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「わたしも強くなる…お兄ちゃんたちに守ってもらわなくてもいいように、強くなりたい!」


大きな目いっぱいに涙を溜めて、けれど力強く言い放った妹の顔を未だによく覚えている。

清兄ちゃんが鬼殺隊になるために家を出て、ほんの数日もしないうちに家に鬼がやって来て俺とてる子以外の家族を殺した。
てる子の厠について行ってやった間の、ほんの数分の出来事だった。悲鳴が聞こえて、肉が引き裂かれる音が聞こえて、すぐに、咀嚼音。俺たちは鬼を見た事があったから、鬼が来たんだってすぐにわかった。だから、てる子の手を引いて物陰に身を潜めて、両親が鬼に喰い散らかされる瞬間を俺たちは見ていた。 

鬼は俺たちに気付く事なく、骨まで残さず両親を喰い散らかしてからどこかへと去って行った。俺とてる子はしばらくそこから動けずにへたり込んでいて、ふと気付いた時には太陽の光が蒼い空の真上で燦々と輝いている時だった。


「…わたしたち、どうなるの…?」


物陰から這い出て、血の海と化し家の中を見つめているとぽつり、てる子がこぼした。
どうなるの、なんて、見当もつかない。だって、俺たちは所詮子供で、何ができるかなんてたかが知れている。もしここに俺たちだけじゃなくて清兄ちゃんがいてくれたら…そこまで考えて、ふと脳裏に黄色いたんぽぽ頭が思い浮かんだ。
これからどうすればいいのかわからない。けれど両親を殺した鬼を倒したい。何より、何もできないまま見ているしかできなかった自分が嫌だった。


「…あのさ、てる子…おれ…」

「わたしも行く…」

「え?」

「わたしも、正一兄ちゃんについて行く…」

「だ、ダメだよ!てる子はまだ小さいし、それに、女の子じゃないか…!母さんたちの仇は俺がとるから、てる子は…」

「いや!!」


ばさばさッ!てる子の絶叫に木に止まっていた鳥たちが飛んでいく音が聞こえた。「てる子…」もう怖い思いをしてほしくなくて、夜に怯えることなく、普通の生活をしていてほしいって思ったこれは、間違いなのだろうか。


「わたしも強くなる…お兄ちゃんたちに守ってもらわなくてもいいように、強くなりたい!」





***


「正一兄ちゃん」


庭にシーツを干していると、くい、と隊服の裾を引かれた。皺を伸ばす手をそのままに顔だけで振り返れば、てる子がおはぎが乗ったお皿を持って立っていた。


「羽炭さんがおはぎ作ってくれたの。一緒に食べよ?」

「ありがとう。でももう少しシーツが残ってるから、てる子は先に食べてなよ」

「ううん、手伝うよ。二人でした方が早いでしょ?」


そう言って籠に残ったシーツを手に取り、竿に干していくてる子を眺めた。
…大きくなったなぁ。

なんとなくしみじみとそう思った。


「正一兄ちゃん?」

「ん?…あぁ、ごめん、ぼーっとしてた」

「しっかりしてよ。そんなんじゃ清兄ちゃんと打ち込みした時にぶっ飛ばされちゃうよ」

「あー…」


あはは、と苦笑い。少し前までは一緒になって怯えて、泣いてってしてたのに、いつの間にこんなにしっかりしたこになったんだろう。時間の流れは悲しくも早い。成長したてる子を見て嬉しく思う反面、少しだけ寂しいなって思う。

てる子と二人で手分けしてシーツを干していき、羽炭さんが作ってくれたおはぎに舌鼓をうつ。甘すぎず、ぜんざいもかくやという粒あんともち米はほっぺが落ちそうであった。「てる子はさぁ…」二つ目のおはぎにかぶりつきながらこぼす。


「てる子は…本当に鬼殺隊になってよかった?」

「どういう事?」

「いや、別に深い意味はなくて…ただ、俺としてはやっぱり複雑というか…。刀を握らない幸せな人生を歩んでもよかったんじゃないかって想う」

「……お兄ちゃん、今更過ぎ…」

「う…わ、わかってるんだよ…てる子が自分で決めた事で、俺たちが口出しする事じゃないって。…けど」

「正一兄ちゃん」


ぴしゃり。鋭く言い放ったてる子に思わず口を噤む。


「わたしは、家族の仇をとりたい。お兄ちゃんたちに守ってもらわないくらい強くなりたい。だから刀を手に取ったし、街にいるような普通の女の子じゃなくていいって思った。…ただそれだけの事で、お兄ちゃんたちが気にする事じゃないよ」


そう言って笑うてる子に何も言えなくなって、それを誤魔化すように残りのおはぎを口の中に押し込んだ。


「ただいまぁ…」

「ただいま戻りました」


それから、途中から羽炭さんを混じえて3人でおはぎを食べながら縁側で雑談していると、玄関先から清兄ちゃんと、間延びした、けれどちょっぴり涙声な師範…善逸さんの声が聞こえてきた。


「善逸さんと清兄ちゃんが帰ってきたみたい」

「皆でお出迎えしようか」

「「はい!」」


おはぎを置いて皆で玄関に向かう。案の定、玄関の廊下で蕩けたみたいに平伏す善逸さんと、それを起こそうと躍起になる清兄ちゃんがいて、それが面白くて笑いながら俺たちは声を揃えた。


「おかえりなさい!」