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夢主と禰豆子が入れ替わった話


募集箱より



完全に私の落ち度だと思う。まさか敵がこんな血鬼術を使ってくるだなんて思ってもみなかったし、効果はそんなに長くないと言えど、普通に生活に支障をきたすレベルである。


「とりあえずは部屋でゆっくりしててくださいね。あなたには術が解けるまで任務が行かないよう、こちらで手配しておきますので」


なんて言うしのぶさんのお言葉に甘え、私と禰豆子は大人しく部屋に引きこもることにした。


「どうしようか…」

「ど、どうし、よう?」


私の顔で拙く喋る禰豆子に、ほんの少しだけ頭が痛くなったような気がした。
事の発端はつい数時間前。なんとか鬼は倒したものの、イタチの最後っ屁のように繰り出された血鬼術にもの見事私と禰豆子がかかってしまったのだ。厄介な事に、かけられた人間の中身が入れ替わる血鬼術のようで、文字通り私と禰豆子は中身が入れ替わっている。
私の体の中に禰豆子がいて、禰豆子の体の中に私がいる状態。しのぶさんはそんなに長い事この状態にはならないだようと憶測は立ててくれているのだけれど、それが今日中なのか、明日なのか、それとも三日後なのかはわからないらしい。

…何はともあれ、意図せぬお休みになってしまったのだから、しのぶさんの言う通り体を休めよう。
ぽすん、太腿に頭を預けてきた禰豆子を撫でようとして、手が止まる。だって、これ私から見たら自分で自分の頭を撫でてるように見えるんだけど。ちょっと…いやだいぶ複雑…。「おね、ちゃん?」けど、中身は禰豆子であるから仕方ないよね。うん、そうだ、割り切ろう。

これは禰豆子…と心の中で唱えながら頭を手を乗せる。嬉しそうに笑う禰豆子(顔は私)に頬が微妙に引き攣った。


「ぎゃー!!」


よしよし、と禰豆子の頭を撫でていると、何やら廊下が騒がしくなった。聞き覚えのあるこの声は善逸で間違いないのだけど、なんだ、なんでそんな弾んでいるんだ声が。謎すぎる。すぱんッ!と襖が開かれた。


「聞いてよー!伊之助の奴ひどいんだ!自分が道間違えたくせに俺にあたるの!!ひどくない!?ひどいよね!?」

「うるっせー!お前があっちだっつーから着いてったんだろうが!!」

「はぁ何言ってんの!?全然着いてきてなかったじゃんむしろ俺を引きずり倒してたじゃん!!」


二人して人の部屋に飛び込んできて早々…騒がしいぞ…。ギャンギャン喚き倒す彼らを横目にため息を吐くと、急に室内が静かになった事に気付いた。「は、羽炭…?」何、何か用。じと、と善逸を睨め付ければ、彼は心底混乱してますというような変な顔をしていた。


「禰豆子ちゃんに睨まれた…!?いや、というか、え?羽炭が膝枕してもらうの珍しいね…どうしたの?」

「別に私がしてるわけじゃないんだけど…」

「禰豆子ちゃんが流暢に喋ってる…!!かわいい!俺のため!?俺のためかなそれは!結婚するしかなくない!?」

「寝ぼけた事言うのも大概にしろよ」

「ね…え?ねず、禰豆子ちゃん…!?」


「ちょ、羽炭!?なんか禰豆子ちゃんすっごい口悪くなっちゃってるんだけどいいの!?ねぇ!!」ゆっさゆっさと私の膝で眠る禰豆子(体は私)を揺り起こす善逸。禰豆子は眠そうに目を擦りながら欠伸をこぼし、善逸を見上げた。


「ぜ、ぜんい、つ。ど、どう、し、たの?」

「……………………待って?ねぇ、待ってくれない?え?ちょ、羽炭?それは禰豆子ちゃんの真似をしてるの?なんで急にそんな…いやかわいいけどね!?かわいいよ!?普段そんなに舌っ足らずに喋らないじゃんかわいすぎるよ!?けどさ!わかって!?今俺の頭こんがらがってんの!!」

「は?紋逸、お前さっきから何言ってんだ?」


いよいよ頭を抱えて畳を転がり出した善逸だけど、伊之助が「こいつ何言ってやがる」みたいな雰囲気で転がる善逸を見下ろしている。びッ、と伊之助が私を指さした。


「こいつ、炭子だぞ」

「ばっかお前…!どこをどう見たら羽炭に見えるんだよ!羽炭はこっち!禰豆子ちゃんはこっち!わかる!?」

「いや、私が羽炭だから」

「………もおおお!!どういう事なの!?」


ついに善逸が発狂した。まぁ、仕方ないよね。私も少し意地悪し過ぎた。ぎゅむぎゅむと抱き着いてくる禰豆子(私の顔)を抱き返して事のあらましを改めて二人に説明する。

というか、伊之助はよくわかったね。そう言うと伊之助はめっちゃ胸を張って鼻を鳴らした。


「俺は親分だからな!!」


なるほど、よくわからん。「おやぷん!」まぁ、禰豆子が楽しそうだからいいか。


「ま、そういう事で、しばらくは少しややこしいかもしれないけど、ごめんね」

「おね、ちゃん!」

「はいはい、おいで」


軽く腕を広げると、猪の如く飛び込んできた禰豆子に「ヴッ」てなった。…中身は禰豆子なの、わかってるの。けど、どうしたって外見は私だからさ…こう…地味に精神的にくるものがあるというか…謎の気恥しさが…
なんて、一人悶々としていると「あのさ…」と唐突に善逸が口を開いた。…この時点で何となく嫌な予感がするのは私だけだろうか。


「…なぁに、善逸」

「俺思ったんだけど…」

「んだよ、さっさと言えよ」

「いやさ、羽炭に今抱きしめてもらったら、禰豆子ちゃんの声で羽炭によしよししてもらってる事になるのではって思って…」

「サヨウナラ」


予感は見事にあたり、至極真面目ですと言わんばかりに宣う善逸から思いっきり距離を取った。「紋逸…お前…」こんなにも可哀想な目をする伊之助を私は初めて見た。


「なんでなんで!?普通そう考えるだろ!!そういう考えに行き着くだろうが!!」

「ごく一般の人間ならばそういう考えなんぞ微塵も思いつかないと覚えろ」

「ぜ、ぜんい、つ、いや!おねぇ、ちゃん、に、さわらない、で!」

「禰豆子ぢゃあああああん"ん"ん…!」


まさかの追撃に善逸は今度こそ沈んだ。涙じゃなくて血涙が広がっている気がするのはきっと気のせいだと思う。そんな見境ない事言う人は私は知りません。

そうして血鬼術が解けたのは次の日のお昼頃で、善逸は喜んでいるのか悲しんでいるのかよくわからない匂いをしていて、とりあえず私は何も見なかった事にしたのだった。触らぬ何とかに何とやら、である。





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ご都合血鬼術で中身が入れ替わった話。

素敵なネタをありがとうございました!