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「わッ、始まった!!」


響くマリアの力強い歌と、洗練された風鳴翼さんの歌が私たちが今いる場所にまで聞こえてくる。
…本当は、マリアにはのびのびと心のままに歌ってほしい。けど…


『狼狽えるなッ!!!』


同時に、観客の悲鳴。きっとノイズが会場に召喚されたのだ。


『私は…私たちはフィーネ。そう…終わりの名を持つ者だ!!』


私たちは、世界を敵に回してでもやり遂げなければならない使命があるのだ。何があっても、何が起こっても、私たちが綺麗事を並べる資格なんてない。
ぎゅうッ、きつく握りしめた拳がそっと暖かいものに包まれる。


「羽炭、大丈夫。たとえ全部が敵に回っても、俺はずっと羽炭と一緒にいるよ」

「善逸…」


あぁ、私は馬鹿だ。怖いのなんて、私だけじゃないのに。
怖がりで、寂しがり屋で、今だって私の手を握る善逸の手がかわいそうなほど震えているのに。
…うん、ごめん、そうだったね。私たちは一人じゃないもんね。


『会場のオーディエンス諸君を解放する!』


唐突にインカムに飛び込んできたマリアの声に、私たちは思わず声をあげた。なんたって急に…マムとの作戦にはそんな事なかったのに。
すぐにマムの叱咤がインカム越しに飛んでくる。


『血に汚れることを恐れないで!』


誰よりも優しいマリア。私たちにも本当の姉妹のように優しくしてくれた大好きなマリア。フィーネの魂を宿し、それでも世界と敵対すると決めた優しい彼女だ。
飛び出す言葉はきついけれど、その裏に隠された真意を私たちは知っている。


『…作戦範囲を履き違えない範囲でおやりなさい』


マムも、きっとわかっている。だからマリアの気持ちをくみ取って許可を出した。
そしてすぐに、マムから私たちに通信が入る。


『聞こえて?』

「うん、聞いてた。行けばいいんだよね?」

『えぇ。あの子の手助けをしてあげなさい』

「「了解」」


ぶつり。通信が切れる。


「…行こう、善逸」

「うん。…はぁ…戦闘になりませんように…」


まだ言うか。





「うわ、こっち来たんだけど!」


マムの指示通りに会場内部を走っていると、風鳴翼さんのマネージャーと思わしき男性が私たちに気付いてこっちに向かってきた。


「と、とりあえずどっかに隠れてやり過ごそう…!」

「それか、いざとなればこれで…!」

「わー!ちょっと善逸…!もうちょっと穏やかに考えられないの!?」

「やられる前にやれが信条だよ!!」

「アホか!!」

「どうされました!?」

「「ぎぇッ…!」」

「(ぎぇ…?)早く避難を!」


彼はどうやら私たちが避難している途中に迷子になったんだと思っているらしい。それなら、そう思われているうちにどうにか誤魔化さないと…!えっと、えぇーっと…!!


「こ、この子が急にトイレーだなんて言い出しちゃってですね…!あはは…!」

「え」

「そ、そうですか…じゃあ、用事を済ませたら非常口の所までお連れしましょう」

「だだだ大丈夫です!!ここいらでちゃちゃっとすませちゃうのでお気になさらず!!」

「わかりました、では気をつけてくださいね」


心配そうに振り返りながらも、男性は去っていった。ほ、と胸を撫で下ろす。

な、なんとかやり過ごせたって感じ…


「…ちょっと、羽炭」


くん、と袖が引かれる。振り返ると、心底不服だと言わんばかりに善逸が顔を顰めていた。


「何」

「今のは正直どうかと思う。いくら俺が元男だとしても、だとしても!!今は女の子なんだぞ!?さすがにこんな所でトイレしたりするか!!馬鹿!!」

「…さいですか」


何かと思えばそんな事か…。いや、わかってるから。あれは方弁と言うもので別に本気で言ってるわけじゃないんだけど。そう言うけれど善逸はぷりぷりと怒ったまましつこい。
…私は片割れのように気が長い方じゃないんだよなぁ…


「善逸、今日のお布団別々ね」

「えッ…だ、だめだめ!やだ!だめ!NG!!断固として認めません!!」


善逸曰く、前世が男だった時にできなかったことを今世でやりたいらしい。例えば、さっき言った一緒の布団で寝る事。一緒に風呂入って洗いっこする事諸々…。

…もうさ、諦めたよ私は。善逸が男だったって知ってるけど、本人が楽しそうなら別にいいかなって思っちゃってるわけで。


「じゃあ早く行くよ!本当にしつこいと怒るからね!」

「びぇ…」





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☆こそこそ話

☆フィーネ
世界中の人類の遺伝子構造に潜み、 アウフヴァッヘン波形に呼び覚まされるたびに蘇る先史文明期の巫女。
特異災害対策機動部二課に所属していた櫻井了子がフィーネの正体。
世界中にはフィーネの末裔が存在し、 彼ら彼女らが、聖遺物が起動する際に放つアウフヴァッヘン波形に接触すれば、 その機会の数だけ、新たなフィーネが誕生し続けることとなる。