はち*
「ねぇ、炭治郎」
「あぁ、これだろ。なぁ羽炭」
「はいはい、あれね」
炭治郎と羽炭は双子だ。双子事態珍しいのに、男女の双子であるから俺的にはもはや珍獣に等しいわけで。けれどやはり魂も肉体もわけあった二人だからなのか、全部を言わなくても相手が今何を欲して何を必要としているのかわかるらしい。
淡々と行われるそれにぽかん、と呆けたのは記憶に新しい。
それだけじゃない。もっと言うと、二人は兄妹にしてはやたらと距離が近いような気がする。おでこ同士をくっつけるのは当たり前。抱き締め合って暖を取るのもいつもの事。他の子たちは見慣れているのか知らないけど何も思わないみたい。けど、時々。そう、時々、心臓に悪い事をしてくるのだ。
たとえば、今みたいな朝寝坊した時とか。
「んっ…おもち、重い…」
「もち…やわらかい…」
「……………………………」
普段早く起きて行動する二人だけど、時々こうして朝寝坊する時がある。
決まってその時、仰向けの羽炭の胸を枕にして炭治郎は寝ている。何それ羨ましすぎるんだけど。炭治郎が身動ぎする度に髪が肌にあたってこそばゆいのか、羽炭が小さく声を漏らして朝から強烈な攻撃を仕掛けてくるからたまったもんじゃない。
「もち…もち…」
「んぁっ…」
「(もぉおおおやめてよおおおお!!)」
なんでこんな修行僧みたいになってんだ、俺。というか、おい、炭治郎。その手なんだよ。完全にそれさぁ…羽炭の胸鷲掴んでんじゃん!起きてるだろ、実はお前起きてわざと揉んでるだろ!!というか、双子だろ!?兄妹だろ!?いいのそんな事して!!そしてお前が餅餅言う度に羽炭の胸揉むから!!声!!やばいの!!
そしてこの期に及んで同じような夢見てんなよお前ら!!なんだよ餅って!!俺だって餅を言い訳におっぱい触りたいわ!!
なんて、朝から邪念たっぷりに絡まる二人を睨めつけていると、ふと襖から花子ちゃんと茂くんが覗き込んでいるのを見つけて盛大に慌てた。だって、教育によくなさすぎる。
「あ、は、花子ちゃん、茂くん…!炭治郎と羽炭はまだ寝て…!えっと…!」
「禰豆子ねーちゃーん、兄ちゃんがまた姉ちゃんのおっぱい枕にしてるー!」
「ぶふぉッ」
ちょ、ちょっと茂くん!?大声で何言って…!?慌てふためく俺をよそに追い打ちをかけるように花子ちゃんが「お兄ちゃんがすけべだよ!」だなんて言うから俺は白目を剥いた。おま、お前ら…!自分の弟妹たちにこんな事言われてるけどいいのか!?
ばたばたと慌ただしい足音が聞こえ、すぐにすぱんッ!と勢いよく襖を開け放たれた。
禰豆子ちゃんは笑顔だった。けれど音がめちゃくちゃ怒ってるし、気のせいか額に青筋も…
「お兄ちゃんッ!!」
べしッ!
問答無用で炭治郎の頭をしばいた禰豆子ちゃんは、そのまま炭治郎の首根っこを掴んで羽炭から引き剥がした。
「それするのやめてっていつも言ってるでしょ!」
「んごッ…ね、禰豆子…苦しい…」
「花子たちが見てるのよ!?いくら双子でも、やっていい事と悪い事がありますからね!!お姉ちゃんも!」
「へぁ…なぁに…?」
「なぁに、じゃないの!たとえお兄ちゃんだとしても、そう簡単に体を男の人に触らせちゃいけません!!善逸さんもいるのよ!!」
もう!早く起きて!
そう吐き捨てて部屋を出て行った禰豆子ちゃんをぼーっと見送る炭治郎と羽炭。…あんな激怒してる禰豆子ちゃん初めて見た。というか、普段温厚な彼女を怒らせるこいつらって…
未だ寝ぼけているのか、むにゃむにゃと目を擦りながら上半身を起こした二人は不思議そうに首を傾げていた。
「禰豆子、なんで怒ってたんだ…?」
「わかんない…にしても、重たいよ炭治郎。どうしていつものしかかってくるの」
「ごめん、羽炭が暖かいからつい…」
「お前ら…」
ぽやぽや見当違いな事を言う二人に何もかもを通り越して呆れである。なんたってお前らさぁ…はぁ、もういいや。
大きく欠伸をする羽炭の肌蹴た襟元を直した俺は、人知れずため息をこぼすのであった。