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ご都合血鬼術は服だけ溶かす


ご都合血鬼術
付き合ってる
募集箱より





「やだ怖いほんと無理死ぬ死ぬ死んじゃう行きたくないいいい」

「…善逸、駄々をこねないで。チュン太郎が困ってる」

「ちゅん!」

「だから俺には無理なんだってば!!お願い羽炭俺を一人にしないでえええ」


私の腰にしがみつき、顔面蒼白で咽び泣く善逸に思わずため息をこぼした。
チュン太郎が任務を持ってきたのは四半刻ほど前の事。その間善逸はずっとこんな感じで喚き倒しているわけで、正直私は途方に暮れていた。
どんな言葉をかけようが励まそうが、一向に泣き止む気配がない。それどころか一層しがみつく力を強くして離れないのだからどうしようもない。

…善逸がここで泣きまくっている間も鬼は知らない誰かを食べるのを待ってはくれない。私に来た任務ではない。けど、このままじゃ埒が明かないのも事実。もう一度深くため息を吐いて、善逸の両頬に手を添えて顔を上げさせた。顔中から出るもの全部出てすごく汚い。


「わかった、わかったから…私も一緒に行くから…もぉー…」

「えッ、本当!?一緒に来てくれるの!?やった嬉し過ぎるこれで死なずにすむよおお…!!」

「…はぁ…というわけだからチュン太郎、私も一緒に行くね」

「ちゅちゅん!」


別に構わないよ!と言うように声高らかに鳴くチュン太郎の喉を撫でると、それを見た善逸がまたもや何か叫びながらチュン太郎に掴みかかろうとしたから、とりあえず腹に肘鉄をいれておいた。小さい子に乱暴するんじゃありません。





***



鬼はとある廃屋を住処にしていて、近くの町から子供ばかりを攫っているのだと言う情報を得た私たちは、そのままの足で噂の廃屋へと向かった。
随分大きな屋敷だったけれど、そこは私の嗅覚と善逸の聴覚を駆使して隠れていた鬼を簡単に見つける事ができ、さほど苦労する事もなく頚を落とせたわけなのだが…


「なに、これ…!」


私が鬼の頚を切り落とした直後、鬼の体から何やら奇妙な物体が出てきたのだ。それは急速に大きく成長し、うねうねと触手を揺らしていた。
これは一体なんなんだ…鬼の体から出てきたと言う事は血鬼術なのであろうけど、些か…いや、だいぶ気持ち悪い。イタチの最後っ屁みたいにこんなもの出さなくたっていいだろうに、なんて思うけれど、気持ち悪さ勝ってこのまま放置するわけにはいかない。


「イ"ヤ"ア"ア"ア"アアア何これ何これ何これぇぇええええ!!!きもい!きもすぎる!こんなん血鬼術とか頭おかしいんじゃねぇのあいつ!!何のための血鬼術なんだよ!!どんな需要があんの!?」

「危ない善逸!」

「ギャーッ!!」


首をもたげた触手の先端から粘液みたいなものが噴射され、咄嗟にその照準にいた善逸を突き飛ばした。びちゃり、床に巻き散らかされたそれが跳ね返り、わき腹に付着する。すると粘液が触れた所がジュウジュウと不吉な音を出して煙を上げるから、慌ててそこを袖ではたいた。

…そこで、妙な違和感。なんか服が溶けてるんですけど。人体は至って無傷。ただ服だけが溶かされた事実に頭が混乱した。
この粘液が酸性の何かだとは思っていたけれど、そんな、服だけを溶かす血鬼術とかあるの?この触手といい、粘液といい、置き土産がタチ悪すぎる。

善逸から私に標的を変えたらしい触手たちは、ぶわッ!と一切に襲いかかってくる。それらを呼吸を使って捌いていくものの、どうしたって手数は向こうの方が多い。


「ッ!」


ぎゅるん、と触手が足首に絡まり、視界がぶれる。そうして逆さ吊りにされた私の手足や腰周り、腕に巻き付いたそれから粘液が滲み出てきて、瞬く間に服を溶かしていく。というか、これ全部溶けきったら私は全裸になってしまうのでは…。それだけは避けないと。だって、それじゃあただの痴女になってしまう。

早くこいつを何とかしないと…そうだ、善逸!無理をさせるようだけど、どうにか片手だけでも使えるようにしてもらえたなら…


「善逸ごめん!こっちの触手を斬って………………」


…なんて、思って声をかけたのだけれど、目を向けた先にいた善逸の鼻から夥しいほどの鼻血が出ているのを見て、すん、と自分の表情が削ぎ落ちたのがわかった。


「はッ…ち、ちがッ…これは鼻血じゃなくて…!そう!汗!汗なの!」

「善逸は鼻から赤い汗が出るんだね」

「そ、そう!そういう体質で…!てか、ちょ、待って…ほんとやっばい…」


そう言って善逸は顔を背けるものの、ちらちらと視線がこっちに行ったり来たりしてるの知ってるんだからね。というか、そもそも匂いでわかるから。汗だのなんだの言ってるけど、あんたから興奮と狂喜とやらしい匂いがするのはどうしてなの。自分があられもない格好になってるのはわかってるよ。わかってるからこそ、そんな目で見られる事に遺憾を唱えるわけで。ねぇお願い前かがみにならないで。「善逸……」地を這うような声で名前を呼べば、善逸は打って変わって顔を真っ青にさせた。


「うわッ、ちょ、音おおお!!羽炭から今までに聞いた事のない音がする!!怖い!!やだやめて!!」

「なら、わかるだろう?自分のやる事、やらないといけない事。善逸はできる奴だもんな?」

「言"葉"遣"い"…!本気で怒ってるじゃんごめんなさいねッ!!」


善逸は流す涙も鼻血も垂れ流しにしながら踏み込み、同時に目にも見えない落雷が八回鳴り響いた。ずるり、体の圧迫感が消え、重力に従って落ちる。さすがに細切れにされては触手も動けないのか、ピクリとも動かずに床に落ちている。

それはそうと、とりあえず急いで服に付着した粘液を払ってはみたものの、隊服はもうほとんどボロ雑巾みたくなっていて服の役割を果たしてない。
どうしよう、これ。このままじゃ蝶屋敷に帰るどころかこの廃屋からすら出られない。…仕方ない、いくら廃屋でも何かしら服は置いてあるかもしれないから、それを拝借して…

そこまで考えたところで、不意に肩から何かがかけられた。


「き、気は乗らないだろうけど、着れそうな物が見つかるまではこれ着てなよ…」


黄色い三角模様のそれは善逸の羽織だった。「ありがとう」お礼を言いながら羽織に袖を通して善逸を見ると、もぎゅもぎゅと鼻つっぺをしている最中であった。
…なんとも言えない間抜け感があるけれど、垂れ流しにされるよりかはいいか…
隊服のベルトを腰から引き抜きて、羽織の袷を交差させた上から巻き付ける。これで前がぴらぴらする事はなくなった。下は…いいや、脱いでしまおう。


「…あのさ、羽炭…」

「何?」

「いや、別にこれと言った用事はないんだけど、ただ…その…目のやり場に困るんだけど…」


廃屋の箪笥などを漁っていると、不意に善逸がそんな事を言ってきた。…そんな事言われても…


「仕方ないじゃない。あの触手のせいで隊服ぼろぼろなんだし、せめて何か履かなければいつまでも帰れないよ」

「そうなんだけどッ!こう、なんて言うか…羽炭が前に屈む度に中が見えそうでどきどきする…」

「……………」

「何だよ!!そんな顔するなよ!!仕方ないだろ!?俺だって健全な男なんだし!!好きな子のそんなあられもない姿みたら、こう、むらッとするだろうが!!」

「だからといって口に出すのはありえませんわぁ」

「ねぇお願い羽炭…ほんと…一生のお願い…ちょっとだけ、ちょっとだけでいいからさぁ…その格好のまま抱かせて…」

「寝言は寝て言え。…あ、これ履けそうだな」

「羽炭ぃぃ…!!お願い先っぽだけ!!先っぽだけでいいからッ!!」


善逸はしつこかった。それはそれはしつこくて、あまりにしつこいから頭突いて黙らせたら、そのまま泡吹いて動かなくなった。






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服だけを溶かすご都合血鬼術に善逸が喜ぶ話。

素敵なネタをありがとうございました!