続 ゴーストバスターかまぼこ | ナノ
08
桑島さんに案内された先は、祭壇がある大きな部屋だった。
「獪岳」
部屋の真ん中に見覚えのあるたんぽぽ頭が寝かされていて、その傍らに胡座をかいていた男の人がくるり、と振り返った。…あ、あの人は…
「善逸の様子はどうじゃ」
「…目を覚ますどころか、逆に深いところに引き摺り込まれていますよ。ったく、面倒ばかりかけやがって、クソが」
「まぁまぁ、そういうんじゃない。杜羽ちゃん、おいで」
「あ、はい…!」
仰々しいほどに、善逸くんを中心に注連縄が張り巡らされている部屋だった。垂れ下がるそれらをくぐって手招きする桑島さんのところまで足を運ぶ。ちらり、その隣の男の人が私を一瞥した。
「杜羽ちゃん、こっちは獪岳と言ってな、善逸の兄弟子じゃよ」
「あんなカスの兄弟子になったつもりはねぇ」
く、口が悪い…!というか、この人これがデフォなのかな…
見覚えのあるこの人は、まだ私が悪霊たちを視る事ができてた時に助けてくれた人だ。本人は助けたつもりはないとかなんとか言ってたけど、あの時の私は本当に助かったのだ。
「……なんとなく見た事がある気がすると思ったら、お前あの時のとろい奴じゃねぇか」
「とろ…」
「なんじゃ、知り合いだったのか」
「そんなんじゃないですよ。…それより先生、なんでこんな奴を連れてきたんですか。俺の記憶が正しけりゃ、こいつに何かできるとは思えない」
「いや、きっとこの中の誰よりも杜羽ちゃんにしかできんじゃろう。獪岳、善逸と杜羽ちゃんを繋いでやってくれないか」
何やらさっきから専門用語と思わしき単語がひっきりなしに出てくるのだけど、とりあえず私と善逸くんを繋ぐってどういう事なのかな…
一人悶々と考え込む。すると私の様子に気付いた桑島さんが、ちょっぴり申し訳なさそうな顔をして私を見た。
「繋ぐというのは、“縁を繋ぐ”という意味じゃよ。そうする事で、誰かと誰かの繋がりをより強固にする。縁結びって聞いた事あるじゃろう?」
「はい…」
「今は恋のお守りとしての意味合いが強くなってしまっておるが、縁結びとは本来人との縁を結ぶ事なんじゃよ。獪岳はそれができる」
「…先生、まさか…」
「そのまさかじゃ。獪岳、善逸と杜羽ちゃんの縁を結んでやってくれ」
「何もできない奴を送ったところで何にもなりません!ましてや、霊感のれの字もないような…」
「きっとこれは杜羽ちゃんにしかできん。だから儂は彼女をここへ連れてきたんじゃ」
「……」
獪岳、と呼ばれつお兄さんの眉間には、これでもかと言うほど皺が刻まれている。目つきが悪いのも相まってちょっと怖い。
若干苛立たしそうに私と寝かされた善逸くんを一瞥した獪岳さん(怖い)は大きく舌を打った。
「おい」
「へ?」
「お前、名前は」
「杜羽、です。鳩間杜羽」
「こっち来い」
なんとなく桑島さんに視線を向けると、桑島さんは大丈夫、と言いたげに頷き、私の背中を押した。
「ここに横んなれ」
「は、はい」
獪岳さんの言う通り、善逸くんが寝かされている隣にごろり、と寝転ぶ。「小指出せ」左手を突き出した。そうしたら、私の小指に獪岳さんが赤い紐をぐるりと巻き付け、善逸くんの小指にも同じように赤い紐を結びつけた。
「いいか、お前はこれからカスの夢の中に入る。そのための手助けを俺がしてやる」
「ゆ、夢の中に入ったら、どうすればいい…?」
「簡単な話。こいつの悪夢を終わらせる、ただそれだけだ。…だが、夢だからって迂闊に殺されるんじゃねぇぞ。夢の中での死は現実世界と直結する。死にたくなきゃ死に物狂いで戦え」
「…わかりました」
やると決めたのは私だ。悪夢と戦うなんて、怖すぎる。死にたくない。だけど、善逸くんがいなくなる方がもっと嫌だ。
「ーー告げる。これより繋ぎしは縁(えにし)なり」
獪岳さんは静かに言葉を紡ぐ。
「狭間揺蕩う御魂よ。宙の果より来たる星、深淵、永久(とこしえ)を跨ぎーー」
不意に急速に意識が遠のいていった。何かに引っ張られるような、引き込まれるような、そんな不思議な感覚。そして…
「我妻善逸、鳩間杜羽、両者の縁(えにし)結びて奉りもうす」
ぱんッ!
打ち付けた獪岳さんの手の音を最後に、私の意識はことん、と落ちるように沈んだ。