続 ゴーストバスターかまぼこ | ナノ
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09




悲鳴が、断末魔が、耳に残る。ノイズ混じりの声が車内に響くと同時に誰かが惨殺される光景を見るのは、もう何度目かわからない。数えるのをやめてしまった。


『次は〜、炙り焼き、炙り焼きです』


ふらり、立ち上がったOLのお姉さんに火がつけられる。生きたまま焼かれるお姉さんは悲鳴を上げながら床を転げまわり、そしてしばらくするとぱたり、と動かなくなってしまった。
人間の肉が焼ける独特の匂いが充満する。むごいったらありゃしない。
今日も俺は、意識を保ちながら夢を見ている。眠ってしまえばこの夢を見る事はわかっていたから、極力眠らないようにしていたのに、なぜ俺は…ーー

…あぁ、そういえば体育の時にボールが頭にぶち当たったんだっけ。それでそのまま気絶して…


「(俺も、いずれは…ーー)」


そう考えた瞬間、変な風に心臓が脈打った。死ぬ、の…俺…こんな、わけのわかんない夢の中で、無惨な殺され方されて、誰にも気付かれずに…?
そんなの、嫌すぎる。だって、まだやりたい事も、やらないといけない事もたくさんある。いつものメンバーで騒いで、馬鹿やって、炭治郎に怒られて、とみ先に殴られるのはごめんだけど、毎朝校門前で女の子たちを眺めるのが至福なんだから、こんなところで死にたくなんてない。

…あぁ、それと、杜羽ちゃん。もう大丈夫って顔してるけど、まだ全然大丈夫じゃない。俺たちとつるむようになってからは減ったけれど、時々、言いようのない悲しみと寂しさが混ざったような音が聞こえる。妹さんの事があったのだから当然だ。…だけど、少しでも、ほんの少しでも彼女の寂しさが和らいでくれればと、願わない日はない。すぐには無理でも、少しずつ思い出に変わってくれれば…


ー『あぁ、お前はやっぱり偽善者だ』


不意に頭の中を声が響いた。子供だろうか、ほんの少しだけ高い声は忌々しさの音を滲ませていて、それが妙に俺の中をざわつかせた。


『次は〜、引き摺り出し、引き摺り出しです』


甲高い金切り声にはッと意識が戻ってきた。ほんの僅かの時間呆けていた間に、順番はいつの間にかすぐ隣の女の人まで迫ってきていた。やばい、やばい、やばい、早くどうにかしないと…体の自由さえ取り戻す事ができたのならあとは…


「(ッ…!)」


アナウンスと共にぐちゃり、ぐちゃりと生々しい音と悲鳴が車内に響く。腹を裂かれ、内臓を引き摺り出される光景は見るに堪えない。

早く、逃げないと。次は俺だ。今度こそ俺の番だ。何をされるの。抉り出し?それとも活け造り?何にせよどれも嫌だ。死にたくない。まだ、死にたくない…!!


『次は〜、挽き肉、挽き肉です』


ぎくり、体が強ばった。まずい、本当にまずい。このままじゃ俺、挽き肉にされてしまう…!

車掌の服を着た黒い影が、唸る大きな機械を持って俺に近付いてくる。顔にぴちゃッと生暖かいものが飛び散った。

あぁ、もう終わりかもしれない。逃げたくても、体が動かないんじゃどうしようもない。痛いんだろうなぁ…けど、このまま悪夢に魘され続けるのなら、いっそーー


「善逸くん!!」


不意にどんッ!と黒い影の車掌が吹っ飛んだ。そしてもう目と鼻の先にまで迫ってきていた機械も鈍い音を立てて遠ざかっていって、がッ!と掴まれた手に体の自由が一瞬にして戻ってきた。

弾けるように顔を上げる。宙を靡く黒髪にほんの少し目を奪われ、そして、力強く引かれた腕に、どうして彼女がここにいるのかと目を瞬かせた。


「杜羽、ちゃん…!?」

「逃げよう、善逸くん!早く!立って立って!」


腕を引かれるがまま立ち上がる。さっきまで体が動かなかったのが不思議なくらいいとも簡単に立ち上がり、駆けだせた。「どうして…!?」困惑するがまま、俺の手を引く小さな背中に声をかけた。


「どうして杜羽ちゃんがここに…!?なんで、一体どうやって…」

「詳しい事は全部後!!それに、私は善逸くんを助けに来たの!!」

「え…?」

「私は…!善逸くんにいなくなってほしくない!炭治郎くんみたいに道具を作ったり、親分みたいに気配に敏感だったり…善逸くんみたいに祓う事なんてできないけど…それでも…!善逸くんにいなくなってほしくないから…!だから!!」





「諦めないで!!」


俺を睨む目にはどうしたって恐怖の色が濃く写っていて、音も、怖くて怖くて仕方がないって音でいっぱいで、そんな中で響く杜羽ちゃん自身の力強い音を聞いて、ぼろり、溢れる涙をそのままに小さな手を握り返したのだった。