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「申し訳ございません、鬼狩り様…今日この子が来る事をすっかり忘れておりまして…」


申し訳なさげにそう言う藤の家紋の家の奥さんの背には、私たちの様子を伺うように隠れる小さな少年がいた。

今回の任務は善逸との合同任務なのだが、日暮れまでに随分早く来てしまったため、それまで近くの藤の家紋の家で体を休めようと立ち寄ったのがここだったのだ。
例に漏れずその発案は善逸だったのだけど。…まぁ、情報収集は予めしてたからいいけど、もしそうじゃなかったら善逸を残して私だけ先に行ってたところである。

…だいぶ話がそれた。
ちらちらと顔を出したり引っ込めたりしている少年に六太を思い出しながら、ゆっくりとその子の目線に合わせてしゃがんだ。


「こんにちは。今日ここでお世話になる竈門名前です。君のお名前を聞いてもいい?」

「…た、太助…」

「太助くん。素敵なお名前だね」


少しの間だけど、よろしくね。
そう言うと太助くんは少し考えた後、かばッ!と勢いよく抱き着いてきた。「あ”ーッ!」何やら善逸の汚い悲鳴が聞こえた気がしたけど無視しよう。多分碌な事じゃない。


「こ、こら太助…!すみません鬼狩り様…!」

「いえ、気にしないでください。それより奥さん、もしかしてどこか出かける予定だったのではないですか?」

「か、買い出しに少々…ですが…」


ちらり、奥さんの視線が私に抱きつく太助くんに向く。ふむ、少し逡巡。


「でしたら、帰ってくるまで私たちが見ておきましょうか?」





***



そう申し出て数時間。
最初の方こそ奥さんも遠慮していたのだけど、私もお世話になってる身で何もしないと言うのは気が引けたため、差し出がましいけれど、お世話になる代わりという事で話がついた。

…まぁ、ほぼ私が丸め込んだのに変わりないんだけど…


「離れろ」

「いや」

「離れなさいッ」

「いーやッ!!」


さっきから私にしがみつく太助くんを剥がそうと善逸が大人気なく躍起になっているのを横目にため息を吐く。全く、相手は子供なんだからそんなムキにならなくてもいいだろうに…


「おにーちゃんいや!」

「嫌!?あ、あんまりだぞ太助くん…!」

「あんまりも何も、善逸が年甲斐なく騒ぐからだろう…」

「だって名前ー…!」

「だってじゃない」


しとどに涙を流す善逸。太助くんはぷーん、とそっぽを向くと再び首に抱きつく。それを見た善逸がまた「ムキィー!」と鼻息を荒くして…あぁ、これが悪循環って言うんだろうなぁ…
なんて、遠い目をしていると唐突に善逸がすこぶる真面目な顔をした。


「あのね、太助くん。俺と名前はこれから鬼を退治しに行くの」

「おに?」

「そう、鬼。鬼ってね、すっごく怖いんだよ。俺はめちゃくちゃ弱いから、名前に守ってもらわないといけないわけで」

「善逸…」

「だからね、今のうちにゆっくり休んどかないと、いざと言う時に名前が俺を守れないだろ…!?」


何を馬鹿なことを言っているんだこのたんぽぽは。思わずジト目になってしまったのは仕方ないと思う。


「おにーちゃんは、おねーちゃんにまもってもらうの?」

「うん、そうなんだ。だから太助くんはなれ…」

「それはおかしいよ」

「て…え…?」

「おんなこどもをまもるのは、おとこのやくめだと、じいちゃまにおそわったもん!」

「ぐッ…」

「おんなのひとにまもってもらうのは、おとこのかざかみにもおけないと、じいちゃまがいってた!!」

「ぐほッ…!」

「ぼくはまだこどもだけど、おとこだから!おねーちゃんはぼくがおまもりするんだ!!」

「こ、言葉の刃がッ…ごふッ」


あ、死んだ。
「前にもこんな事が…!」なんて言いながら胸を抑えて痙攣している善逸。
何はともあれ、子供にそんな事言われてどうするの…


「太助くんは頼もしいなぁ。じゃあ、何かあったらお願いしようかな」

「うん!まかせて!」


おぉ、これは本当に頼もしい。竹雄も小さい頃はこんなんだったなぁ。
しみじみと思い出に馳せていると、太助がうとうとと若干眠たそうにしているのに気付く。あれほど(善逸と)騒いでいたから、疲れたのかもしれない。


「太助くん、眠い?」

「んーん…ねたらおねーちゃんいなくなっちゃう…」

「私たちまだここにいるから、寝てても大丈夫だよ。ね?」

「ん…」


ぽんぽん。ぽんぽん。太助くんに心臓の音を聞かせながら、ゆったりと背中を叩いていると、そのうちに耳元で寝息が聞こえてきた。


「善逸」


畳で寝かせるわけにもいかないから、善逸に押し入れから布団を出してもらおうと思ったのだけど、なんだ、どうした。なんでそんなじっとりした目で私を見る。


「頼りなくて悪ぅございますね」

「…何不貞腐れてるんだ」

「べっつにぃ?」


とか言ってる割に目と態度が「不貞腐れてます」と言わんばかりじゃないか。
はぁ、とため息を一つ。おもむろに手を伸ばして、ぽん。ぶすくれたたんぽぽ頭にのせた。


「誰もそんな事言ってないだろうに」

「言ってなくても思ったでしょ」

「なんでそう卑屈になるの…」

「卑屈になってませんー。普通ですー」

「…私はずっと頼りにしてるよ。事実、君に何度も助けられてるし、善逸が強いのもちゃんと知ってるからね」


善逸の存外柔らかい髪を撫でながら呟く。ふと彼を見れば、これでもかと言うほど顔を緩めていて、思わず一歩後ずさった。


「うふふ、うふふふふ」

「(え、何怖い…)」

「名前ってば、そんな褒めても何も出ないぞ!うふふ」


あ、なんだ喜んでただけか。
ごろごろ。ついに畳を転がり出した善逸はなおも不気味な笑みを浮かべている。…まぁ、善逸が嬉しいのならそれでいいか。






(執筆2019.11.1)


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