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憧れはお師匠…だったらしい


「if 継子夢主と柱善逸2」の続き
炭治郎いる
五歳年下の妹
モブ子ちゃんいる
募集箱より




初めて恋をした。
色恋沙汰など私には不要、無用だと切り捨てて、家族を鬼に殺された怒りと憎悪だけを胸に今までがむしゃらに走ってきた私に唐突に訪れた出会いだった。

不覚にも鬼にやられそうになった私の元へ颯爽と現れたその人。
長く、風にたなびく度に輝く金糸の髪。お月様のような綺麗な瞳。残像すら残らない迷いのない太刀筋。そして何より…


「大丈夫?怪我、してない?」


優しい笑みに優しい言葉。差し伸べられた手に文字通り、雷に打たれたようだった。
これが恋だとわかるのにそう時間はかからなかった。あれほど「色恋沙汰なんて!」などと目を尖らせていたというのに、この代わりよう。自分でもびっくりしてる。
そして、また会いたいと彼の事を調べるうちにわかった事がある。彼は現鳴柱の我妻善逸様。雷の呼吸の使い手。納刀、抜刀すら見えないほど早い剣戟。継子が一人いる。などなど。途中ヘタレだの女好きだの年下趣味だの不穏な噂を聞いたけど、きっとそれは周りの僻みなのだ。だって、あんな素敵な人がそんな残念賞なわけないじゃない。

私のこれはもはや崇拝に近かった。また会えたら。そしたら今度はあの時助けてもらったお礼を言って、それで…


「危ない!!」

「ッ!」


なんて、考え事をしてたからいけなかったのだろう。任務中にも関わらず、ぼーッと呆けていた私に鬼の爪が伸びた。どうにか反応するも、完全に間合いに入られて防げない。きっと、あれに引き裂かれたら痛い。仇をとる事もできず、想いも告げることもできず、私は家族の元へ逝くのだろうか。
もうすぐで引き裂かれる…そう思って身を固くした瞬間、落雷が轟いた。


「…え?」


ゆっくりと、鬼の頚がずれていく。鬼も、自分の身に何が起こったかわからないと言いたげに目を丸くしていて、そして一拍後、ぶしゃり、断面から血が噴き出した。


「大丈夫?」


すっかり腰が抜け、へたり込む私に優しい声が降りかかる。あぁ、知ってる声だ。私が恋した優しい声。顔を上げると、予想通り、鳴柱の我妻様がいて。


「あ、えと、その…」

「怪我はなさそうだね。あぁでも、頭から血かぶっちゃってるか…ごめんねぇ…よかったらこれ、使って」


差し出されたのは、綺麗なハンカチーフだった。握らされるがまま思わず受けとってしまったけれど、こんな綺麗なものが血で汚れるのはしのびない。返さないと。


「い、いけません!このような綺麗なハンカチーフを…!私はこのままでも大丈夫です!だから…」

「せめて顔を拭うくらいに使ってよ。君は女の子なんだからさ」

「ッ…」


あぁ、なんて優しいんだ。あなたがそんなんだと、ますます私はあなたに恋をしてしまうじゃないか。熱くなる顔を隠すために俯く。そうだ、お礼。ときめいている場合じゃない、お礼を言わないと。
逸る胸を抑え、口を開こうと顔を上げた時ーー


「お師匠!」


私じゃない女の子の声が聞こえた。隠の人たちと一緒に来たらしい。市松模様の羽織に赤みがかった髪。花札みたいな耳飾りを片耳につけたあの子は、確か日柱様の妹さんだったよね。
どうして日柱様の妹がここに…なんて疑問符を浮かべていると、次の瞬間に彼女は黄色い塊に飛びつかれてひっくり返っていた。え?


「え?」

「羽炭ぃぃぃー!!俺"頑"張"っ"た"よ"…!!死ぬかと思ったぁぁ…!!」

「ちょ、いきなり飛びつかないでください!と言うか、お師匠はいつもいつもそんな情けない事言って!!」

「ひどくない!?大好きなお師匠に対して労りの言葉とかないの!?」

「ありません!さ、早く立ってください!いつまでそんな情けない姿を周りに見せるおつもりですか!」

「羽炭が冷たい…!炭治郎ぉ…!」


あれは、一体誰だ…。ギャンギャンと年下、しかも女の子に泣きつくあの人はさっき私を助けてくれたかっこいい我妻様の片鱗すらない。「あーあ、また鳴柱様が羽炭さんに泣きついてるぞ」「いつもの事だろ」同じようにその様子を見ていた隠たちが口々に言う。ということは、あれが我妻様の素…?
ガラガラと、私の中の我妻様のイメージが音を立てて崩れていく。そんな、あのかっこよくて優しい我妻様が、あんな、あんな…


「あの、立てますか?」


愕然としていると、目の前に手が差し出された。その主は先程我妻様に泣きつかれていた羽炭さんで、我妻様と言えば、少し離れたところで地面に突っ伏しているのが見えた。


「一応、隠の方に蝶屋敷へ運んでもらえるよう手配しますね。そこでカナヲさんに見てもらって、もし何もないようであれば、お風呂を貸してもらってください」


そう言う彼女の笑みが日柱様にそっくりで、本当に兄妹なのだなって改めて思った。というか、なんていい子なんだ。
お願いします。そう言うが早いか、あっという間に隠に背負われた私。
去り際に、なんとなくもう一度我妻様を振り返った。拗ねているのか、羽炭さんは必死に我妻様に何か声をかけていて、そんな彼女の手を引いた我妻様がよろけた彼女に口付けたのをばっちり見てしまった。

マジか。


「マジか」

「え?どうされました?」

「へ!?あ、いや、何もないです…!」


隠に怪訝な目で見られたけれど、それどころじゃない。慌てて周りを見渡すもののどうやらさっきのを見たのは私だけだったらしい。というか、なんで慌ててるの、私。
変な話だ。さっきまで恋だのなんだのと浮かれていたというのに、我妻様の泣きつく姿を見てからは全くそんな気が起こらなくなってしまった。
これが所謂幻滅、というやつだろうか。

我妻様に口付けされた羽炭さんはそれはそれは顔を真っ赤にしていて、そんな彼女を我妻様はにやにやしながら見ていた。そして、羽炭さんの懇親の肘鉄が腹に入ったようで、崩れ落ちるように地面に伏せた。うわ、痛いよ今の…
私がされたわけでもないのに痛さに顔を歪めていると、ばちッと羽炭さんと目が合った。当然今更目なんて逸らせるはずもなく、はは…、とから笑いすると、見られていたというのがわかったのか両手で顔を覆って蹲った。

え、待って、何その反応かわいい。


「お師匠…許しませんからね…」

「何だよ!!そんな般若みたいな顔しなくてもいいだろ!?」

「兄さんに言いつけてやります!!」

「あッ、嘘嘘やめて!炭治郎には言わないで!じゃないと俺、明日の朝日拝めない!」

「知りません!」

「羽炭ぃぃー!!」


我妻様を腰に引っ付けたまま歩く羽炭さんは強かであった。何はともあれ、憎たらしいではなく微笑ましいと思うのはきっとあの二人だからなのだろう、なんて。






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継子夢主と柱善逸の続き。
柱善逸に惚れたモブちゃんが普段のヘタレ具合を見て失望する話。

素敵なネタをありがとうございました!