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よん




「善逸兄ちゃんへたっぴ!」

「ただ振り下ろすだけじゃダメだよ!こうやって、全身を使わないと!」

「ま、待って待って竹雄くん茂くん…!これ結構難しいから!腕めっちゃ震えてんの!見て!?ねぇ、ほら!」

「震えを乗り越えてこその男だ!」

「何言ってんの!?」


わーわー、と騒がしい薪割り組を遠目に見ながら手元に視線を戻す。今私は炭を入れる炭俵を編んでいる。

黄色の彼の名前は我妻善逸。あの日、私の想像通り、夜あたりに再びを覚ました彼にお粥を食べさせ、熱が下がっているのを確認してから色んなお話をした。





***


「助けていただき、ありがとうございました」


そう言って額を畳に擦り付ける目の前の男の子に私たちは大いに慌てた。


「あ、頭を上げてください!そんな深く頭を下げずとも…」

「看病もしてもらった上に医者まで呼んでいただいたと聞きました、お礼をしてもしきれません。…ですが、今俺はこの通り無一文です。お金は必ずお返ししますので、一週間…いえ、五日、どうか少し待っていただけませんか…」


尚も頭を下げ続ける彼に私たちは思わず顔を見合せた。私たちの暮らしは決して裕福ではない。けれど、明日食べるものに困っているわけではないし、だからといって彼のために医者を呼ぶのを惜しんだりしなかった。

どうしよう…。
困惑する私たち兄妹をよそに、母さんが口を開いた。


「あなたのお名前は?」

「へ?あ、我妻善逸、です…」

「善逸さん、見ての通りうちは大家族です。ですが下の子たちはまだまだ小さく、こちらの炭治郎と羽炭が我が家の家計を担ってくれていますが、正直こちらとしては男手があると助かります」

「えっと…」

「ですので、善逸さんさえよければうちで住み込みで働きませんか?」





***


とまぁ、然々あって善逸はうちで住み込みで働くという形で収まったのだけど、正直すごく助かってる。
荷台に炭を乗せて町まで行く時とか、炭売りをいつも私と炭治郎で売っていたのを善逸が増えて三人になったりとか、弟妹たちも、街の情緒や遊びについて詳しい善逸について回って色々教えてもらってるみたい。

本当、ありがたいなぁ。


「おねーちゃーん!!」


いくつ目かの炭籠を作ろうとカヤに手を伸ばした瞬間、いつの間に三人に混じっていたのか花子たちが善逸の手を引いてこっちにやって来た。


「どうしたの?」

「わたしも花札やりたい!」

「花札?」


花子の言葉にはて、と首を傾げる。花札かぁ…残念ながらうちにはないな。そもそも誰もやった事ないからルールなんて知らないじゃない。
そう言うと花子はむすッ、と頬を膨らませた。


「やり方は善逸くんが教えてくれるから大丈夫!ねぇ、お正月は皆で花札やろうよ!」

「花札なんて近くの町に売ってないよ…それこそ浅草とか大きな所に行かないと」

「「「えー…」」」


心底残念そうに眉を垂らす花子たちにこっちが申し訳なくなった。普段この子たちが「何かがほしい」って言うことなんてないから、買ってあげたいのは山々なんだけど…


「ご、ごめんな羽炭、俺が余計な事言ったから…」

「あ、違う違う!むしろこの子たちに色んな事教えてくれてありがたいよ。ねぇ、花札は買えたら買ってあげるから、それまで我慢してくれる?」

「…うん」

「よし、いい子。木は切ってくれた?」

「善逸兄ちゃんと一緒にやったから早く終わったよ!」

「そっか。なら今日はもうおしまい。手洗って母さんたちの手伝いしてくれる?」

「「「はーい!」」」


わー!と我先に駆け出す三人を見送る。今日は私が炭俵を編んで、禰豆子と炭治郎が山菜を採りにいってくれているのだ。もうじき帰ってくる頃だろう。私も切り上げて夕飯の準備をしないと。


「あのさ、羽炭…」


後片付けをしようとカヤを集めていると、ここに残っていたらしい善逸が口を開いた。


「ん?どうかした?何か食べたいものある?」

「いやそうじゃなくて…その…」


なんだかすごく言い辛そうだ。すん、と鼻を鳴らす。申し訳なさと罪悪感の匂いがした。


「善逸は優しいね」

「えッ…?」

「花札の事気にしてるんでしょ」

「う…だ、だって、俺が言わなかったら羽炭を困らせる事もなかったし…」

「買えないわけじゃないんだよ。善逸が手伝ってくれるようになってから、少しではあるけど家計に余裕が出てきたし、おかず一品多く作れるようになったんだから。…ただ、このへんに売ってないだろうなーって思って」


都会に行く予定はないし、そもそもそこまで行くのにはさすがに時間もお金もないから、こればっかりは運に任せるしかないんだよね。


「ま、何とかなるよ」

「…羽炭って意外と楽観的だよな」

「深く考えたって仕方ないからね。世の中、なるようにしかならないんだよ」


だけど、それをどういう風にもがいて行くかは個人次第だけどね。なんて。偉ぶってみる。ぽかんと瞬きする善逸の向こうから山菜が入っているであろう籠を抱えた炭治郎と禰豆子が見えて縁側から立ち上がる。


「あ、帰ってきた。今日は山菜鍋にしようか。寒いし温まるよ」

「うん、そうだね」


善逸と一緒に大きく手を降れば、気付いてくれたらしい炭治郎と禰豆子が振り返してくれた。今日は山菜鍋と焼き魚と…確かまだ沢庵が残ってたはず。今日はそれにしよう。

二人を家に迎え入れ、きっと待ちわびているであろう弟妹たちに夕飯の支度を急ぐ私たちであった。