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十四




任務から帰ってきて早々、案の定善逸は入院した。呼吸での止血と応急処置が早かったおかげで、入院は入院だけど二日程の検査入院ですんでいる。…が、それでもあれ以上無理しているようだったら内臓も傷付けかねないとカナヲが静かに怒っていたのは普通に怖かったし、現に善逸は震えながらカナヲに説教をされていた。退院した今でもしばらく自宅療養を言い渡されている。

私も怪我をしているものの、善逸ほどじゃないから入院なんて事にはならなかったけれど、これ以上傷を増やしてどうするんだとしこたまカナヲに怒られた。
…なんだか最近、カナヲにしのぶさんの面影が重なるのだけど気のせいだろうか…


「師範!」


検診終わりに蝶屋敷の廊下を歩いていると、ふと後ろから声をかけられた。振り返らずともわかる声に笑みをこぼし、足を止める。


「てる子!元気にしてた?」

「はい!師範が見えたので、走って来ちゃいました」

「そっか」

「薬学も、カナヲ様だけでなくアオイさんや蝶屋敷にいる皆さんが親切に教えてくださるので、とっても学びになっています!」

「それならよかった。どう?できそう?」

「今は何とも…ですが、必ずものにしてみせます!」


ぐ、と握り拳を作って意気込むてる子になんだかすごく安心した。よしよし、とつい弟妹たちにしていたみたいに小さな頭を撫でれば、ほっぺたを林檎みたく真っ赤に染めて俯いてしまったから、なんだか胸がほっこりと暖かくなった。


「ち、ちょうど一段落ついたので、今度お屋敷に戻りますね。兄ちゃんたちや善逸さんは元気ですか?」

「ピンシャンしてる…って言いたいところだけど、善逸はしばらく自宅待機だよ」

「えッ…!ど、どうかしたんですか…?」

「この前の任務でちょっとね…。でも本人は元気そうにしてるから、戻った時に顔見せてやってね」

「はい!」


久しぶりにてる子が鳴屋敷に戻ってくるから、その時はご馳走にしよう、なんて何を出すか献立を考えていると、ふとてる子が私を見上げているのに気付いた。どう、したんだろう…私の顔に何かついてる…?「善逸さんは…」ぽつり、てる子はこぼした。


「善逸さんはしばらく任務がお休みなんですよね?」

「え?まぁ、そうだね。少なくとも四日ほどは休暇もらってるって言ってたけど…」

「師範は?」

「私?私は鴉から伝令が来るまで待機だよ。どうして?」

「いいえ、なんとなく気になって」

「?」


顎に手を当てて考え込むてる子。一体どうしたんだろう…何か行事事とかあったっけ…?
人知れず記憶を辿るものの思い当たるものがない。「あ、お姉ちゃん!」首を傾げててる子を見つめていると、シーツを抱えた禰豆子がやってきた。


「また怪我したんでしょ!カナヲちゃんから聞いたわよ!もう、嫁入り前だって言うのに傷ばかり作っちゃダメじゃない!」

「嫁入り前って…鬼殺隊にいる限りそういうわけにはいかないよ」

「わかってるけど…だとしても!気を付けてって事!私、お姉ちゃんが心配だわ」


しょん、と眉を下げる禰豆子にこっちまで眉が下がってしまう。常日頃から禰豆子に心配ばかり掛けてしまっているから、少しでも安心してもらえるようふんす!と握り拳を作ってはみるものの、逆効果だったらしい。もっと心配の匂いを濃くさせてしまった。
うーん…一体どうしたものやら…


「禰豆子さん、ちょっといいですか?」


不意に今の今まで黙りこくっていたてる子が口を開いた。「てる子ちゃん、なぁに?」「ちょっと…」ちょいちょい、と禰豆子の手を引いて離れたところに行ってしまった二人をぽかん、と眺める私。何やらこそこそと内緒話をしているみたいだけど、私は善逸みたいに耳がいいわけじゃないから二人が何を相談しているのかはわからない。


「…では禰豆子さん、この手筈で」

「わかった、任せて!」


…なんだろう…どことなく二人の会話に含みがあるような気がするのは…
むふふ、とどこぞの元水柱のように笑い合うてる子と禰豆子の匂いを嗅いでみても彼女たちの心理を掴めるはずもなく、ただただ頭上に疑問符を大量に飛ばした私である。





鳴屋敷に帰ってきて早々、善逸が咽び泣きながら膝枕をせびってきた。
あまりにも突然で、だけどそれ以前に顔中から出るもの全部出して迫ってきたから普通に拒否したら余計に泣いてしまった。仕方なしに鼻水と涙を拭いて膝を叩けば嬉々として頭を預けて寝始めたのはついさっきの話。

…善逸が長い間屋敷にいるのがすごく新鮮だなってふと思う。なぜなら善逸は割と高頻度に任務に駆り出されるため、屋敷にいることの方が少ないのだ。…本人は任務の伝令が届く度に泣きながら私にしがみついて来るのだけどね。


「あれ、善逸さん?」


ふわり、ふわり、私の膝に頭を預けて眠る柔らかいたんぽぽ色を撫でていると、洗濯かごを抱えた清がひょっこりと通りがかった。しぃ…と口に人差し指をあてれば慌てて口を噤む清に小さく吹き出す。


「善逸さん、寝てるんですか?」

「うん。最近ずっと任務続きだったから、疲れているんだよ」


いつもお疲れ様です。すよすよと眠る善逸にそう囁けば、もぞりと身動ぎして私の腹に顔を押し付けた。


「手伝えなくてごめんね」

「大丈夫ですよ。善逸さんにとって念願の膝枕なので、存分に寝かしつけてあげてください」

「寝かしつけるって…」

「この前の任務先でもずーーーーっと言ってましたからね」


そんなにしつこく言ってたのだろうか…だとしたら普通に恥ずかしいのだけど。…それにしても、そんなに膝枕してほしかったのか…。確かにさっき咽び泣きながら膝枕せびってきたけど、そんなに…?「もお…清を困らせたらダメじゃない」なんて言ってみるものの、当の本人はとても安らかに眠っている。

てきぱきと清が庭に洗濯物を干していく様子をぽーッと見守っていて…ふと気付く。そういえば昼過ぎあたりから正一を見かけない。今朝方にはいたんだけど、一体どこへ…


「清、正一は?」

「正一なら羽炭さんと入れ違いでてる子のところに行きましたよ。なんでもすぐに来いって手紙が来たとか何とか…」

「そうなの…?」

「はい。あ、僕もてる子に呼ばれてるので、これが終わったら蝶屋敷に行ってきますね」

「わかった。気を付けてね。晩ご飯は三人とも作ってて大丈夫?」

「いえ、ついでに僕たちで買い物してくるので僕たちが作りますよ。たまにはお二人ともゆっくりしててください」


…とは言ってくれるものの、日頃屋敷の事ほとんどを三人がやってくれるから割と毎日助かっているのだけど。


「よし、終わり!じゃあ、行ってきますね」

「うん、行ってらっしゃい。洗濯物ありがとうね。あ、かごは後で私が片しておくからそこに置いてていいよ」

「ありがとうございます」


そう言って去って行く清の背中を見送る。…にしても、兄弟総出でどうしたんだろうか。いや、兄弟だからこそ三人水入らずで話したい事があるのかもしれない。いくら鳴屋敷に三人揃っていたとしても、あの年齢の子たちなら私や善逸に聞かれたくない話だってあるだろうからね。
変に詮索するのはよそう。


「……清、行った?」

「うわッ、びっくりしたぁ…ずっと起きてたの?」

「寝てたけど、起きたと言うか聞こえてたと言うか…」


つまるところ、寝ながら聞いてたって事か。まぁ、寝てても誰が何言ってるのか聞こえるって言ってたから仕方ないのだろうけど、途中から起きてたのなら寝たフリなんてしなくてもよかったのに。


「……なんか、屋敷に二人だけって久しぶりだね」

「そうだね。いつも誰かしらいるし、てる子たちが来てくれてからは毎日すごく賑やかだもんね」


そう、毎日楽しいのだ。断じて善逸と二人だけの屋敷が嫌だとかそういうわけではないのだけど、なんというか、こう…亡くしてしまった家族の面影を感じる…?
この気持ちをどう表現すればいいかわからない。だけど、清や正一、てる子たちを見ていたら私の弟妹たちを思い出して懐かしくなるんだよなぁ。


「……よっと」


唐突に善逸が起き上がった。


「膝枕はもういいの?」

「うん。膝貸してくれてありがとうね」

「いいえ」


重みが消えた膝にほんの少しだけ寂しさを感じながら摩っていると、ふと隣から感じる視線。「なに?」首を傾げて善逸を見上げると、するり、両頬を滑った大きな手に思わず肩を揺らしてしまった。
かち合う視線と、べっこう色の中に揺らめくとろけた熱に硬直する。


「ど、どうしたの、急に…」

「何となく羽炭に触れたくなって。…ねぇ、口付けしてもいい?」

「…聞いても聞かなくてもするくせに…」

「まぁね」


言い切ると同時に、唇に温もり。触れるだけかと思ったら唇を擦り合わせるようにやんわりと食まれて、その感覚がなんとも言えなくて体が震える。
初めこそ、こうして唇を合わせるだけでお互い爆発するんじゃないかってくらい顔を真っ赤にさせていたのに、いつの間にか善逸はなんてことないように口付けてくるから、私だけがずっと恥ずかしがっているみたいで悔しい。「なんでそんなに余裕なの…」ぶっすり、言ってやれば、きょとん、と至近距離でべっこう色が瞬く。


「余裕なわけないでしょ。顔に出さないようにしてるだけ」

「うっそだぁ…」

「ほんとほんと。ほら…」

「わッ…!」


唐突にぎゅーッ!と抱きすくめられた。私の頭を胸板に押し当てて、そうして聞こえる早い心拍音に逆に私が照れてしまう。


「ね?余裕じゃないでしょ?」

「…ん」

「何よ、その顔」

「余裕じゃないにしても、悔しいのは悔しい」

「はいはい、羽炭ちゃんは照れ屋でかわいいね」

「もう!善逸!」


果てしなくからかわれている…。少し前まで自分こそ照れまくってたくせに。
なんて、内心でぼやいてみても私を見つめる善逸の目を見てしまえば何も言えなくなってしまうのだから、惚れたなんとやらはあながち間違いじゃないらしい。