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俺はどうかしてしまったんだろうか。
名前と一緒にいれば心地よく胸は高鳴るし、近付くとふわりと鼻をくすぐる甘い匂いに幸せな気持ちになる。
逆に、名前が俺じゃない、同門で仲のいい善逸と一緒にいれば、もやもやと、ドロドロと淀んだようなそれが胸中に燻る。嫌だ、なんて。その笑顔を見せるのも、やわい小さな手で触れるのも、俺だけであってほしいと思ってしまう。

名前も善逸も、お互いを家族のように思っているから仲がいいのは当たり前。いつもの事なのに…


「(どうしてこうも、もやもやするんだ…)」

「善逸、お団子もらったからあげる!あーん!」

「あー…うまッ、え、めちゃくちゃ美味しいんだけど!!これどこの?」

「しのぶさんがくれたんだよ。お店教えてもらったから、今度一緒に行こうね!」

「あー…俺は…」


ちらり、珍しく歯切れが悪く善逸が俺を見る。どうしてそんな目で見られるのかわからなくて、首を傾げる。


「…名前、炭治郎にもその団子わけてやれよ」

「え?」

「あ、そっか!ごめんね炭治郎、私たちばっかり食べちゃって…」

「いや、俺は…」

「はい、あーん!」


ずいッ、と名前が俺の口元に団子を差し出した。どうしたらいいかわからず名前を見れば「さぁお食べ!」と言わんばかりの笑顔で俺を見ていた。


ーきゅん


「(きゅん…?)」

「あ、じゃあ俺、禰豆子ちゃんとお話してこようかなー、なんて…」


善逸が団子を片手にそそくさと部屋を出ていく。「あとで私も混ぜてねー!!」ぱッと俺から目を逸らし、部屋を出て行く善逸の背中にそう声をかける名前に、どこかへ行ったはずのもやもやがまた首をもたげてきて…


「たん、じろう…?」


気付けば俺は名前の手首を掴んでいた。驚いたように目を瞬かせる名前だけど、俺もびっくりしてる。自分でもなんでこんな事をしたのかわからなくて、戸惑う。「炭治郎?どうしたの?」名前が首を傾げて俺を覗き込んだ。

名前は砂糖菓子のようだと思う。まぁるい目は飴玉で、薄く色づく頬は熟れた林檎、ぷっくりとふくれる唇は蜂蜜。町で流行っている甘いものがたくさんのったぱんけーき、と言うもののようだと思った。

俺だけが、俺だけがその甘く蕩ける瞳に写るよう閉じ込めたくてしかたがない。

あぁ、ダメだ。こんな汚い事を思ったまま名前に触れたくない。今にも外れそうな枷を無理矢理つなぎとめて、深く息を吐いた。


「いや、なんでもない。それより、俺も団子が食べたいな」

「あ、そうだった!はい、どうぞ!」

「ありがとう!」


ぱくり。差し出された団子を今度こそ齧る。やわくて、甘くて、むしろ、甘すぎて味がわからない。


「おいしいでしょ?」

「あぁ、すっごく美味しい!」

「でしょー!!あ、そうだ!やっぱりみんなで食べた方が美味しいから、伊之助も誘ってみんなでお団子食べに行こうね!」

「そうだな」


くるくると、楽しそうに動き回る名前。妹のようで、妹でなかった彼女にだけ向ける俺のこの感情に、一体どういう名前を付ければいいのか。

俺はまだ、考えあぐねている。

けど…


「炭治郎、楽しみだねぇ!」


名前が嬉しそうに俺の名前を呼んでくれるのなら、なんでもいいやって思う。





(執筆2019.11.11)


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