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じゅうよん




ドクターによるメディカルチェックを受けた私。リンカーの過剰投与に加え、絶唱を口にしたのにも関わらず吐血程度で済んでいることに自分自身驚きを隠せない。

…多分、あの子が私の絶唱の負荷を抱え込んでくれたからだ。


「もういいですよ。ですが、副作用が抜けきるまでは大人しくしておくことですね」

「……ありがとう」

「おや、お礼だなんてどういう風の吹き回しでしょうか」

「してもらったことにお礼を言うのは当たり前。…ただそれだけ」

「そうですか」


パーカーを羽織り、簡易的なメディカルルームを出て自室に向かう。


「羽炭、ちょうどいいわ」


自室に向かう途中でマリアをすれ違った。私を呼び止めたマリアは、徐に財布とメモ用紙を私に握らせ、ため息を吐いた。


「マリア?どうしたの?これは一体…」

「気分転換がてら、買い出しに行ってきてちょうだい。そうね…多分この量は一人じゃ無理だから、善乃と一緒にでも行ってきなさい」

「…けど」


あれから、あの日から、私は善逸と口をきいてない。というより、善逸が私と口をきいてくれない。すれ違ったらあいさつ程度はしてくれるけど、それだけ。それがひどく辛くて、悲しい。
だけど、善逸があそこまで怒っているのには心当たりがあるのだ。だから私もうまく言葉が出てこなくて、結局は何も言えないまま時間だけが経っていく。

…あぁ、言い訳だ。全部自分が悪いのに、正当化しようとしてる。こんな自分が本当に嫌いだ。


「…仲直り、してきなさい」


マリアはきっと、それに気付いている。だからこうして私と善逸が話す機会を作ってくれようとしているんだ。


「…うん。ありがとう、マリア」


ぽんぽん、と私の頭を撫でて、マリアは行ってしまった。ほんと、どこまでも優しい人だ。自分だってフィーネの魂の器として苦しんでいるのに、一歩前を踏み出せるよう背中を押してくれる。
この世界の人間は、お人好しばかりだ。


「……善逸」


自室に入れば、二段ベッドの一段目がこんもりと膨らんでいた。


「マリアに買い出しをお願いされたの。荷物が多くなりそうだから、善逸がいいのなら手伝ってくれないかな…?」


ぽん。背中だと思われる場所に手のひらを置く。匂いは、まだ少し怒ってる。
返ってきた無言にやっぱり寂しくなって、けれど善逸が選んだ選択に何も言えない私はそっと手を離した。


「…そっか、なら私が行ってくるから、善逸はゆっくり休んでて」


離れ際にぽん、ともう一度布団越しに背中を撫で、踵を返す。
数歩だけ歩いて、刹那。


ーがしッ!


突然腕を掴まれて目をひん剥きながら振り返ると、さっきまで布団の虫になっていた善逸がいつの間にか布団から出てきていた。


「ぜ、善逸…?どうしたの?別に無理しなくてもいいんだよ?」


俯き、心無し震えている善逸にできるだけ優しく声をかける。だって、無理して出てきてほしいのではなかった。


「…い、く」

「え?」

「おれもッ…一緒に行く…!」


顔を上げた善逸は、泣き腫らした目にまた涙を溜めて私を見上げていた。その目に、涙に、姿に、私まで泣きそうになって、滲みかけた視界を無理矢理こじ開けた。

きつく握りしめた善逸の手をそっと包み込む。


「うん、一緒に行こう」


あぁ、私、やっぱり善逸が大好きだ。
いつの日か、善逸が私に抱くあの想いは違うものだと言った愚かな私を赦してほしい。だって、間違えているのはきっと私の方だ。