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僕は稀血である。

この血のせいで、何度も正一たちを危険な目に合わせた。4年前に羽炭さんがくれた藤の花の匂い袋も、いくら鬼が藤の花が嫌いとはいえ日が経てば効力が衰えていく。そんな時にまた鬼に襲われたのだ。
その時はたまたま近くに羽炭さんと同じ服を着た隊士がいたから、腕を軽く切っただけで事なきを得た。命を取られずにすんだ。…けど、次は。もしまた鬼が来て、今度は両親や正一、てる子を殺されたら…。そう考えた時、僕の心は決まった。


「僕、家を出るよ」


両親には告げず、鬼殺隊や鬼の存在を知る正一とてる子にだけ告げて、僕は必要最低限の荷物を持って家を飛び出した。
行く宛てはない事はない。初めて鬼の存在を知った場所…鼓屋敷がある山の、羽炭さんたちと別れたあの先に行けば羽炭さんが言っていた“藤の花の家紋の家”があるのかもしれないと思ったんだ。

朧気な記憶を辿て、そうして訪ねた藤の花の家紋の家にたまたま駐屯していた鬼殺隊士に無理を言って師匠を紹介してもらい、苦しい修行を乗り越えて最終選別を生き残った。

鬼殺隊になって、自分の身だけじゃなくて、どこかの誰かも守れる力を手に入れた頃、お館様から送られてきた鴉から、僕の家に鬼が入り込んだ事を聞いた。
何かの間違いではと思って大慌てで実家に戻り、そして目の当たりにした惨劇に呆然とその場に立ち尽くした。
部屋一面に飛び散る赤。こびり付いた鉄の匂い。死体のない血液だけが巻き散らかされた部屋に、これは夢なのではと何度も願ったが、小さい頃から僕たち兄妹に優しくしてくれていた近所のじいちゃんから話を聞いて、遠くで揺らめく陽炎が、片隅に燻る黒い影が、嘘じゃないぞって訴える。

絶叫。叫んで叫んで、泣いて、喉が潰れるまで泣き明かした。だって、守る力がほしくて頑張ってきたのに、何も守れなかった自分が不甲斐なくて情けなくて仕方がない。

散々泣き喚いて、受け入れる事はできないけれどちょっぴり落ち着いた頃に皆のお墓を作った。遺体はないから、代わりにそれぞれの私物を入れた。

手を合わせ、また泣きそうなのを我慢してその場を離れる。もう、僕に帰る場所はない。なくなってしまった。おかえりを言ってくれる声も、一緒になって遊び回った温もりも。あの時正一たちを置いていかなければと後悔したって全部が遅すぎた。


それからはずっと鴉が持ってくる任務に没頭していた。動いていれば何も考えなくていいし、思い出す事だって少ない。起きて、鬼を狩って、疲れたら眠る。それをずっと繰り返していたある日の任務の時に、柱になった善逸さんと羽炭さんと再会した。
二人とも僕が鬼殺隊になっている事にひどく驚いていて、けれどそれ以上に無茶苦茶に任務をこなし続けていた僕を怒ったし、心配してくれた。
久しぶりに人の温もりに触れて、張り詰めていた何かがぶっつりと切れて、僕は二人にしがみつきながら声を上げて泣いた。





***



「清くーん…早く帰ろ…」


任務からの帰り道、半泣きになりながら嘆く善逸さんの背中を押した。


「もぉ…ちゃんと鬼退治できたんですから、いつまでも泣かないでください!ほら、さっさと歩く!じゃないといつまでも屋敷につきませんからね!」

「なんか最近冷たくない?俺悲しすぎて泣きそうなんだけど」

「もう泣いてるでしょう」


「清くんが冷たいよぅ…」なんてさめざめ泣く善逸さんを無視して背中を押し続けた。相変わらず、こういうところは昔から変わらない。それがいいのか悪いのかわからないけど、善逸さんらしいなって。


「ほら、見えてきましたよ」

「はああああやっとついた…!!」


ただいまぁ…と今にも死にそうに言いながらやっとこさ辿り着いた屋敷の玄関先に倒れ込んだ善逸さんはもうほっといてもいいだろう。草履を脱いでいると、庭の方からぱたぱたと三人分の足音が聞こえてきて、思わず口元が緩む。


「おかえり」

「清兄ちゃん、おかえりなさい!」

「おかえりなさい!」

「ねぇ待って誰か俺もいたわって…」

「はいはい、お疲れ様。二人とも、無事に帰ってきてくれて嬉しいよ」

「うぃひひ」


羽炭さんに頭を撫でてもらって善逸さんは不気味に笑う。まぁ、いつもの事だけど。

善逸さんと羽炭さんと再会して、増援要請をうけて三人でとある任務に向かった時にそこにいたのが正一とてる子だった。
まさか二人が鬼殺隊になっているとは思っていなかった僕はすごく驚いていて、だけどそれ以上に、あの時死んだと思っていた二人が生きていた事が嬉しくて、対峙していた鬼を倒した後に三人抱き合って再会を喜んだのを今でもよく覚えている。
その時に善逸さんや羽炭さんから継子にならないかって話が来て、紆余曲折あって今に至るのだけど。


「二人とも、そのままお風呂に行ってきなよ。沸かしてあるから、それがすんでからゆっくり休んでね」

「ありがとうございます、羽炭さん。ほら善逸さん、行きますよ」

「えー…俺もうちょっと羽炭によしよしされていたい…」

「何馬鹿な事言ってんの。清を困らせない!」

「は、羽炭が冷たい…!」

「日頃の行いです」


ぴしゃり、てる子が言い放ち、善逸さんは今度こそ沈んだ。はいはい、早く行きますよ。

項垂れる善逸さんの腕を引っ張る。全く、世話のやける人だ。なんて、胸の中でごちる。ごちるものの、嫌じゃないって思ってる自分がいるのだからおかしな話だ。

つまるところ、僕はこの暖かくも優しい場所をずっと大事にしていきたいのだ。