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平隊士だった時と比べて、柱になってからというものの任務に赴く回数が増えた。以前と比べて鬼の動きは活発ではないものの、それでもなぜか鬼の数は増えていく一方で、私たち鬼殺隊は無限城での一件以降、人数不足に悩まされている。
というのも、前柱たちの引退及び不在も理由の一つではあるけれど、だからといって、いつまでも前任に頼りきるのはよくない。だって、今は私たちが柱を任されているのだから。


「捌ノ型、滝壷!」


どッ!!と激しい上段からの斬撃がてる子から繰り出される。見事に鬼の頸に命中し、鈍い音を立てて地面に落ちた頸を横目に刀を鞘に仕舞うてる子を見て、我が継子ながら立派に成長したなぁ、なんて思ってみたり。


「師範、終わりました」

「うん、お疲れ様。この辺には……もういないみたいだね。ありがとう」

「えへへ」

「…だけど」


ー壱ノ型、水面斬り


横一文字に刀を薙ぎ、てる子のすぐ後ろに迫っていた鬼の頸を落とす。「ぐぎゃッ」だなんて蛙が潰れたみたいな声が聞こえた。


「少し浅かったみたい。鬼の頸を斬る事ができたのか、ちゃんと確認するまでは気を抜かない事。いい?」

「はい…」


しょんもり、肩を落とすてる子の頭をなでる。
技術に関しては、鱗滝さんの元で修行してるだけあって、鬼殺隊最年少にも関わらず高い方だと思う。…ただ、時々ではあるけれど、今みたいに詰めが甘いこともしばしば。この界隈では一瞬の油断が命取りになる。今日は私がいたから事なきを得たけれど、もしてる子1人の時に今みたいな事があったら…だなんて、考えるだけでも恐ろしい。
…12歳の子には酷かもしれないけど、それでも生き延びるために頑張ってほしいって思う。

……あぁ、でも。


「てる子、お腹すいてない?」

「え?えっと…ちょっとだけ…」

「喫茶店寄ってから帰ろうか」

「で、でも…」

「いいからいいから!何食べたいか考えててね。あ、それと、善逸や清たちには内緒だからね?」


口元に人差し指を当てれば、最初こそ躊躇してたてる子も、こくこくと嬉しそうに首を縦に振った。

甘いと、よく言われる。だけどこの子はまだ12歳で、本来ならばまだ親の元にいるべき年齢で、なのに清たちについて自ら過酷な道を選んで歩いている。だからせめて、ほんの少しでも私が甘やかしてあげれたら、なんて思う。





***


鬼の討伐を終え、近くに藤の家紋の家がなかったために近くの町に宿を借りた。そこで少し仮眠をとって、私たちはその町の喫茶店に足を運んだ。以前甘露寺さんから評判のいい喫茶店をいくつか聞いていたうちの一つで、私も初めて来たから少しだけ緊張する。


「はい、お品書き」

「ありがとうございます…!」


うーん、緊張しちゃってるなぁ。私も初めて喫茶店行った時はこんなんだったなぁ。
まるで過去の自分を見てるみたいに身を固くするてる子に苦笑い。お品書きを上から順番にどんなものか簡単に説明してあげれば、じゃあ…とてる子が指をさしたのは下から3番目…あいすくりんだった。


「それでいいの?お腹にたまらないけど…」

「はい!これがいいです!」


てる子がそう言うなら…
店員さんを呼んで注文を通し、去っていく店員さんの背中を見送ってからてる子に視線を戻す。あっちこっちに視線をやって落ち着きがない。いやでも、わかるよ。私も最初善逸に連れてこられた時はそんなんだった。


「あの、師範もこういうお店に来たことがあるんですか?」

「あるよ。まだ柱じゃない時にね、善逸が甘味食べたい!って言い出して私と伊之助の3人で行ったのが初めてかな」

「へぇ…」


懐かしいなぁ。ただでさえ都会に不慣れな私たちなのに、喫茶店に入ったんだもの。
「お待たせしました」昔話に花を咲かせていると、店員さんがあいすくりんを持ってきてくれた。透明な硝子の器に入れられたあいすくりんは見ているだけでも涼しげで、物珍しそうに器やあいすくりんを眺めるてる子に昔の伊之助をみているようで、ふふ、と笑いがこぼれる。


「これで掬って食べるんだよ」


最初に私があいすくりんを小さな匙で掬って口に運ぶ。ぱくり。口の中に入れた瞬間にひんやりと冷たい感覚が舌を滑る。瞬く間に独特の冷たさと甘さの余韻を残して溶けてなくなった。同じようにしてあいすくりんを乗せた匙を口に含んだてる子は、一瞬びっくりしたように目を見開いたけど、次の瞬間にはきらきらと目を瞬かせながらあいすくりんを頬張っていった。


「冷たい…!おいしい!師範、これおいしいです!」

「喜んでもらえたのなら何よりだよ」

「けど、すぐになくなっちゃうのもったいない…」

「まぁ、氷菓だからね。そればっかりは仕方ないよ。もったいないのもわかるけど、早く食べないと溶けてなくなっちゃうよ」

「あッ…本当だ…!」


あいすくりんは早くも半分ほど溶けてる。夏も終わりがけで夜は多少涼しくなってきたものの、日中はまだまだ暑い。完全に溶けてなくなる前に平らげてしまう。
店員さんにもらったお茶を啜る。実の所珈琲はあまり得意でないのだ。


「てる子はさ…」

「はい?」


辛くない?って聞こうとして、やめた。辛くないわけないのだ。てる子…いや、てる子たち兄妹が鬼殺隊を志願した理由は聞いている。親を亡くして、その頃清もいなかったから幼い2人だけでどうにかするしかなくて。
辛いのも、寂しいのも、全部を飲み込んで頑張ってる子に対してかける言葉じゃない。「…なんでもないよ。お土産買って帰ろうか」咄嗟に誤魔化した言葉は不自然じゃなかっただろうか。目の前の少女は少し考えた後にむむ、と眉を顰めた。


「…羽炭さんは、最近お土産を買いすぎです。この前も大福をたくさん買って帰ってきたじゃありませんか」

「そうだっけ…?」

「そうですよ!あまり甘いものばかり食べてると、善逸さんや兄ちゃんたちが肥満になってしまいます!」

「肥満…」


言われてみて、確かに最近はよく何かを買って帰ってるな、なんて思う。だって、皆の喜ぶ顔を思い出してしまうとついつい財布に手を伸ばしてしまうのだから仕方がない。
…多分弟妹たちにしてやれなかった事をしてやりたいって言う反動なんだと思う。けれど…そうだなぁ…てる子に言われるのだから、きっとそうなんだろうなぁ…気を付けよう。

なんだかんだ鳴屋敷の財布の紐を握ってるのは、目の前でむん!と頬を膨らませているてる子である。