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「煉獄さーん」


人混みを掻き分けながら、目立つ黄色を探した。
今日は珍しくお互いが任務も何もない一日だったから、せっかくだし街でも、と誘ってくれたのが煉獄さんであった。
恋仲になってからというものの、しばらく任務続きなのもあってこうして二人だけで街に繰り出すのは本当に久しぶりだった。だから私も、隊服じゃないかわいらしい着物(甘露寺さんが見繕ってくれた)に身を包み、歩いていたのだけど…


「いないなぁ…」


はぁ。軽くため息を一つ。
この着物はかわいいし、きっと流行のものなのだろうけど、如何せん歩きづらい。普段からこういう歩幅の狭いものを着ないだけ余計に。だから、慣れない人混みにまんまと流されて煉獄さんとはぐれたのは、完全に私の落ち度であった。

…だけど。


「着物、かわいいんだよなぁ…」


さすが甘露寺さん。
なんて、脳裏でにこやかに笑う彼女にお礼を言いまくっていると、突然腕を後ろに引かれた。


「わッ!!」


あまりに急の出来事だったから、踏ん張れもせずに後ろに倒れ込む。せめて受け身でも、と身を固くしたけど、ぽすり、と存外軽い音を立てて背中が暖かいものに当たった。


「すまん!見失ってた!」


顔を上げれば、いつもの笑顔を浮かべた煉獄さんがいた。
彼もだいぶ私を探し回ったのか、額にうっすらと汗がにじんでいる。へちょり、自分の眉が下がったのがわかった。


「ごめんなさい煉獄さん…私が人に流されたから…」

「いや、いい!俺もいつものように歩いてしまって気遣いができていなかった」

「気にしないでください!こうして見つけていただいただけで嬉しいです」

「…ん、そうか」


ゆるり、煉獄さんの私を見つめる目が優しく細まる。あまりにもその目が優しくて、全身から愛おしいって匂いを纏わせるから、なんだか私の方が恥ずかしくなってきてだんだんと顔に熱が溜まっていく。
あぁ、ほんと、そういう目で見ないでほしい。だって、どうしたらいいかわからなくなる。

…それにこの体勢も、そろそろ…。だって…いつの間にか背後から抱き締めるように胸の前で腕が交差してるから、煉獄さんに包まれているみたいで落ち着かない。

けど…


「(あったかい、なぁ…)」


人の温もりとは、こんなにも暖かかっただろうか。禰豆子や善逸、伊之助と一緒にいる時とはまた違った暖かさ。落ち着かないけれど、とても居心地いい。


「…ここが往来の場でよかったと心底思う」

「え?」

「もし俺たちがいる場所が屋敷だったなら、うっかり君に口付けをしている所だった」

「…!?」


く、くち…くちづけ…え…?口付け、ですか。あの。口と口がくっくつやつ。え?
ぶわり。顔面がめちゃくちゃ熱くなった。いやだって、そんな…あーダメだ、いきなりの爆弾発言すぎて頭が回らない…!

きっと今の私の顔は真っ赤なのだと思う。少しでも冷せればと顔を手で仰ぐけれど、多分意味ない。

不意にくるり、と体が回る。ぽかん、と呆ければ、煉獄さんさんが私を正面から見下ろしていた。


「それはそうと、竈門少女に渡したい物がある」

「渡したい物?」

「君を探している時に見つけたんだが…」


差し出されたのは、淡い紫苑色の装飾がついた簪だった。「も、もらえません、こんな高価なもの…!」見るからに高価なものだとわかるそれに思わず首を横に振るも、煉獄さんはそれを知らん振りしておもむろに私の頭に触れる。


「れ、煉獄さん…!」

「俺が竈門少女に贈りたいのだ。…ダメ、だろうか…?」

「…!だ、ダメとかそんなんじゃ…ただ、私にはきっと似合わないだろうし、煉獄さんに何かを買わせるために街に来たわけじゃ…」

「竈門少女は俺に何かを買わせたいのか?」

「そんなわけ…!」

「なら、それでいいじゃないか」

「う…」


しゃらり、耳元で涼し気な音が響く。あぁ、もう、完全に言い負かされた。この人には一生適わない。


「…よく似合っている。竈門少女の髪にはやはり淡い色がよく映えるな」


そう言って私の頬を撫でる煉獄さんに、今度こそ私は恥ずかしさでキャパを超えた頭を抱えて地面にしゃがみこんでしまったのだった。





(執筆2019.11.9)



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