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いち




多分、私の場合、偶然の因果が重なっていたんだと思う。

たまたま、鬼が跋扈する大正時代を生き抜いた記憶があった。

たまたま、前世と同じ家族の元で育った。

たまたま、ごく普通の一般家庭だった。


たまたま、運が悪かった。


特異災害指定であるノイズに襲われ、家族を亡くした。母は私たちを逃がすべく背中を押し、弟妹たちは助けようと私が手を伸ばすよりも早く炭素と消えた。
唯一一緒に逃げていた私の片割れは、逃げ惑う人々にもみくちゃにされている間にいつの間にか繋いでいた手を離していた。
だから、あの子が今生きているのか死んでいるのかもわからない。


そしてたまたま…


「善逸…?」

「え…は、羽炭…?」


私たちは出会ってしまった。










もうすぐマリアの舞台が始まる。日本のトップアーティストと謳われた風鳴翼さんと、僅か二ヶ月足らずで米国チャートの頂点に君臨したマリアの一夜限りの奇跡のユニットを組んだ特別舞台。
けど、これは私たちが全世界に宣戦布告を成す前座なのだ。


「はぁぁああ……無理無理無理、ほんと…無理…」


とある倉庫裏。マムからライブ会場に近いここで待機を命じられた私は、青い顔でネガティブを吐きまくる善逸に半目を向けた。


「もー、またそういう事言う…。しょうがないでしょ。これが私たちの役目なんだから」

「わかってるよぅ…わかってんだけど…リンカーの打ち込まれる感覚が苦手なんだよ…。それに俺弱いし…もし向こうの装者とバトルになったら死ぬしかないわ…」

「はぁ…」


善逸はよくも悪くも昔から変わらない。かつて共に大正時代を駆け抜けた時と同じ顔で同じ事を言う彼(今は彼女だが)に呆れを滲ませた笑いをひとつ。そうすると耳敏い善逸は大きな目玉いっぱいに涙をためて抱き着いてきた。


「うわあああああん!!そんな顔しないで!!ヘコむ!!俺羽炭に見放されたら死んじゃうよおおおおお」

「あーもう、うっさい!って、鼻水!!鼻水垂れてんだけど!ちょ、離れて!!」

「イヤァァアアアアア!!」


引き剥がそうとすればするほど腕に力を込める善逸。鼻から垂れるものが今にも私の服につきそうでほんとやめてほしい。蝶屋敷いた時に後藤さんにつけてたの知ってんだからな!


『羽炭、善乃』


腰に纒わり付く善逸を剥がすのに躍起になっていると、耳につけたインカムからマムの声が響いた。


『舞台が始まりましたよ。首尾はどうですか?』

「こっちは大丈夫。善乃がちょっとぐずってはいるけど問題ないよ」

「ちょっと何バラしてんの!?」

『善乃、また羽炭を困らせていたのですか?』

「う…だってぇ…」

『いつまでもそんな様子じゃ、あなたに任せられるものも任せられません。もっとしっかりなさい』

「はぁーい…」

『はぁ…わかっていますね、羽炭。あとは頼みましたよ』

「了解」


それっきりマムとの通信は切れた。
ふと視線を下げると、未だ正面から抱き着いている善逸が私の胸元から目だけを上げて睨めつけてきていた。
…何よ。


「…なんでマムに言うんだよ…」

「事実でしょうが。ほら、しゃんとする!じゃないとマリアにも言っちゃうからね」

「やだやだやだ!!マリアさんだけはやめて!!あの人怒るとほんっとーに怖いの!!わかる!?」

「私怒られたことないもん」

「うぐ…」

「ほら、そろそろ行くよ。じゃないと本当にマムに怒られちゃう」

「………じゃあちゅーして…」


何言っとんだこのたんぽぽは。目が冷ややかになったのは致し方ないと思う。「その目何!?やだその目!!」いやだって、ねぇ?


「頼むよぉー…!羽炭がちゅーしてくれたら俺めちゃくちゃ頑張れるからさぁ…」

「前も同じ事言ってたじゃん…。はぁ、しょうがないな…」


ぽつり、零すと善逸が露骨に目を輝かせたから、ほんのちょっぴり悪戯心が芽生えておでこに唇を落としてやった。
暗い倉庫裏に響くリップ音。ゆっくり顔を離すと、ひどく不服そうに顔を顰めた善逸がいた。「ぜんい、…」言い切る前にぱくり。口を食べられる。
間抜けにも少し開いた唇の隙間から善逸の舌が入ってきて私のそれを捕まえる。口内を蹂躙する舌が熱くて脳みそが溶けそうだ。
ぐちゅり、ぐちゅりと耳につくあまりにも粘着質な水音が恥ずかしくて身を引こうとするけれど、こういう時に限って善逸は行動が早いのだ。しっかりと私の後頭部に回った善逸の手は、私を離すどころかさらに密着しようと引き寄せてくる。

散々人の口を嬲った善逸は気がすんだのか、最後にぺろり、と私の唇を一舐めしてようやく体を離した。


「ん、はッ…はぁ…ほんと、急にそういう事しないでって…言ってんのに…」

「だって羽炭が意地悪するから」

「もぉー…しょうがない子だ…」

「へへ」


かわいく笑ったって許さないんだからな!
じっとりと今度は腕に張り付く善逸を睨めつける。今から世界を敵に回すというのに、私たち何してんだろ。

なんて、そんな事を思いながらマリアと風鳴翼さんの力強い歌声が聞こえる夜道に私たちは溶けるように身を滑り込ませたのだった。





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初っ端から百合全開でごめんなさい…けど百合書くの楽しいんです…
これを百合と言っていいのか謎ですが、しばしお付き合い下さいませ…



☆こそこそ話

☆特異災害指定ノイズ
国連総会にて認定された特異災害。形状に差異は見られるが、全てのノイズに見られる特徴として…
・人間だけを襲い、接触した人間を炭素転換させる。
・一般的な物流攻撃を無効とする。
・空間から滲み出るように突如発生する。
などなど。一般的な認識はこの程度。