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鳴屋敷にいる時は、専らてる子や正一と稽古している事が多い。
正一は善逸の継子であるが、清と比べるとまだまだ実力不足で善逸の任務について行かせられないから、基本は任務に追われている善逸に変わって私が稽古をつけている。


「脇締めて。相手の攻撃から目を離さない」

「はい!」

「がむしゃらに振り回しちゃだめだよ。隙ができやすくなるからね……っと!」

「うわッ」


カーンッ!と軽い音を立てて正一が握る木刀が訓練場の端っこに飛ばされた。振りかぶった際に生まれたわずかな隙を的確につけば木刀を飛ばすのなんて容易い事。私が見つけられるのなら、戦い慣れた鬼ならばなおの事見逃してはくれないだろう。完璧に隙を作らない、ってのも難しい話だけれど、できるだけ作らないようにするのに越した事はない。


「正一は基礎がしっかりできてるから、型や太刀筋が安定してるね」

「はい!」

「だけど些か真面目かな。型にはまりすぎて咄嗟の応用がききにくいのと、判断が遅い。悩んでいても鬼は攻撃を待ってくれないから、柔軟な思考を忘れない事」

「は、はいぃ…」


しょんもり、肩を落とす正一に苦笑い。真面目なのはいい事だ。正一は反復練習を忘れないし、言われた事は冊子に纏めて書いてある。…だけど、さっきも言った通り真面目で応用がきかないのが問題点である。


「頑張って!…じゃあ次、てる子!」

「はい!」


正一と入れ替わりでてる子が木刀を構えた。静かに全集中の呼吸を繰り返すてる子は大きく1歩を踏み出し、木刀を突き出した。
…雫波紋突きか。だったら…

ただ避けるだけじゃなく、相手の攻撃の勢いを殺さないまま木刀の背で受け流す。前につんのめるてる子だけどすかさず体制を変えて下段からの斬り上げ。それを半身で避けるとすかさずてる子からの追撃。……だけど。


「ッ…」


てる子の喉元に木刀の切っ先を向ける。もしこれが真剣ならば、少しでも動けば容易く喉を斬り裂いているだろう。「まいり、ました…」てる子はか細く声を絞り出した。


「追撃までの流れはすごくよかったし、判断も早くて切り替えも早い。…ただ、一つ一つの攻撃が軽いから簡単に受け流せてしまうから、腕の筋肉をもっとつけようね」

「はい…」


逆にてる子は融通がきく。鱗滝さんの元で修行しただけあって判断力もあるし、ちょこまかと素早い動きは大きな武器だと思う。…だけど、腕の筋肉がつきにくいのか、攻撃がどれも軽いせいで鬼の頚は斬れないだろう。
先日てる子と任務に赴いた際の出来事が脳裏によぎる。斬りきれていなかったせいで危うく鬼からの反撃を食らうところだった。
それぞれに課題を与えて思案する。正一は私や善逸だけでなく、色んな隊士と対人訓練をすればどうにかかるだろう。対しててる子。筋肉はそう簡単につかないし、つきにくい体質ならばなおの事。おまけに体躯も小さいから…うーーん…

ふと、脳裏に蝶が羽ばたいた。


「しのぶさん…」


かつて蝶屋敷の主であった彼女は、鬼の頚は斬れないけれど殺す手段を持っていた。思案。


「うーん…」


毒…毒なぁ…藤の花の毒。鬼にとって藤の花は忌み嫌うもの。ちらり、てる子を横目で見る。一生懸命に筋力強化に励む姿を見て、私の中の渋る気持ちを頭を振ることで霧散させた。
手段があるのならやるまでだ。一時の私の感情でもしてる子を死なせてみろ。一生後悔するぞ。
正一とてる子にひと言入れてから訓練場を出る。自室に向かい、紙と筆を片手に簡潔に要件をしたためた手紙を鴉に持たせ、空へ飛ばした。

あの子なら、私の頼みはきっと引き受けてくれるはず。負担をかけてしまうけど、その分私が彼女の手助けになればいい。


「頼んだよ」


誰に言うわけでもなく、ぽつり、こぼした。