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束の間の休息の話




折れた肋が完治するのには時間がかかる。それまで休息を言い渡された俺たちは、お言葉に甘えて藤の花の家で盛大にお世話になっていた。
昼間は縁側に座ってぽかぽか陽気をまったりと浴びる。伊之助はそのへんをうるさく走り回ってるよ。折れてるってのに、よくそんな動けるな…

夜は羽炭ちゃんが起きるから、俺も一緒になって夜通しお話をする。時々睡魔に負けて寝落ちするときがあるけれど、そういう時は決まって眼を覚ました時、羽炭ちゃんが添い寝してくれてるから嬉しすぎて俺、そのうちどうにかなってしまうのではと思っている。「お前、気持ち悪いな…」うるさいよ。


「羽炭ちゃんは、白い花は好き?」

「む、む」

「そっかそっか!じゃあいっぱい入れてあげるね!」


そうして数日。完治、とまでは言えないが、ほぼほぼ怪我が癒えた頃に寝入る伊之助を起こさないよう、羽炭ちゃんの手を引いて花畑に足を運んだ。ついこの間、たまたま見つけた場所である。その真ん中に腰かけ、花を千切っては編みを繰り返す。そうしてできた花の輪っかを見つめ、人知れず頷いた。けっこうきれいにできたんじゃなかろうか。


「はい、どうぞ!」

「?」

「これね、花の輪っか。花と花を編んで作るの。俺さ、昔からこれ得意だったから、いつか羽炭ちゃんに作ってあげたいって思ってたんだぁ」


花の輪っかを、そっと羽炭ちゃんの頭にのせてあげる。彼女の赫灼の髪には、白い花がよく映えてきれいだ。不思議そうに自分の頭に乗る花の輪を触る羽炭ちゃんを見つめる。きっと顔の筋肉全部落ちてると思うけど、そんなの気にしませんけど。かわいいは正義ですし?かわいい女の子に花とか映えでしかない。
でれんでれんとしながらもう一つ花の輪っかを作るべく花に手を伸ばした時、ふと羽炭ちゃんが動いた。「へ…」ふわり、頭に触れるぬくもりに目を見開く。え、だって、これ…


「む…」

「ッ…」


ふわり、ふわり、いつかの夜と同じように俺の頭を撫でる羽炭ちゃんの手つきがあまりにも優しいから、赤面すればいいのか泣きそうになればいいのかわからなくなって、なんかもう俺の中の色々諸々がやばい。
…それに、目が。羽炭ちゃんが俺を見つめる目が、どこまでも慈愛に満ちているから。胸がぎゅーッてなって、苦しくて、俺の心臓の音で周りの音が聞こえない。


「羽炭、ちゃん…」


そ、と頭を撫でる彼女の手を掴まえる。俺の手にすっぽりと収まる手が愛しくて、額に持っていく。


「絶対に、人間に戻してあげるからね。君の家族を殺した鬼舞辻も倒してそしたら…」


そしたら、の後に続く言葉を思わず飲み込んだ。言っていいものか、考えあぐねた。だって、こんな言葉は俺には重すぎて不釣り合いだ。誰からも必要とされない俺が吐くには、これは…
くんッ、と腕を引かれた。「えッ…!?」あまりに突然だったから踏ん張りも何もできなかった俺は、引っ張られたまま羽炭ちゃんを巻き込んで花の中に倒れ込む。その拍子にぶわり、千切れた花弁が宙を舞い、降り注ぐ。
俺は今、羽炭ちゃんを下敷きにして彼女に抱きすくめられていた。


「へ!?ちょ、羽炭ちゃッ、何して…!女の子がいきなりこんなことしちゃいけません!!いくら俺が臆病だからって、俺だって男…」

「む、むむ」

「男…なんだ、よ…」


ぎゅーッ、と、痛いくらいに抱きしめられている。誰に。一人しかいない。抱きしめられて、頭を撫でられて、こんなの、あやされてるみたいじゃん。男としてどうなの。情けなさすぎるでしょ。
だけど、嫌だなんて思わない。むしろ彼女の腕の中は心地よくて、陽だまりに包まれているみたいだった。
苦しい。胸が苦しい。苦しくて、痛くて、そうしたらなんだか目が熱くなって、気付いたら羽炭ちゃんの着物の胸元をじっとりと濡らしていた。


「ひッ…ご、ごめッ、ひくッ、なんか、急に…おかしいよねぇ…」

「うー、むんむん」

「俺、さぁ…親いないの…名前も付けてもらえなくて、愛とか、思いやりとか、本当…わっかんないの…!」

「むぅ」

「羽炭ちゃんのそばにいたら、胸が苦しいことも、痛い理由もわかるような気がして…けど、そんな都合のいい言葉なんて俺には不釣り合いだから、どうしても飲み込んでしまう…。なんで、痛くなるわけ…?俺、こんなに心臓が痛くなったこと、ないんだよ…?」

「…ん」


愛とか、思いやりとか、わからない。誰かを好きになるって簡単なことなはずなのに、だったら、この胸にある痛みはなんなんだって話。恋と愛って、何が違うの。
羽炭ちゃんは、ただ静かに俺を抱きしめて頭を撫で続けた。優しくて、あたたかい手だ。縋りつくように腰に腕を回せば、俺を抱きしめる腕の力が強まった気がした。

いつか、いつの日か、もし許されるなら、俺が恋と愛の違いが分かるようになったなら、言ってもいいかな。許されるかな。俺が君をーー…