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SONGの本部である潜水艇に連れてこられた俺は、とある部屋に拘束されていた。念の為と、両手につけられた手枷が今までにしてきた俺自身の罪を戒めるようで、冷たく、ずっしりと重たく感じた。


「…善逸、大丈夫か…?」


しゅん、と音を立てて炭治郎が入ってきた。炭治郎は優しいから、俺の手枷を見て悲しげに眉を下げる。あぁ、ほんと、その優しさは昔から何ら変わりない。


「ごめん、本当はこんなものつけたくないんだけど、司令の指示だから…」

「なんで、お前が謝るんだよ…。だって、俺はこれをつけられるだけの事を今までしてきたんだ」

「善逸…」

「…それに、謝らなきゃいけないのは俺の方だ」


離れてほしくないと、ずっと一緒にいてほしいと、独りにしないでと言っておきながら、俺の方が羽炭の手を離してしまった。何か悩んでいる音がした。言いたげに、だけど言いにくそうに何度も視線を逸らしていたのを俺は知っている。けど、俺はそれに触れなかったんだ。だから羽炭は一人でずっと悩み続けて、色んな事で頭ん中がごちゃごちゃになって、それに追い打ちをかけるように俺が癇癪を起こしたから。

艦隊の上で俺の背中を押した羽炭の顔が、音が、頭から離れない。安心したような、今にも泣き出しそうな顔。背中を押して戦闘から離脱させようとしたくせに、引き止めたくて、でもどうしたらいいかわからない音をさせて。
全部が正反対の感情をたくさん背負った羽炭のちぐはぐの心が今にも壊れてしまいそうで。けど…


「その片棒を担いだのは俺なんだ…」


ごめん、炭治郎…。
ぼろぼろ、ぼろぼろ。目から滑り落ちる涙が手枷に落ちる。俺が無理矢理縛り付けたのに、その手を先に離したのは俺だった。ほんと、自分勝手。いつもそうだ。本当にほしいものは悉く手から全部こぼれ落ちていく。羽炭の背中に俺の手が届かない。


「あまり、自分を責めないでくれ」


ぽん。炭治郎の手が俺の肩に乗る。鼻水も涙も垂れっぱなしのみっともない顔を上げれば、炭治郎は困ったような、けれどどこか嬉しそうな、そんな顔をしていた。


「正直、俺は少し安心しているんだ」

「なんで…」

「辛い事も、泣きたい事もたくさんあっただろうけど、今日まで羽炭のそばにずっといてくれたのは善逸じゃないか」

「そんなの、それは…」

「善逸がそう思わなくても、俺はそう思う。あの日、俺が羽炭の手を離して生まれた悲劇も、善逸が後悔して嘆く悲しみも、まだ取り返せる。あの子の手もまだ届く。俺たちがこうして後悔している間に、羽炭もきっと同じように後悔して苦しんでいる」


炭治郎の手が差し出される。それと炭治郎の顔を交互に見上げれば、今度は力強い、意志のこもった真っ直ぐな音を響かせて俺を見ていた。


「力を貸してくれ、善逸。もう嘆くだけが俺たちじゃない。手放したものを取り返す術を持っている限り、何回も、何十回も、手を伸ばそう。…昔も、そうだっただろう?」


真っ直ぐだ。どこまでも、建前も言い訳も何も持たない澄み切った炭治郎の音だから、俺は信じたいと思った。


「戦いたくないって思う。だけど、それは羽炭に甘えたままでいた昨日までの弱い俺だ。もう、逃げない。もう泣かない」


炭治郎の目を真っ直ぐ見つめ返す。涙を堪えるあまり、半ば睨みつけるようになってしまったけど、それは許してほしい。


「炭治郎、俺に力を貸して。まだ間に合うチャンスがあるなら、縋り付いてでも掴みたいんだ!」

「あぁ!」


差し出された手を掴むと、すかさず俺につけられた手枷をはずしてくれた。そのまま手を引かれ、連れてこられたのはたくさんのモニターやらなんやらの機械で溢れた管制室。
あまりにも仰々しい光景にたじろいでいると、入ってすぐの所に佇んでいた赤髪のおっさんが近付いてきた。


「…先に謝る、すまない。知り合いである事を利用して、君への交渉を炭治郎に行かせた。君には断る権利もあるんだ、だから…」

「舐めるなよ、おっさん」

「ん…」

「他の誰でもない、私の意思で今ここに立っているんだ。炭治郎に利用されただなんて思っていないし、もしそうだとしても、炭治郎になら利用されたって構わない」

「ぜん…善乃…」

「…君は、炭治郎の恋人か何かなのか…?」

「はぁ!?気持ち悪い事言わないでくれます!?」


なんて事を言ってくれるんだこのおっさん。俺が炭治郎の恋人、だと…!?うえええ…!!想像しただけで気持ち悪い!見た目は女の子だけど心は普通に男だからね、俺!性同一性障害とかそんなんじゃないけど!!複雑なの!!前世が男だからさぁ!!そりゃあ炭治郎は好きだけど普通に友達として仲間としての好きであって!!ほんと!!やめてくれる!?


「私は!羽炭の手をもう一度繋げるのなら何でもできるって話!」


そう、つまり、それ!視界の隅で炭治郎が苦笑いしてるのを横目におっさんを睨みつける。すると、唐突に俺の右手が暖かくて柔らかいものに包まれた。
咄嗟にそっちを見ると、明るい髪色の…ガングニールの少女、立花響ちゃんがいた。


「善乃ちゃん!!」

「ヒェッ…!」

「絶対絶対!絶対に羽炭ちゃんの手を繋ごうね!!大丈夫だよ、私たちがついてるからね!!」

「ギアを持たないお前は行かせないからな!」

「善乃ちゃんなら、羽炭ちゃんの手を握るために握りしめた拳を開けるよ!」

「聞いてないな」


ぶんぶんと俺の右手を振り回す響ちゃん。羽炭やマリアさん以外の女の子に手を握られるのは凄く緊張する。緊張するけど…


「(なんて、暖かい手なんだ)」


まるで陽だまりにも似た響ちゃんの手に、適わないわけだ、と妙に納得した俺がいた。