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地毛と同じ色のエクステを付けて、編み込みを混じえたハーフアップのヘアアレンジ。アイシャドウは淡いオレンジ色。オレンジよりのほんのり赤いリップは白い肌によく映える。
黒地に胸元に白い花の刺繍があしらわれたトップスに薄いデニム生地のハイウエストのショートパンツ、そして黒い魅惑のニーハイに焦げ茶の編み上げショートブーツを合わせた彼…我妻善逸はどこからどう見ても完全無欠なかわいい女の子だ。


「ンギャーーーーーッ!!かわッ…なん、え?かわいすぎ!!何!?なんなの!?ねぇ!!善逸は私をどうしたいの!?」

「た、楽しみ過ぎて気合い入れすぎた…!」

「いいよむしろもっと気合い入れて!!」


はい目線こっち!!
バシャバシャとデジカメで写真を撮りまくる私はきっとはたから見たらだいぶ不審者なのだろう。でも構うものか。この日のためにデジカメフル充電したしSDカードも一番容量が多いやつ4枚も買ったんだから。


「はぁー…ほんとかわいい…こんな素敵な人が私の彼氏でいいの…?懺悔するわ…」

「名前だってかわいいよ。そのリップあのメーカーの新色だろ?」

「わかっちゃう?さすが善逸!」


そう言うと善逸は照れたようにはにかんだ。ウワアアアアアア…!て、天使の笑みッ…!!!
ほんと…現地集合にしてよかった…楽しみが倍増だと思ってたら予想以上だった…

内心で激しめのスキップをしながら善逸と恋人繋ぎをし、入場料を払って遊園地に足を踏み入れた。
園内に入ればすれ違う人みんなが善逸を振り返る。そうだろうそうだろう、かわいいだろう。うちの彼氏はかわいいだろー!!!!男の子なのにこんなにかわいいんだぞ!!

近くのトレーラーでキャラメル味のポップコーンを買って、アトラクションの列に並んでいる間もちらちらとこっちに向けられる視線に優越感を感じていた。

ふふん。得意げに鼻を鳴らしながらポップコーンを貪っていると、不意に恋人繋ぎをした手が引かれる。「どうしたの?」首を傾げて振り返った数秒後、私は屍山血河の屍と化した。


「名前がかわいいから、みんな見てる」


ハァアーーーーン聞きましたかお茶の間のみな様!!こんな!!事を!!言いやがる!!違う!!みんなが!!見てるのは!!あんたや!!
少し唇を尖らせて、さも不機嫌ですと言わんばかりに不貞腐れるうちの彼氏様が世界で一番お姫様です。

口からまろび出そうな心臓を押さえつつ、どうにか善逸に笑顔を向ける。冷静に、冷静になるのよ名前…これしきの事…いつもの事じゃない…!!


「善逸がかわいいから、みんな見とれちゃうんだよ」

「何言ってんの、名前の方がずっとかわいいからね!?俺のためにリップ新調したのも、頑張ってダイエットしようとして結局諦めたのも知ってるから!!」

「お前何言っちゃってんの!?前者はいいけど後者は禁句事項だからね!!」


違う意味で血の涙を流した私であった。





アトラクションと言うアトラクションを乗り回し、園内のレストランで腹拵えした後も気が狂ったように絶叫系を乗りまくる私たち。お揃いで遊園地のマスコットキャラの耳カチューシャを買って、いったんのトイレ休憩を挟んでいた。私は即行…もはや光速の域でトイレを済まし、一番トイレの出入口がよく見えるベンチに腰かけてカメラを構えて待っていた。
え?だって善逸が女子トイレ(の隣にある多目的トイレ)から出てくるんだよ?かわいすぎやん?写真におさめるしかないやん?おわかり?


「ねぇ、君一人?」

「はぁぁぁまだかなまだかなまだかな」

「(え、ちょ、怖い…)ね、ねぇ君…」

「設定よし望遠もよしメモリーカードも差し替えたあ、レンズ磨かないと…少しでも曇ってたら写真が撮れない…」

「あの!」

「は?」


思わず凄んでしまった。レンズを拭くクロスを片手に目の前の二人組の男を下から睨み付けると「ひッ…」と小さく悲鳴をあげて後ずさった。失敬な。


「さっきから見てたけど、君一人だよね?よかったら俺たちとまわらない?」

「結構です私には連れがいます」

「女の子だろ?その子も一緒でいいからさ!」

「行かんっつってんだろ」


てか、なんで女の子って断定してんのこの人たち。まぁ、見た目は女の子だけどね。
未だしつこく誘ってくる男たちが煩わしくて、仕方なしに別のところで待っていようと腰を浮かせた瞬間、ぐいッと腕を引かれる。
びっくりして振り返ると、戻ってきたらしい善逸がおっかない顔をして男たちを睨めつけていた。


「この子の連れは俺ですけど」

「(きゅん)」


え、何?急にかっこよくなるの?ヤダーーーーウソーーーーかわいくてかっこいいとかーーーー無敵やん?
久々に見たかっこいい一面に人知れずときめいていると、目の前の男たちはあろう事か、私の中の地雷ナンバーワンワードを口走った。


「え、“俺”…?」

「うわ、こいつよく見たら男だぜ…!」

「マジかよ…女装とか、気持ち悪…」


は?


「行こうぜ」


隣で善逸が俯いた。そう言い捨てて去っていく下劣な男共に私の怒りは一瞬でメーターを振り切った。怒髪天じゃい。


「待てやゴルァアアアアアア!!!今なんつったもっぺん言ってみろくそっカスが!!てか、テメーらのせいで若干恥じらいながら女子トイレ(の隣にある多目的トイレ)から出てくる善逸の写真が取れなかっただろゥガアアアアアア!!!どう落とし前つけてくれんじゃ!!あ、こら待て逃げんな弱味噌オオオオオ!!!」


怒涛の勢いに恐れをなしたのかすたこらと逃げて行く不届き者たちを追いかけるべく一歩を踏み出せば、善逸に「ちょ、いいから!何してんの!?」とめっちゃ引き止められた。だって!だってよお前!!


「あいつらの目は腐ってるんだよ!こんなかわいくて素敵でパーフェクトスーパー彼氏なのにあんな事言うとか許されるべきじゃない!粛清だかんね!?粛清!即!粛!清!」

「…ウィヒヒ」

「……何、何急に笑ってんの」


怒ってんだぞ私は!!
ぷんすこそう言うも、善逸はくすくすと笑うのをやめない。かわいい笑みに少しずつ私の怒りも鎮火していく。なんだか悔しくてぎゅーッと抱きつけば、ぽんぽんと優しく背中を叩いてくれてきゅー、と胸が(かなり激しめの嬉しさに)苦しくなる。
んもおおおおおお!!


「ありがとう名前。そう言ってくれて少し救われた」

「何言ってんの?私は女装してる善逸も大好きだけど、ありのままをさらけ出してくれるかわいくてかっこいい善逸が大好きなんだから!!あんなくそたちの言うことなんて気にしなくていいからね!!」

「…うん」


そうしてまた耳元で「ウィヒヒ」と笑う善逸と手を繋いで、再びアトラクション巡りへと足を踏み出したのだった。

途中であの不届き者×2と再び遭遇した時には、みすみす私が逃がすはずもなく、全力で謝らせてやったのはまた別の話。






(執筆2019.11.2)


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