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ぽかぽかと、陽気な陽射しが差し込む午後のこと。

久しぶりの任務がない一日。私と禰豆子は蝶屋敷の縁側にて日向ぼっこをしていた。
禰豆子が太陽を克服してからというものの、鬼になる前のようにこうして陽の光の下でのんべんだらり、と過ごすのは実に久しぶりである。もう二度と妹と並んで太陽を浴びる事はないと思っていたのに、とんだ嬉しいどんでん返しに一番喜び勇んでいるのは私だったりする。

そして何より、今日は珍しく任務も何もない日であった。


「こんこん小山の子うさぎは、なぁぜにお耳がなごうござる」


私の太ももに頭を預け、すやすやと眠る禰豆子の頭を撫でながら口ずさんでいると、唐突にがさり、と茂みが鳴る。「何やってんだ、炭子」猪の被り物にたくさんの葉っぱを付けて茂みから現れたのは伊之助だった。


「伊之助こそ、そんな所で何やってるの?というか、私は炭子じゃなくて名前ね」

「どうだっていいだろ」


いやよくないけど。
…そう言っても、伊之助は直さないんだよなぁ。若干遠い目をしながら、私の隣に腰掛けた伊之助の被り物についた葉っぱを払ってやった。


「伊之助も今日は任務ないの?」

「おう。さっきまでどんぐり集めてた。見ろ、ツヤツヤのでっかいやつ」


ずいッ、と差し出された手のひらには、まぁるくて太陽の光を反射させた大きなどんぐり。たしかに、すごく綺麗などんぐりだ。「わ、すごいね」そう言えば伊之助はふふん、と得意げに笑った。


「こいつ、寝てんのか?」


伊之助が禰豆子を覗き込みながら言う。


「そうだよ。あ、こら。つつくのやめろ。禰豆子が起きるだろう」

「へん」


伊之助は傍らに置いてある器から煎餅を鷲掴み、食べ始める。めっちゃぼりぼりうるさい。「う”…」あまりのうるささに禰豆子が唸りながら身動ぎした。


「…そうすると寝れるのか?」


唐突に伊之助がそう聞いてきた。被り物を外したのか、くりくりの緑の目が膝枕をしている禰豆子に向けられている。


「さぁ…私は基本する側だからわからないけど、私の弟妹たちも善逸も嬉しがってたからなぁ」

「ふーん」


興味なさげにそっぽを向く伊之助。だけど、期待するような、羨ましいような、そんな匂いが漂ってきて思わず笑ってしまった。ほんと、うちの親分は素直じゃない。


「伊之助もやってみる?」

「ハァ”ーン!?なんで俺がんな事しなくちゃなんねーんだよ!」

「こら!大声出さない!」

「……俺は山の王だから、んな事してもらわなくてもいいんだよ」

「じゃあ、そんな山の王に子分の私がしてあげたいって言うんじゃだめだろうか」

「…そ、そういう事なら仕方ねーな!子分がそこまで言うってんなら付き合ってやるよ!」

「ふふ、はいはい。お願いします」


禰豆子の体を少しだけずらして、伊之助の頭が置けるようスペースを作る。「はい、どうぞ」「お、おう…」どことなく緊張した面持ちで、伊之助はそろぉっと禰豆子がいる反対側の太ももに頭を乗せた。


「………」

「どう?」

「…変な感じだ。けど…悪くない…」

「そっか」


両手で伊之助と禰豆子の頭をそれぞれ撫でながら、また小さく歌を口ずさむ。
ぽかぽか、ぽかぽか。時々鳥のさえずり。あったかい太陽の匂いを肺いっぱいに吸い込んで、ふと寝息が二つに増えていることに気付いた。


「伊之助?」

「ぐぅー…ごッ…」


ごッ、て…寝息よ…
大口を開けて寝る伊之助。猫みたいに丸くなる禰豆子。こうして何もない時間を過ごしていると、平和だなって、ほんのちょっぴり思ってしまった。
にしても、二人も膝枕してたらそろそろ背中が痛くなってきたなぁ…


「あれ、名前?」


ぐーッ、と二人を起こさないよう背伸びをしていると、背後から声をかけられる。振り返ると、ぽかん、と呆けた善逸。
私たちの中で唯一昨日から任務だった善逸は、どうやら今帰ってきたらしい。ひらり、手を振った。


「あ、善逸。おかえり」

「ただいま…って、何それ。え?ちょっと、何膝枕しちゃってんの?禰豆子ちゃんはともかくなんで伊之助も膝枕してんの!?羨ましすぎるんだけど!!ねぇちょっと名前!!」

「うるさい!起きるだろ!」

「ぶべッ」


羽織を全力で投げてやった。善逸はめそめそとしとどに泣きながら私にしがみついてきて、人の肩に顎を乗せながら二人を覗き込む。


「…すっげー気持ちよさそうに寝てんじゃん」

「そうなんだよ。だから動くに動けなくて…」

「ふーん…」


片やすやすや。片や凄まじい鼾を轟かせて眠る二人。なんだか兄弟みたいに見えて、笑いそう。
くすくすと声を抑えて笑っていると、ぽすん、と背中に温かいものが触れる。びっくりして首だけ振り返ると、視界の隅っこに金色が見えた。


「…背中、しんどいんだろ。仕方ないから、俺の背中貸してやる」

「ふふ、ありがとう善逸。じゃあ、お言葉に甘えて」


ゆっくりと善逸の背中に体重を預ける。私が思っているよりずっと善逸の背中は広くて、酷く安心した。


「善逸の背中、あったかいね」

「…ほんと、そういう事言わないで…」

「なんで?本当の事なのに」

「だからッ…もおおお…!!そういう所だよぉ…!」


わぁ、すっごい照れてる匂いがする。
きっと見えない背後で顔を真っ赤にしているんだろう。そう思うと胸に陽だまりが灯るみたいで、あぁ、幸せだな、平和だなって、不謹慎にも思ってしまったのだ。
縁側で善逸と背中合わせで座って、私の膝で眠る二人の頭をまた撫でながら空を仰ぐ。


「…名前」


不意に背後から善逸が名前を呼んだ。


「ん?」

「……あの時の歌、もう一回歌って」

「善逸はあの歌好きだね」

「まぁ、そうなんだけど…俺は名前が歌うから、あの歌が好きなんだ」

「…そっか」


こつり、私の後頭部に善逸の後頭部がくっつく。私は、背中と太ももの温もりを感じながら、ふるさとの歌を紡いだ。

あぁ、どうか、今この瞬間が、ずっとずっと永く続きますように…

そう、願わずにはいられない。





(執筆2019.10.28)


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