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「カァー!」


今日の午前の鍛錬は筋力強化と打ち込み稽古である。私もてる子と正一と一緒にやっていると、鎹鴉が訓練場に滑り込んできた。とりあえず正一たちにはそのまま続けるように伝えて、私は鴉の足に結ばれた手紙を受け取る。差出人はカナヲからだった。


「ご苦労様。届けてくれてありがとうね」

「カァ!」


窓から飛び去って行く鴉を見送り、手紙を開く。内容は、先日私がカナヲに宛てた手紙の返事で、快く引き受けてくれる旨が書かれてあった。
本当に、何から何まで彼女には頭が上がらない。


「てる子、ちょっといい?」

「はい?」


ちょいちょい、とてる子を手招きすると、彼女は不思議そうに首を傾げつつも素直に寄ってきた。
てる子にカナヲとの手紙の内容と、そうなった経緯、カナヲが毒物の指南を請け負ってくれる旨を伝える。「毒…ですか…?」神妙な顔つきで反芻するてる子に頷いてみせると、彼女は今度こそ困惑の表情を浮かべて眉を垂れ下げた。


「どうして毒なんですか…?鬼の頚を斬れるよう鍛錬するだけじゃだめなのですか…?」

「鍛錬を積む事はいい事だよ。けど、これは鬼を確実に倒すための手段の一つって言う風に捉えてくれた方がいいかも」

「手段…」

「そう。…正直に言うと、多分今のてる子は鬼の頚を斬りきる事ができないと思う」

「ッ…で、でも羽炭さん、わたし…!」

「今は、の話。今後てる子に筋肉がついて、鬼の頚をちゃんと斬れるようになっているのかもしれない。…だけど、そうなるまで鬼は待ってはくれないし、単独任務だってこれから先入る事もあると思う。その時鬼を倒す手段の一つとして、てる子に毒を学んでほしいって思ってる」

「……」


てる子は考え込んでいるみたいだ。まぁ、急に毒だのなんだの言って困惑させてしまったよなぁ…。いくら手段とはいえ、毒。普通に危険だし、少しでも取り扱いを間違えたら自分だって危ない。…それを齢12程の子供にさせようってんだから、私も大概だ。「一つ、聞いてもいいですか…?」今まで考え込んでいたてる子が口を開いた。


「毒が鬼を倒す手段と言う事はわかりました。…だけど、どうして毒だったんですか?手段なら他にもあったはずじゃ…」

「…前柱にね、てる子と同じように頚が斬れない人がいたんだ」

「え?」

「しのぶさんって言うんだけどね、背も低くて、自分でも力がないから鬼の頚を斬れないんだって言ってた。…けど、毒や薬に精通してて鬼を殺せる薬を作ったりしてた」

「鬼を殺す、薬…」


本当ならば、もししのぶさんが生きていたのなら彼女の元で直接戦い方を学んでほしかったのだけど、そのしのぶさんも、先の無限城での戦いで殉職してしまっている。だから、彼女の身近にいた人間や私の記憶の中のしのぶさんと照らし合わせながら模索していくしかない。


「しのぶさんみたいになってほしい、というわけじゃないけど、戦い方の参考にしてもらえたらって思って…」


そして、沈黙。再び考え込んでいるのか、俯くてる子の表情は伺えない。そして正一も正一で、私たちの空気感に戸惑いの匂いを滲ませながらちらちらとこっちを気にしていた。集中力を途切れさせてしまって申し訳ない…


「…師範」


ばッ!てる子が顔を上げた。
いきなりの事で少しびっくりしたけど、腹を括ったような、覚悟を決めたような顔をしてて逆に私が目を瞬かせる番だった。


「正直に言うと、毒…少し怖いです…。薬の知識だって、ちゃんとわたしにできるのかなって…」

「…ごめん」

「どうして謝るんですか?すぐに謝るのは師範の悪い癖ですよ。…でもって、師範がわたしの事を考えてくれているのは十分に理解してるつもりです。だから、やります」

「へ、」

「カナヲ様から毒と薬学の知識を学んできます。それが生き残る手立て、戦える手段になるのなら、頑張ります」

「てる子…」


時々、思う。私はこの12歳の子に必要以上の無理をさせているのではないのかって。鬼殺隊に籍を置く限り仕方ないのかもしれないし、てる子だってそう思ってほしいわけじゃない事くらい頭ではわかっているのだけど…
そこまで考えて、頭を振った。この考えは単なる私のエゴで、頑張っている人間に対しての冒涜だ。私の考え全部が正しいってわけじゃないけど、死ぬ確率が少しでも下がるのなら…


「…羽炭さん?どうかしましたか?」

「んえッ…!?あ、いや…なんでもないよ」


まぁ、ある意味てる子が承諾してくれてよかったのかもしれない。
さっそく明日からカナヲの元でお世話になるべく、てる子には早めに鍛錬を切り上げて明日の準備をしてもらって、私と正一は引き続き筋肉強化と打ち込み稽古をした。

…この私の選択が正しいのかなんて、わからない。けれど、必ず力になってくれるって信じるしかないんだ。

訓練場に入り込んだ風がからん、と私の耳飾りを揺らした。