×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -
さん




あったかかった。

何が、と聞かれればうまく説明できずに首を傾げてしまうのだけど、ぽかぽかと、陽だまりにいるみたいに心も体も温もりで満たされていた。

時折優しく額をなでてくれる柔い手があまりにも慈愛で溢れてて泣きそうになる。今日も額や頭をなでてくれる優しい手に縋りたくて、縋りつきたくなって思わず手を伸ばした。


「………」


目を開ける。ぼんやりと揺れる視界の中に見覚えのない木目の天井を見上げた。伸ばした手は何も掴まずに宙をさ迷っていて、ほろり、目尻から涙がこぼれた。


「あ」


ぼーっとそのまま天井を眺めていると、唐突に声が飛んできた。目だけでそっちを見ると、まだ10代にも満たなさそうな男の子と襖の隙間から目が合った。


「ねーちゃーん!あのお兄ちゃん起きたー!」


そしてすぐに男の子は叫びながら引っ込んだ。姉ちゃん…?誰か呼んでくれるのだろうか。というか、ここはどこだ。どうして俺はここに…


「、ごほッ、ごほッ」


あの、と声を出そうとすれば、喉が張り付いているのか激しく噎せる。咳き込む度に苦しくなる息に涙目になりながらも必死に抑えようと蹲っていると、ふと背中にぬくもりを感じた。


「無理に止めようとしなくていいですよ。白湯を持ってきたから飲んでください。体起こせますか?」


声からして女の子。咳き込む合間になんとか頷いて見せると、俺の背中を支える彼女はそっと体を起こしてくれて、口元に湯呑みを持ってきてくれた。
ほどよく暖かい白湯が張り付いた喉を潤してくれて、全部を飲みきった頃、ようやく一息ついた。


「大丈夫?」

「う、うん…ありが、と…」


ずっと背中を支えてくれていた子にお礼を言いながら振り返れば、思いのほか近い距離に体が硬直した。


「…?どうかしましたか?」


こてん、と彼女が首を傾げれば、片耳についている花札みたいな模様の耳飾りがからん、と音を立てる。赤みがかった大きな目に見つめられて俺の口からは「あ、その…」なんて、言葉にならない声がもれるのみ。


「もう少し寝てていいですよ。熱はだいぶ引いたけど、完全に下がったわけじゃないですから」

「えっと…」

「何かほしいものは?おなかすいてませんか?頭とか痛かったり、気持ち悪かったりしたら言ってくださいね」

「…なん、で…」

「ん?」

「なんで、そこまでしてくれるの…」


思わず飛び出た疑問だった。だって、普通見ず知らずの人間にここまでするか?どういう経緯で俺がここにいるのかはわからないけど、それでも布団に寝かせてくれて、話を聞く限り看病までしてくれたのだろう。見返りとか、そんなんが目的なのかなって思ったけど、この子からそんな音は全くもってしない。

耳のいい俺は、心臓や呼吸、生き物から発せられるありとあらゆる音を聞くとその人が何を思っているのかが大体わかる。だからこそ、驚く程に優しい音を響かせ続ける彼女の音が心地よくて、なんだか泣きそうになる。
困惑する俺を見て、彼女は小さく微笑む。その笑みがなんだか小さい子供に向ける「仕方ないなぁ」みたいなもののようで、思わず息を飲んだ。


「…!」

「もう暫く寝てていいですよ。ゆっくり休んで、それからお話をしましょう」


そっと体を倒され、枕に頭を沈める。そのまま彼女は寝かしつけるように俺の額を撫でた。


「君の…」


下がりきっていない熱のせいで朦朧とする頭と、あまりにも優しい手つきに段々と瞼が重たくなる。あぁ、俺、誰かにこんな風に優しく頭を撫でてもらった事ないや…こんなにも、心穏やかで暖かい気持ちになれるんだ。
今にも途切れてしまいそうな意識をどうにか繋ぎ止め、言葉を紡いだ。


「君の、名前は…?」

「…竈門羽炭。おやすみなさい」


そうして今度こそ、俺の意識は深く沈んでいった。





***


「様子はどうだ?」


夕方頃、炭売りから帰ってきた炭治郎が襖の隙間からひょっこりと顔を出し、尋ねた。


「昼頃に一度起きたんだけど、またすぐに寝ちゃった」

「無理もないよ、結構な高熱だったし、見つけた時の状態が状態だったから。…にしても」


じ、と炭治郎が見つめる所に苦笑いをした。視線の先、私と男の子のちょうど間。彼をもう少し寝かせようと額を撫でていると、そこから私の着物の袖を掴んで離さないのだ。引っ張っても離れる事のない手を剥がす事を諦めて、禰豆子や母さんに事情を話して家の事は頼んである。


「きっと一人になるのが寂しいんだよ。茂や六太もよくやるでしょ?」

「それはそうなんだけど…」

「何?炭治郎、もしかして妬いてるの?」

「やッ、妬いてない!というか、羽炭今絶対面白がってただろ!」

「はいはい、私が悪かったよ。だからあまり大声出さないで。起きちゃうでしょ」

「うッ…」

「!」


彼の小さな唸り声に一瞬起こしてしまったかと肩をビクつかせたが、どうやら身動ぎしただけみたい。
再び規則正しい呼吸をし始めたのを確認して、もう一度手を解くべく奮闘する。

うーん、ダメだなぁ…外れない。仕方ないから、暫くはこのままでいよう。

袖を掴まれていない反対の手で額の汗を拭い、手を当てる。…昼間より下がったな。もしかしたら今晩あたりにもう一度目を覚ますかも。お粥でも作っておこうかな。