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「お嬢!おはよう!」


ぴしゃん!と勢いよく襖を開けば、差し込んでくる太陽の光が眩しいのか唸りながら布団に潜り込むお嬢。遠慮なしにズカズカと部屋に入り込んで布団を揺すると、あまりにもしつこいからかお嬢がのっそりと起き上がった。


「善逸うるさい…」

「旦那に起こして来いって言われてるんでね!ごめんなさいね!」


ほらほら、早く顔洗って!
未だ船を漕ぐお嬢の膝裏と背中に手を回して持ち上げれば、お嬢は「自分で歩ける…」だなんて文句を垂れる。だけど俺は知っている。たとえ歩けたとしても、ほんの数歩進んだだけだその場で寝こけてしまう事を。

ここはとある極道一家の本家である。そしてお嬢はそこの令嬢で、なぜ俺がこんな所にいるのかと言うと、海より深い訳がありまして。
4年前、だったか。酒癖の悪い父親と、金遣いの荒い母親に必要最低限のものだけ持たされて家を放り出されたのである。バイトはしていたものの、給料のほとんどが母親に取られていたため、ホテルはおろか漫喫さえも行けなかった俺は一先ず今日だけはと公園で夜を明かそうとした。
その時に出会ったのが、当時齢9つだったお嬢だったのだ。

親に見放され、行くあてもなかった俺を拾ってくれたお嬢と、そんな俺を入れてくれた旦那には感謝の念しかない。だから俺は必死に組の人間たちに鍛えてもらって、高校卒業を条件にお嬢のお付きになる事を許された。


「はい、着いたよ。顔洗って…あ、これタオルね。歯ブラシはこっち。なんなら俺が磨いてあげようか?」

「いい、自分でする」

「遠慮なんてしなくていいんだよ?」

「遠慮してない!善逸は外にいて!」


ぴしゃん、と無情にも閉め切られた洗面所のドアに切なさが胸に広がった。お嬢〜…そりゃないぜ…
仕方なしに壁に寄りかかってお嬢を待っていると、俺とそう歳の変わらない炭治郎が竹刀を片手に歩いてきた。


「善逸、またやってるのか。あまりしつこいとお嬢に嫌われるぞ?」

「うるさいよ。お嬢様はこんな事で俺の事嫌ったりしないもんね。ねー?お嬢!」

「善逸、嫌い」

「え」


がんッ!と頭にいくつもの岩が降り注いできたような衝撃だった。「お、お嬢…!」炭治郎がドア越しにお嬢を窘めているけれど、今の俺にはそれさえも聞こえない。
嫌い…嫌い…嫌い…。お嬢の言葉が脳内を反芻する。お嬢が俺の事、嫌い…?そんな、俺、お嬢に捨てられたら生きていけない…

ぼろり。滲んだ目から涙がこぼれ落ちる。それを見た炭治郎が余計に慌てて、どうにか俺を泣き止まそうとしてくれるけれど、どうしたって目玉のこれは止まることはない。


「お嬢ぉ…」


がちゃり、洗面所のドアが開く音がした。それと同時に、ぽすり、背中から首に回される細い腕に目を瞬かせた。


「…ごめん。嘘ついた」

「へ…?」

「私、善逸の事嫌いじゃない…大好き…だから、泣かないで…」

「うッ…うぅ…お嬢おおおお…!!!」


ぐるん、と振り返ってお嬢の小さな体を抱き締めた。「俺"…!お"嬢"に"嫌"わ"れ"た"ら"生"き"て"い"け"な"い"ん"だ"か"ら"ね"!!」そう泣き叫べば、お嬢は困ったような、それでいておかしそうな音を立てて笑った。
笑い事じゃないよ!!


「よかったな、善逸!お嬢に嫌われてなくて!」

「うん…!」