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いち




ざくざく。ざくざく。降り積もる白い雪に私の足跡が点々と残る。背中に背負う籠には今朝まで目一杯入った炭で溢れていたのだけれど、今はすっかり軽くなり、代わりに、多少ではあるが懐が暖かくなった。

少し低い位置に傾いた太陽の光が雪を乱反射させて、キラキラと瞬かせる。それだけみればひどく幻想的ではあるのだけれど、ここは比較的町に近い道だ。一通りも多いから、その煌めきは一瞬にして人混みに紛れてしまう。
…そういえば、炭治郎はどうだっただろう。今日は私と炭治郎二人で、手分けして炭を売っていたのだ。

待ち合わせの時間までまだ少しある。せっかくだし、弟妹たちにお土産でも買って帰ろうか。

そう思い踵を返せば、ふと漂ってきた血の匂いにびくり、と肩を揺らした。はずれではあるが、町の中に変わりないこの場所で不釣り合いな血の匂い。すん、ともう一度鼻を鳴らせば、どうやら近くの路地裏から漂っているらしい。
見に行くべきか、どうするべきか。少しの間考えて、結局心配になって少し覗くだけなら、と路地裏に足を向けた。


「もしもし…」


そろぉ、と路地裏に顔を覗かせる。薄暗くてよく見えないが、誰かがいるのはわかった。恐る恐る足を踏み入れる。細く薄暗い路地だからか、吹き抜ける風が一段と冷たく感じて思わず腕を摩った。
少し歩いた時、唐突に地面に倒れる人を見つけた。


「だ、大丈夫ですか!?しっかり!」


その人は私とそんなに変わらないくらいの男の子だった。異国の人みたいに明るく鮮やかな黄色い髪は、薄暗い路地裏でもよく目立つ。駆け寄って抱き起こせば、たくさん殴られたのか顔がぱんぱんに腫れていて、口や鼻から血が滴っていた。
これを見て、さすがにこのままここに放っておくわけにもいかず、背負っていた籠を正面で抱え直して男の子を何とか背負う。…のだけど、男の子にしてはやけに軽い体重に驚いた。
そうして路地裏から彼を背負って出る寸前、慌ただしく複数人が前を横切った。咄嗟に息を潜めて路地裏の影にしゃがみこむ。


「いたか!?」

「いや、まだだ。あれだけ目立つ頭してんだからすぐに見つかるだろ」

「くそ、逃げ足の速い奴め」


足音が遠のく。さっきの人たちの会話を聞く限り、探しているのはもしかしてこの人なんじゃなかろうか。だって、これだけボコボコに殴られて、目立つ頭って…


「あーもう、仕方ないなぁ…!」


背負った彼をいったん地面におろし、彼の髪を隠すように懐の手拭いを巻き付ける。着ていた千歳茶色の羽織を彼に着せ、もう一度背負い直す。そして一度深く深呼吸してから路地裏を飛び出した。

あと人たちの匂いは、今のところこの辺ではしない。炭治郎を探したいところだけど、下手に町中をうろついて見つかりでもしたら面倒だ。運良く巡り会えたらなぁ、なんて。


「は、羽炭!どうしたんだその人!」


…なんて、思っていたら間がよく炭治郎が現れた。さすがわたしの片割れ。


「そこの路地裏で倒れてたの。すごく怪我してるから手当してあげたいのと、ちょっと面倒な事になっててさ」

「…言いたい事はたくさんあるけど後にする。まずはこの人が先だ。俺が背負うから、羽炭は籠を頼んだ」

「うん、任せて」


どうやら後で炭治郎にお説教をされるらしい。やだなぁ…なんて思いながらも男の子を炭治郎に預け、代わりに炭治郎の分の籠を背負い直す。その途中で簡単に事情を話せば、ぐ、と炭治郎の眉に皺が寄った。


「追われてる…?」

「多分ね。あいつら何人かいて面倒だけど、この人放っておくわけにはいかないからさ」

「とりあえず、まずはこの町を出よう。話を聞いてる限り、あまり長居しない方がよさそうだ」


周囲に気を配りながら走るスピードを早める。あの人たちの匂いは覚えているから、多少の優位性はこっちにある。
大通りは避け、できるだけ小路を選びながら町を出た私たち。あとは家に向かって山道を駆けるだけだ。


「ぅ…」

「!だ、大丈夫?待ってね、あともうすぐで家に着くから…」

「…」

「…身動ぎしただけ、かな?」

「急ごう。多分、今日は吹雪くぞ」


すん、と鼻を鳴らした炭治郎。炭治郎が言うのならきっとそうなのだろう。だって、炭治郎が天気を外した事はないから。

そっと炭治郎が背負う彼の背中をなで、私たちは走る足を早めた。