しんしんと、雪が静かに降り注ぐ。はぁ、と小さく息を吐けば白い煙が宙を燻り、冷たい空気に溶けた。
「寒いな」
隣を歩く炭治郎が呟いた。顔をそちらに向ければ、鼻の頭を真っ赤にして私を見ていた。だから私も炭治郎を見つめ「寒いね」と言った。
一面の白い世界は切なく、寂しい気持ちになる。色鮮やかな山の景色がただの白紙の世界に変わるからなのか、ただ情緒が不安定になるだけなのかはわからないけど、時々、そう、どうしようもなく心細く感じるのだ。
「雪、止まないね」
「そうだな。このままじゃ今晩は吹雪きそうだ」
「ねぇ」
「何?」
「…寂しい」
「…俺も」
私の小指に炭治郎の小指が触れ、そっと絡まる。
容赦なく吹き荒ぶ風が羽織から入り込み、今にも皮膚や肺を凍らせてしまいそうだ。はぁ、と息を吐いた。白紙の真っ白い世界に、私と炭治郎だけが取り残されたような錯覚に陥る。
…いや、もしかしたら本当に私たちだけなのかもしれない。むしろ私“たち”じゃなく私“だけ”なのかもしれない。目の前に見える雪を被った山の景色も、耳を立てる白兎も、雪崩落ちる雪の塊も、実は単なる私の夢で、妄想で、現実ではないのだとしたら。
なら今ここに立つ私たちは一体“何”であるのか。
するり、唐突に手のひらを熱が滑る。驚いて顔を上げると、元々優しい眼差しにさらに陽だまりを混ぜ込んだ赤混じりの目が私を射抜く。
私と同じ、赫灼の彼はぽつり、口を開いた。
「ちゃんとここにいるよ。俺も、羽炭も、足をつけてここに立っているよ」
「…うん」
「帰ろうか」
「帰ろうね」
鏡合わせなのに正反対の私たちは、きっとこれはこれで均等が取れているんだろう。
指と指を絡ませて、きつくきつく、隙間ができないようにきつく握りしめる。お互いがお互いを離さないように、存在を見失わないように、しっかりと“今”に繋ぎ止めるように、寄り添い、白紙の世界を歩き出す。
「炭治郎」
「ん」
「手、あったかいね」
「羽炭は冷たいな」
これは、いつかで起きたどこかの時間のあったかもしれない世界のお話。