×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -
if もし浮気した善逸と別れたら


死ネタ
転生ネタ
二人とも柱
多分報われない
募集箱より




善逸と付き合い初めて随分経つ。けれど相変わらず彼の女好きは治らなくて、何度も知らない女の子と道を歩いているのを見かけた事がある。それでも善逸が私に向ける匂いは嘘じゃなくて、逐一「あの人は誰?」なんて重たく縛る事をしたくなかったし、禰豆子にも何回かもうやめろと言われたけれど、それでも私は善逸の事を信じたかったし、最後にはちゃんと私のところに帰ってきてくれるならそれだけでよかったのだ。

けど、やっぱり何度も何度も何度も繰り返されると、匂いでは本当かもしれないけれど少しずつ善逸を信じる事ができなくなってしまった。
疲れたのだ。誰かを想い続けて、振り回されて、一人馬鹿みたいに胸を痛めて涙をこぼすのは。
こんなにも誰かを想う事が痛い事だったなら、初めからこんな想いを抱かなければよかった。禰豆子の忠告を素直に聞いていればよかった、なんて。

だからもう、終わりにしよう。せめて善逸の迷惑にならないように静かに姿を消そう。世界は広い。たとえ善逸が私の音を辿ったとして、常に移動するこの仕事ではひょんな偶然がない限り無理だろう。

紙に文字をしたためて、机に置く。荷物は元々そう多くないから、そうだな、しばらくはカナヲに頼んで蝶屋敷の部屋を借りよう。あまり帰って来なければ、それでいい。

善逸が長期の任務に出ているタイミングで、私は鳴屋敷から姿を消した。





それからと言うものの、私は毎日任務に明け暮れた。最終選別を生き残った時から行動を共にしている鎹鴉に頼んで、任務の量を増やしてもらった。普段意地の悪い相棒だけど、時々、心配そうに私にすり寄ってくれる。怪我をしても任務を持って来ず、完治するまで休息させるようになった。らしくない。
というか、もっと早くにそうしてくれればよかったのに、なんて思うけれど、今はただ気を遣わないでと思うばかりだ。動いていた方が何も考えなくていい。

禰豆子には手紙で私がどこにいるのか知ってるけれど、やっぱり時々会いたくなる。だから、時々ではあるけど禰豆子に会いに行けば、善逸が私を探していると教えてくれた。けど、私はもう会うつもりはないし、きっと、お互いに会わない方がいい。禰豆子もそう思っているのか、決して私の居場所を彼に言う事はなかった。

ただ毎日、善逸から逃げて、がむしゃらに鬼を斬る日々。
そんな生活を何週間か続けていたら、ある日鬼と対峙した時、妙に視界がぼやけた。初めは目にゴミでも入ったのではと思っていたけど、段々耳鳴りがしだして、鼻も利かなくなって、体が鉛のように重たく感じた。
刀を握る手から、地を駆ける足から、力が抜ける。上手く息が吸えなくて頭が真っ白になる。そんな私の不調を目敏く見つけた鬼は、好機とばかりに血鬼術を奮う。
鬼の血鬼術が左腕を吹き飛ばし、内臓を潰し、足を砕いた。逃げる事なんてできない。できやしない。けれどせめて一矢報いてやろうと、残った右腕で刀を握り、油断していた鬼の頚を斬り落とした。

ぼろぼろと崩れる鬼を横目に、地面に倒れる。もう、無理だ。息をするのもやっとの状態。どうしてこうなったのかわからない。体中の血が流れ出るのを感じながら、息を吐く。「カァー…」傍らに相棒が降りてきた。


「ね…お、ねがい、ある、の…」


ごぼり、血を吐きながら鴉に伝える。私はここで終わるのだと悟る。だからこそ、一人この世に残してしまう大切な妹に向けて、相棒に伝言を頼んだ。彼なら、きっと届けてくれると信じて。


「ね、ずこ、に…ごめ、ね…い…て…」


あぁ、もう、目を開けているのも疲れた。血が足りない。足りていたとしても、この体じゃ生きてなんていられない。

…死ぬのか。なんだ、存外呆気ない。自分の死はこんなにもあっさりしているのか。なんて。
相棒が頬に擦り寄り、そうして羽ばたく音を遠くで聞いた。きっと、泣かせてしまう。禰豆子ともっと色んなところに行けばよかった。カナヲとも、甘味屋に行く約束してたのにすっぽかしてばかりだったから、謝って、今度こそはと思っていた。

けど、無理だ。ごめん。


「ーー!!」


消えゆく意識の中、どこか遠くの方で誰かに呼ばれた気がした。





***



「禰豆子、早くしないと遅刻するよ」

「待って!すぐに行くから!」

「玄関で待ってるから、早くね」


がちゃり、玄関のドアを開ければ、近くの公園に咲いているのだろう、桜の花びらが風に乗って目の前を横切った。

私はきっと、死んだのだろう。けれどどういうわけか、今は鬼のいない平和な世界で転生して生きている。死んだはずの家族と再び家族になって、禰豆子に関しては私と同じく前世の記憶を持っているのか、お互い思い出した時に泣きながら抱き合った記憶がある。

珍しく寝坊した禰豆子を待ちながら、手持ち無沙汰に晴れ渡った青空を見上げた。


「禰豆子、遅いなぁ」


これじゃあ本当に遅刻してしまう。スマホで時間を見て、ふぅ、と息を吐く。ーー瞬間、ぐいッ!と腕を引かれた。びっくりして振り返ると、息を切らし、たんぽぽによく似た髪を揺らした男の子がいた。見覚えのある…否、よく知る私の知人にそっくりな彼に、目を見開く。


「羽炭…!」


なんたって、ここにいるんだ。…いや、私と禰豆子がいる時点でありえない話じゃない。この世界では彼と私は初対面のはず。なのに私の名前を知っているという事は、つまりそういう事だ。
何も言えないまま呆然と彼ーー善逸を見つめていると、善逸はくしゃり、と泣きそうに顔を歪ませて私を抱きしめた。
どくり、心臓が妙な風に脈打つ。


「ずっと、ずっと羽炭を探してたんだ…!ずっと謝りたくて、けど君はあの時死んでしまったから何も言えなくて…!後悔してたんだ、あの日羽炭がいなくなって、辛くて、どうしようもなくて…!ごめん、本当にごめん…!羽炭の事考えてなかった…!ずっと自分の事ばかりで、だから…!」


善逸から、懺悔と後悔と深い悲しみ、それに混じって喜びの匂いがする。嘘偽りのない、本心なんだろう。今表に出している感情も、匂いも、全部。
だから少し、希望を持ってしまったんだ。またもう一度、あと時みたいに笑い合えるんじゃないかって。悲しみも何もかもを無しにして、また…

行き場のない両腕を、そろり、善逸の背中に回そうとした。


「やめてください!」


そんな声とともに、体が後ろに引っ張られる。「あ…!」善逸の温もりが離れ、代わりにしがみつくように私の腕に抱き着いた禰豆子が、ぎろり、善逸を睨んだ。


「あなた、誰ですか。うちの姉に何か用事でも?」

「ね、禰豆子ちゃん俺だよ…!我妻善逸…!覚えてるだろ!?昔一緒に鬼退治して、旅して、それで…!」

「鬼?なんの事ですか。私たちはあなたなんて知りません。私たち急いでるんです!行こう、お姉ちゃん!」

「ね、禰豆子…!」


禰豆子から激しい怒りの匂いがする。こんなに怒っている禰豆子は珍しいし、怒りながら知らばっくれているのはわざとだ。だから、困惑しながらも手を引く禰豆子の後をついて行くしかなかった。「ま、待って羽炭…!」禰豆子に引かれる反対の手が掴まれる。けれど…


「お姉ちゃんに触らないでッ!!」

「ッ…」

「…触らないで」


あまりの禰豆子の剣幕に、善逸はたじらいだ。その瞬間を見逃さなかった禰豆子は善逸の手を振り払い、その場に彼を残して私たちは去った。

背中に善逸の視線が突き刺さる。ひどい悲しみと困惑の匂いに何度も振り返りそうになった。けど、それを目ざとく見つける禰豆子は叱咤した。


「駄目だよ。振り返らないで」

「けど…」

「忘れたの!?お姉ちゃんはずっと我慢してて、こっそり泣いていたのをあと人は知らないの!…もう、嫌なのよ。私だってあの時の事後悔してる。もっと話しを聞いていたらって…」

「ねず…」

「だから、お願いよお姉ちゃん…あの人の所に行かないで…私を一人にしないで…!」


禰豆子は、泣いていた。大きな目からしとどに涙を振らせて泣いていた。
あの時、ずっと一緒だと言ったにも関わらずこの子を一人置いて逝ってしまった事、ずっと心残りだった。だからこそ、禰豆子が言った「一人にしないで」が余計に胸に刺さり、苦しいんだ。「禰豆子…」きゅ、と手を握り返した。


「私はずっと、禰豆子のそばにいるよ。もう一人になんてしないからね」

「本当…?」

「うん!だって、この世界にはもう鬼がいないんだよ。そうそう死ぬ事もないだろうし、それに、まだまだ禰豆子と話したい事がたくさんあるの」


そう言えば、禰豆子は少しではあるがやっと笑ってくれた。この子は泣いた顔より笑った方がずっとずっとかわいい。
ゆっくりと歩みを再開させた。善逸は追ってこない。それが少し寂しい、だなんて自分勝手もいいところだ。
禰豆子を悲しませたりしない。禰豆子を一人にさせない。今の私にはこれだけで十分だ。





---

浮気した善逸と別れた夢主。キメ学で再会してそれで…な話。

素敵なネタをありがとうございました!