっていく。背中をなでてくれる善逸くんの体温が、冷えきった私の体を溶かしてくれるみたいだ、なんて。
壁を叩く音はまだ耳にこびりついているけど…うん、大丈夫…善逸くんのおかげで、大丈夫。


「ご、め…大丈夫…もう、大丈夫…」

「本当に?無理してない?もう少し休んでても…」

「ううん、大丈夫だよ…。それより、善逸くんは何か見つかった?私の方は特にめぼしいものはなかったよ」

「……俺も特に…。あ、この駅の見取り図みたいなのは見つけたよ。この駅員室を出て右を真っ直ぐ進んだところに階段があって、そこを降りれば駅の外に出られるみたい。…どうする?」

「…帰る手がかりを見つけるには行くしかない、よねぇ…怖いけど…うん、大丈夫。善逸くんもいるし」

「あまり俺に期待しないでね…?」

「またそんな事言う…さっきも助けてくれたじゃん…」

「あ、あれは必死だったからで、その…」

「とにかく!私が善逸くんがいて心強いの!」


別によいしょしたりとか、お世辞とか、そんなんじゃない。怖がりでも、へっぴり腰になっても、それでも誰かを助けるために必死で一生懸命になってくれる善逸がかっこいいって思うんだ。

にッ、と笑ってみせる。善逸くんはきょとり、と目を瞬かせたけど、次の瞬間には可笑しそうに目じりを下げて笑ってくれた。