続 ゴーストバスターかまぼこ | ナノ
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「いいか、夢といえど所詮お前はただの思念体だ。肉体のない丸裸のまま夢の中で死んだら、こっちにあるお前の肉体の死に直結することを忘れるなよ」


意識が途切れざまにそう念押ししてきた獪岳さんを思い出して、現在進行形でピンチであるとどうしようもなく彼に向かって叫びたくなった私だった。


『逃ゲタ逃ゲタ逃ゲタ!!』

『つかマエろ!つカまえロ』


善逸くんの手を引きながら、追いかけてくる黒い影からひたすらに逃げる。いくつもの車両を抜け、だけど、その先々で待ち構えているあいつらはどうしたって私たちを捕まえたいらしい。

どうする…?どうしよう…?逃げ回るだけじゃいつか追いつかれるし、ここが電車の中ならなおの事。…かと言って、そう簡単に殺されてやるつもりなんて毛頭ない。


「杜羽ちゃ…!杜羽ちゃん!」

「!!」


ぐい!善逸くんに腕を引かれたと同時にすぐそばを何かが横切った。走る足を止めないまま首だけで振り返ると、ついさっきまで私がいたところに深々と突き刺さる大きな斧にさッと血の気が引いた。あれ、当たったら確実に死んでた…


「ギャーーーーー!!!!ちょッ、何!?なんで斧!?どっから持ってきた!?当たったら危ないでしょーが馬鹿なの馬鹿じゃないの!?ありえないんですけどぉー!!」


いよいよ善逸くんが半狂乱になりながら私の手を引いて走る。さっきまでと完全に逆の立ち位置になった私たちは隣の車両に駆け込み、勢いよく閉める。ダァンッ!とドアの向こうから聞こえてきた鈍い音に肩を震わせた。


「ど、どうすんの…!?武器になりそうなものとかこんなところにあるわけないし…!かと言ってドアが破られるのも時間の問題だし…!」

「と、とりあえず操縦室行こう…!」


正直な話、私がここに来た後にどうするかなんてちっとも考えていなかったうえに、どうやって元の世界に戻ればいいのかわからない。完全にノープラン。だ、だって早く善逸くんを助けないとって思ってたし…!

こんな事なら獪岳さんや桑島さんからもっと色んな話を聞いとけばよかった…なんて、全力で後悔しながら私たちは操縦室に駆け込む。…同時に、後ろの車両のドアが蹴破られた音が聞こえた。


「やばッ…!」

「杜羽ちゃんブレーキ!ブレーキ引いて!」

「ブレーキってどれ!?」

「そこのレバー!手前に思いっきり引いて!」


善逸くんに言われるがまま、ブレーキであろうレバーを思いっきり引く。そうしたらものすごい振動と共に車輪とレールが摩擦する甲高い音が鳴り響き、耳を劈いた。
がくんッ!と大きく揺れる電車に案の定バランスを崩した。「杜羽ちゃん!」壁に背中を打ち付ける寸前、善逸くんが私に向かって手を伸ばして、同じように手を取ろうとしたところで轟いた轟音と振動に私の視界はそのまま暗転してしまったのだった。





「ぅ…」


突き刺すような全身の鈍い痛みにふと意識が浮上した。朦朧とする意識を無理矢理こじ開けてどうにか体を起こそうとすれば何か重たいものが体にのしかかっていて、それが見覚えのある金髪である事に気付く。


「ぜ、善逸くん…!大丈夫…?しっかりして!」

「うッ…杜羽、ちゃ…」


頭を押さえながら起き上がった善逸くんは、あの揺れの中で私のことを庇ってくれたらしい。額の傷にそっとハンカチを当てながら辺りを見渡した。


「一体、どうなったの…?」

「急ブレーキかけたら線路から車輪が外れたみたい…。にしても、よく生きてたよね、俺たち…」

「ほんとに…」


あれだけの揺れの中、しかも横転までしたにも関わらず打撲程度ですんだのは不幸中の幸いだと思う。
あぁでも、額の傷が心配だ。脳震盪とか起こしてたら大変だし…。「よっこいしょ」そう言って立ち上がろうとする善逸くんを慌てて引き止めた。


「ぜ、善逸くん、そんなにすぐ動いて大丈夫…!?もう少し休んでからでも…」

「ん、大丈夫。血は出てるけどそこまで深いわけじゃないし、頭もぶつけてないから意外と平気。それより早くここから離れた方がいいかも…さっきのやつらがまたいつ襲ってくるかわからないから…」

「そうだね…」


善逸くんの言う事も最もだ。さっきの横転のおかげかわからないけど、私たちを散々追いかけ回していた黒い影は今は忽然と姿を消している。…それが微妙に緊張感を煽ってくるんだけどね…
横転した事で横向きになった操縦室のドアを少しだけ開けて外の様子を窺う。…どうやら今はいないみたい。私たちは外に這い出た。


「どっちに行く…?私たちはあっちから電車に乗って来たみたいだけど…」

「…いや、進もう。下手に戻ってあいつらの仲間に見つかったら厄介だし…」

「わかった」


こういう時、誰かがいるのといないのとで気の持ちようが違う。それがこういう事に詳しい善逸くんならなおのこと。いつもは叫んだり発狂したりするけど、やっぱり心強いのに変わりない。

…あれ、私、善逸くんを助けに来たのに逆に助けられてる…?


「杜羽ちゃん?ぼーっとしてどうし…はッ…!ま、まさか、実はどっか怪我してたとか…!?ええええ嘘ごめんねえええええ!!」

「ち、違う違う!怪我してないよ!ほら…!善逸くんが庇ってくれたから五体満足!!」

「五体満足…」

「そう!五体満足!ほら見て!」


むん、と力こぶを作ってみせれば、初めこそ泣きそうな、それでいて疑わしい目を向けていた善逸くんもあまりにも私が必死だからか、ほッと胸を撫で下ろすような、安心したような、そんな顔をして肩の力を抜いた。


「…じゃあ、行こっか」

「うん」


ゆっくり、線路を歩きだす。これから私たちはどこへ向かうのか。この先に一体何があるのか。夢にしては痛みも何もある不思議な善逸くんのこの夢の世界を、私たちはどちらからともなく手を繋いで歩いていく。