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十五




「こんにちはー!!」


唐突に鳴屋敷に禰豆子がやって来た。「ど、どうしたの?急に…」来るって連絡も何もなくて普通にびっくりしたからそう聞いてみれば、禰豆子は手に持つ風呂敷を掲げてにかッと笑う。


「はい、これお土産ね!皆で食べて!」

「あ、うん。ありがとう…じゃなくて、どうしたの?」

「私がお願いして来てもらったんです!」


ひょっこり、顔を出したてる子に首を傾げる。はて、今日は何かあっただろうか…大掃除…?


「もう、お姉ちゃんってばにぶちんね」

「にぶちん…」

「善逸さんはいる?」

「善逸なら居間にいるけど…」

「ならいいの。てる子ちゃん、善逸さんは任せるね」

「はい!お任せください!」

「あの…禰豆子…?てる子…?」

「お姉ちゃんはこっち!ほら早く!」


もう何が何だかわからないんだが。腕を引かれるがまま連れていかれた先は紛うことなく私の部屋。「さて…」ぴしゃり、襖を閉めた禰豆子はなんだか怪しげに笑いながら、さっきからずっと気になってた大きな荷物を手繰り寄せた。


「今から何が…」

「何って、お姉ちゃんを着飾るのよ?」

「え?」

「え?」


いやいや、何言ってるんだこの人、みたいな顔してるけど、それ私のセリフだし私がする顔だからね?


「早く隊服脱いで!というか、お姉ちゃんってばお休みの日も隊服着てるの?」

「いや、今日はたまたま…これから鍛錬しようと思ってたから…」

「…お姉ちゃん、普段お休み何してるの?」

「え?掃除したり、鍛錬したり、屋敷にいる子たちと縁側でお茶飲んだり…善逸に変わって管轄の見回りに行ったりしてるよ」

「お買い物とかは…」

「食材買いに行くくらい…?」

「…お姉ちゃん、やる事がおばあちゃんみたい」

「おばッ…」

「てる子ちゃんと計画して正解だったわ…ほらほら、早く隊服脱いでこれに着替えて!それが終わったらお化粧するからね!」


お化粧…?いよいよ自分が何をされるかわからなくなってきたのだけど…。なんで化粧…会合か何かあったっけ…いやでも、柱合会議に化粧して行った事ないしなぁ…
禰豆子に急かされるがまま手渡された着物に着替える。手触りが随分いい上に人目見ただけで上物だっていうのがわかるこの着物は一体…


「禰豆子、この着物どうしたの?」

「お姉ちゃんに着てもらいたくて私が買ったのよ」

「えッ」

「なぁに?」


きょとん、と首を傾げる禰豆子は大変かわいらしいが、違う、違うそうじゃない。買った?こんなに高いものを?


「ね、ねず…」

「着ない、はダメだからね。じゃないと買った意味がないじゃない」

「いや、でもこれ…というかお金!」

「いらないよ。これも返品不可!これでもお給料はいっぱいもらってますからね!」

「でも…」

「でももへったくれもない!いつもお姉ちゃん、私にたくさんしてくれるじゃない。お返しさせて 」


お返し、と禰豆子は言うが、私は禰豆子に何もしてやれてない。せいぜい街においしいものを食べに行ったり、喫茶店で甘いものをご馳走したり、髪飾りを買ってあげたり、その程度だ。だからこれは私には身に余る。


「…また余計な事を考えてるでしょ」


着物を着たはいいものの、そこから帯を締める気になれなくて俯く。すると呆れたような匂いを纏わせて禰豆子が顔を覗き込んできた。「うッ…」べしんッ、と弾かれる鼻に怯む。ちょ…禰豆子のデコピンは死ぬほど痛いってわかってるんだろうか…。案の定めっちゃ痛いし、鼻取れたかと思ったんだけど…
じっとり睨めつける。けれど禰豆子はそれをものともせずに手早く私の腰に帯を巻き付けた。


「私はね、お姉ちゃんにいっぱいしてもらったし、色んなものをもらってるよ」

「…けど、街にいる子たちみたいに禰豆子に流行りの洋服とか着せてあげたいんだよ」

「流行りなんてその時だけだよ。確かに髪飾りとかお洋服とかもらったらすっごく嬉しいけど、必ずしもおれが形のあるものじゃないといけないなんて決まりはないのよ」

「形あるもの…」

「そ。…はい!できたよ!」


ぽん、と肩を叩かれ、姿見の前に誘導される。着物は黒が基調で所々に白い花の模様が散らばる落ち着いたもので、今しがた手渡された羽織は白や赤などいろんな色使いと模様が描かれたもので、それが着物の雰囲気とよく合っていた。
そういえば禰豆子は昔から物選びのセンスが家族の中でずば抜けてよかったのを思い出した。「どう?素敵でしょ?絶対お姉ちゃんに似合うって思ったの!」得意げに笑う禰豆子になんだか照れくさくなった私は、きっと赤くなったであろう顔を見られないよう俯いてしまったのだった。





あの後すぐ禰豆子によって化粧を施された私は、未だにどうしてこんなよそ行きの格好をしているのかわからないまま玄関へと連れてこられたのだけど…


「わ…」


そこに清たち三兄弟といた善逸の格好に思わず感嘆の声が出た。中にシャツを着込んだ袴姿は普段善逸があまりしないであろう格好で、髪も緩く纏められていて全体的にすごく落ち着いた雰囲気になっている。「え…?は、羽炭…?」私に気付いた善逸が大きく目を見開いた。


「ど、どうしたのその格好…いや、すっごく似合ってるしめっちゃかわいいんだけどね。てか、お化粧もしてるじゃないの!え、かわいい…」

「あ、ありがとう…善逸もすごく似合ってるね」

「そう…?着慣れないからなんか変な感じだけど…」


お互い顔を見合わせて、こてん、首を傾げた。私だけかと思っていたけれど、善逸もよそ行きの格好をしていてなおの事疑問符が浮かぶ。


「はい!てことで、今日はお二人さんは日が暮れるまで屋敷に帰ってきちゃいけません!」

「「えッ?」」

「師範も善逸さんも、普段二人でどこかへ出かけたりしないじゃないですか。だから、禰豆子さんや兄ちゃんたちにも協力してもらって、師範と善逸さんを出かけさせる作戦を練っていたんです!」

「禰豆子さんも手伝いに来てくれたので、屋敷の事は俺たちに任せてください!」

「たまにくらい羽を伸ばしたって怒られませんよ。だから、お二人は街で存分に遊んできてくださいね」


そう口々に言う目の前の四人に呆気に取られる。作戦…ってことは、あの時蝶屋敷で禰豆子とてる子がこそこそ話していたのはこれの事だったのか。
兄弟三人水入らずで、って考えてた私だけど、逆に私たちが水入らずで出かけてくるように言われてしまった。「もぉ…何それぇ」困ったように、だけど心底嬉しいって匂いを纏わせながら善逸は笑った。かく言う私も、色々とびっくりしたものの全てに合点がいって善逸と同じような顔をしているんだろう。


「…じゃあ、お言葉に甘えて…」

「行こっか」

「いってらっしゃい!」


差し出された善逸の手を取り、屋敷の敷居を跨ぐ。ちらッと横目で振り返れば四人とも大きく手を振っていて、私と善逸は顔を見合わせて笑ってしまったのだった。