×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -






私は義勇兄さんが大好きである。兄と言っても血は繋がってはいない。ただ、同じ師範の元で剣技を学び、同じ釜の飯を食った仲である。けれど義勇兄さんも錆兎兄さんも、私を本当の妹のように可愛がってくれるから、親しみと尊敬の念を込めての“義勇兄さん”なのである。

そんな私にも弟弟子ができた。


「名前さーん!!」

「炭治郎!!」


ぶんぶん、と大きく手を振りながら駆け寄ってくるかわいい弟弟子…炭治郎を真正面から抱き締めれば、私より少しだけ背の低い炭治郎は顔を真っ赤にしながらもぎこちなく抱き締め返してくれた。そういうところがかわいいんだよぅ!

炭治郎は私の弟弟子であると同時に、唯一鬼を連れている隊士だ。けれどその鬼は炭治郎の大事な妹で、彼女を人間に戻すため、家族の仇をとるため鬼殺隊に入ったのだそう。
そんな健気な彼に胸打たれた私は当然の如く、以前の柱合会議にて鱗滝さんの手紙に名前を連ねた一人である。姉弟子が弟弟子のために命をかけるのは当たり前じゃんよ!


「炭治郎、背ぇ伸びたねー!前までもうちょっと低かったのに、今じゃほとんど目線が変わんないや」

「はは、名前さんを抜かすもの時間の問題ですね」

「なんの!私だってまだ成長期だぞ!もっと伸びるはず!」

「いや、さすがにもう無理だと思います」


炭治郎が真顔でつっこむから…。一瞬しょぼん、てなっちゃったじゃん…
体を離して炭治郎を睨めつけると、なんでそんな顔をされているのか分からない、と言いたげに見つめてくるものだから。なんかこっちが大人気ないような感じがして仕方がない。


「そういえば、名前さんはこれからどこかに行く予定でも…」

「名前」


炭治郎のセリフに被るように私の名前が飛んできた。振り返ると、いつもの無表情を心做し柔らかくした(ように見える)義勇兄さんが立っていた。


「義勇兄さん!」


ぱッ、と炭治郎から離れ、義勇兄さんに駆け寄れば頭にぽすん、と義勇兄さんの大きな手が乗った。この撫で慣れてない感じがね、図体に似合わずかわいいよね。


「会えたのか」

「うん!さすが、鎹鴉たちは優秀だね。そうだ、今日はご飯少し豪華だよ。鮭大根作るからね」

「そうか」


相変わらず口数が少ないなぁ。きっと鮭大根に思いを馳せているであろう義勇兄さんを微笑ましく見つめていると、くん、と不意に袖が引かれた。「炭治郎?」びっくりして袖を引いた主を振り返れば、いつものキラキラ笑顔なのに若干目が笑ってないような顔。
……え、どういう顔よそれ。


「冨岡さんはこれから任務ですか?」

「あぁ」

「そうですか…頑張ってくださいね!」

「?あぁ」

「義勇兄さん、いってらっしゃい!待ってるからね!」


そう言うと義勇兄さんはうっすら、ほんっっっっとうにうっすらと(不気味に)笑い、瞬く間に行ってしまった。「名前さん」炭治郎が私を呼ぶ。くるん、と体を反転させられて炭治郎と真正面に向き合うと、綺麗な赫灼がぱちり、と瞬きをした。


「名前さんが冨岡さんの事を慕っているのは知っています」

「うん」

「本当の兄妹のように仲がいい事も、見ればわかります」

「うん」

「冨岡さんも、表情はあんなんですが名前さんの事がすごく大事なんだって匂いがします」

「う、ん…?」


話がよく、わからないぞぅ…?
炭治郎の言いたい事がわからない。てゆーか、そもそもなんで義勇兄さんが出てくるんだろうか。果てしなく疑問符を並べていると、よくわかっていない私に気付いたらしい炭治郎がぐ、と眉を顰め、私の袖をつかむ手をゆっくりと背中に滑らせた。
こつり、私の肩に炭治郎の頭が乗せられる。「炭治郎?どうしたの?」戸惑いながらも弟弟子に声をかければ、背中にまわる腕に力が籠った。


「ずるいです…いくら面と向かって話をしていても、冨岡さんが来ればすぐに身を翻してしまうし、冨岡さんの名前ばかりが名前さんの口から出てくる。今もそうだ、名前さんと話しているのは俺なのに…」

「それはッ…」


耳元で囁くように言われて、時折わざとらしく息を吹きかけてくるもんだからたまったもんじゃない。ぞわぞわぞくぞくと背中がむず痒いし、恥ずかしくて仕方がない。どうにか身を捩ろうとしても、炭治郎がすぐに動けないように腕の力を強めるから。


「あ、あの、炭治郎…!」

「はい?」

「、耳元で喋らないで…!」

「名前さんが逃げようとするから」

「逃げない!逃げないから、離れて…!」

「ふふ、顔真っ赤」

「ッ!」

「これからは俺と話している時は、冨岡さんが来ても行っちゃダメですよ?」

「わ、わかった…」

「よろしい。なら、今日は離してあげます」


くすくすとおかしそうに笑いながら私から体を離した炭治郎の顔が見れない。心臓とか、馬鹿になったんじゃないかってくらいばくばくいってる…顔めっちゃ熱いし、何これ、え?てか、炭治郎?かわいい私の弟弟子はどこ行ったの?今のは幻覚?頭打ったのか私?


「今度は口吸いでもしてみましょうか」

「けッ、結構です…!!」

「残念」


そう言う割に、全然残念じゃなさそうなんだけど!?かわいい炭治郎はどこへ行ったのー!?
ニコニコと私を見つめる炭治郎を横目に切実に思った私であった。





(執筆2019.11.24)


back