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昼休みは決まって屋上に集まってみんなでお弁当をつつくのが日課になっている。
途中の自販機でパックのいちご牛乳を買い込んでから屋上に続く階段を登る。薄暗く、冷たいリノリウムの床が上履きの足音を反響してほんのちょっぴり気味が悪いが、登りきってしまえばなんてことはない。

鉄の重たいドアを開ければ、ふわりとほんのりぬるい風が頬をなでる。「あ、来た!」妙な風の生ぬるさに顔を顰めていると、既に来ていたらしい善逸が手を振っていた。それに軽く振り返しつつ地べたに座り込み、お弁当を広げた。


「はい、こっち善逸の分ね」

「えへ、いつもありがとう」


善逸のお弁当を作るようになったのは割と最近である。普段からコンビニのおにぎりやら菓子パンやらしか食べていないのが気になって申し出たのがきっかけである。パンの仕込みで忙しい母に変わり、我が家のお弁当を作るのはもっぱら私だ。だから、今更一人分増えたところで大して変わらない。むしろ、おいしいおいしい言いながら食べてくれるからすごく嬉しい。


「そう言えば伊之助は?いつもならいの一番にここに来んのに」

「伊之助なら、しのぶさんが毎日水換えしてる花瓶を割ってしこたま怒られてるよ。当分来ないと思うから先に食べていようか」

「あいつは三年生のフロアに何しに行ったんだよ」

「さぁ…」


伊之助はどの学年でも目撃情報が多いからなぁ。お弁当の蓋を開け、手始めにだし巻き玉子に箸を伸ばす。口に放り込めば出汁の香ばしい匂いとふわりと柔らかい噛みごたえに、我ながら上手く焼けたと内心で褒めちぎった。
今頃禰豆子や竹雄もお昼かなぁ。お弁当喜んでくれるといいんだけど。


「ほんっとおいしい!てか、だし巻き玉子の作り方変えた!?めっちゃふわふわなんだけど!!」

「ふやかした焼き麩を入れるとふわふわになるらしいよ」


クッ○パッド先生様々である。なんにせよ、善逸に喜んでもらってよかった。自分が作ったものをおいしいって食べてくれる事ほど嬉しいことはないから。
こぽこぽと水筒にお茶をそそいでいると、ふと善逸が私のお弁当を凝視しているのに気付く。…何、どったの。


「いや、名前のそのおかず…」

「あぁ、これ?ちょっと焦がしちゃって。けど善逸のには入れてないから大丈夫だよ」

「…ねぇ、それ俺にちょうだい?」

「え、でもこれ焦げてるし…自分の食べなよ」

「いいから」

「あッ、ちょお…!」


瞬く間に私のお弁当から焦げた唐揚げが消えた。ざ、残像すら残らなかっただと…!?どんだけ…てか…


「焦げてるからおいしくないよ…?」


善逸の口の中に消えゆく黒焦げの唐揚げを見送りながら呟く。ごっくん、善逸は嚥下した。


「名前はいつもおいしいお弁当作ってくれるじゃん。ほんの少し焦げたくらいでまずくなるわけないって」

「善逸…」

「うおおおおおお!!!飯だ!!」


ありがとう。そう言う前に突如として轟いた声に思わず飛び上がった。同時に、真横から伸びてきた腕が私のお弁当からだし巻き玉子を掻っ攫う。


「よこせ炭子!」

「こ、こら伊之助!」


瞬く間に伊之助の口に吸い込まれた私のおかず。普通に切ない。いや、別にいいんだけどさ、せめて一言言ってほしいわけで。「何やってんの!?人のおかずをとるんじゃありません!!」「うるせー!紋逸!!」「ギャー!!」お昼そっちのけで追いかけっこを始めた善逸と伊之助はいつもの事として。

ぐるぐると屋上を走り回る二人を横目にさっさと食べ終えた私は食後のいちご牛乳に舌鼓をうつ。まろやかないちごの風味が鼻から抜けてほわぁってなった。


「逃げんな弱みそが!!」

「いや逃げるわ!!お前のせいでせっかくの名前のお弁当が台無しだろ!!」

「おーい、早く食べないと予鈴鳴るよー。伊之助も、ちゃんとお弁当持ってきてるから食べなよ」

「本当か!?」


さっきと打って変わって、喜び勇み飛んできた伊之助に大きめのお弁当箱を手渡す。伊之助はよく食べるからなぁ。


「天ぷらは入ってないけど、唐揚げいっぱい入ってるからね」

「ん」

「はぁ…やっと解放された…」

「おかえり」


大の字になって倒れ込む善逸の傍らで、一心不乱にお弁当をかき込む伊之助。そんな二人を見つめながら、私は再びいちご牛乳に口をつけた。

はぁ、平和だなぁ。





(執筆2019.11.29)


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