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十七




二人で街に出かけた後、善逸は考え込むことが多くなった。話しかけたら受け答えはしてくれるものの、どこかぼんやりと心ここに在らず、みたいに思考に耽っている。だからか、街で私と善逸が喧嘩でもしたのかと禰豆子たちが心配したみたいで、それを必死に弁明したのは記憶に新しい。
…私が花嫁を見ていたばかりに、善逸に余計な事を考えさせてしまっているのかもしれない、なんて思ってしまう。本当に急かすつもりなんてないんだ。善逸の胸の蟠りがなくなるまで私はいつまでも待ってるし、待てるのだから。

善逸の怪我もすっかり癒えて、いつも通り任務も舞い込んでくるようになった。相変わらず本人は行きたくないだの泣きながら駄々を捏ねるも、その様子にすっかり慣れてしまった清が善逸を引っ張っていくのはいつもの光景だ。
…ただ一つ心配なのは、深く思考に潜りすぎて注意力が散漫になってしまっていないだろうかという事。せっかく治ったのにまた怪我でもしたらって考えると心配で仕方がない。


「師範、行きましょう」

「うん、今行く」


隊服を着込み、てる子と共に鳴屋敷を出る。いつもの管轄区域の見回りだ。見て、聞いて、嗅いで、何か変わった様子がないか注意深く探す。「あの、師範…」匂いを嗅ぎ分けながら山の中を歩いていると、どこかしょんもりとしたてる子が私の羽織を引っ張った。


「ん?どうかした?」

「あの…えっと…ごめんなさい…」


………どうして私は謝られたんだ?
てる子からの突然の謝罪に人知れず困惑する。だって、私はてる子から謝られるような事をされていない。ならば一体どうして…
くるり、思考を回して、気付く。もしかして…


「もしかして、まだこの前の事を気にしてるの?」


そう問いかければ、てる子はほんの少し沈黙したのち、こくり、と首を小さく縦に振った。


「もぉー、気にしなくていいって言ってるのに。それに、私たちは別に喧嘩して帰ってきたわけじゃないんだよ」

「でも…善逸さん、ぼーッとする事が多くなったから…。それに、いつも通りに振舞おうとして空回りしてるのすっごくわかる…」

「…まぁ、空回ってはいるよね」


思わず苦笑い。てる子にまでわかってしまうのだから、善逸の空元気はだいぶなのだろう。…その要因の一端が私なのだから、どうしようもない。

…気負わなくていいよ。いつまでも待ってるよ。何度も善逸にそう言った。善逸のペースで、ゆっくりでいいよって。だけど、最近じゃあ私のその言葉自体が善逸を追い込んでいるんじゃないのかって思えて仕方がない。


「…多分だけど、私が悩ませちゃってるんだと思う」

「師範が?」

「ゆっくりでいいよって、言えば言うほど善逸の顔が曇っていく気がするんだ…」


本当は善逸の心の声をちゃんと聞いて、彼の悩みを一緒に解決できたのならって思う。…だけど、何をどう聞けばいいのかわからないんだ。

そう言うと、てる子は困ったように笑った。


「…師範って、存外ぶきっちょですよね」

「ぶきっちょ…」

「なんというか、器用そうに見えるけど全然そんな事ないというか…あッ!別に貶してるとかそんなんじゃないですからね!?」

「ふふ、わかってるよ。…そっか、ぶきっちょかぁ…」


多分、自分が思っている以上に私は不器用なのかもしれない。善逸の負担になりたくないって思えば思うほどどう声をかけてあげたらいいかわからないし、言葉につまる。結局同じ事ばかり言って、それで善逸を思い悩ませているのなら元も子もない。
…だから、時々考えてしまう。私が彼の負担になっているようなら離れた方がいいのかなって。

いつの間にか足を止めていた私たちの頭上を数羽の雀が飛び去っていく。鳥は自由でいいな、なんて見当違いな事を思いながら見つめていると、再度羽織をくいッと引かれた。


「師範、わたし、善逸さんが師範の事大好きなのすごくわかります!師範に泣きつくのはいただけませんが…。でも、わたしは善逸さん以外の男の人が師範の隣にいるのは嫌です…」

「てる子は手厳しいなぁ」


うじうじ悩むのは私らしくない。悩んだところで、結局は自分で動かなければなんの意味もないのだから。…けど、善逸の事になると途端に臆病になる。しっかりしろ、長女だろう。
ばちん!思いっきり両頬を叩いたら、てる子がびっくりしたようでぎょッと目を見開いたのが横目に見えた。


「…うん、大丈夫。ごめんねてる子。ありがとう」

「…師範、伝えたい事はちゃんと言葉にしないと伝わりませんよ」


人の心をただの憶測で決めてしまうのはよくない事だ。「あはは…」耳が痛い私は苦笑いをこぼすだけだった。