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じゅうに




私たちがギアを纏えているのは、ひとえにドクターが作るリンカーのおかげではある。けれど、結局私たちはSONGの装者たちほど適合係数が高いわけではないのだ。

レセプターチルドレンとして施設に集められた私たち。数いる少女たちの中でもシンフォギアと適合するのはごく少数であり、皮肉にも選ばれてしまったのが私と善逸だった。
特に善逸は、私たちの中でも一番と言っていい程適合係数が低かった。
初めてミョルニルを纏った時なんて、ギアからのバックファイヤーに体が耐えきれず、吐血するわ血涙するわ鼻血出すわで大変だった。3日程生死の境をさ迷っていて、目覚めない善逸にこのまま死んでしまうのではと怖くてそばを離れられなかった記憶がある。

…だから、本当はシンフォギアなんてもの善逸に纏ってほしくないし、もっと言えばこの戦い自体に参加してほしくないって思ってる。

いずれ起こるであろう、月の落下。そうなると、数え切れないくらいの無辜の命が犠牲になる。それを防ぐために私たちは偽善を纏った世界に反旗を翻しているのだ。
善逸も、適合係数が低くともギアと適合したからには自分みたいな思いを他の人にしてほしくないと戦い続けているのだけれど…


…本当は、戦ってほしくない。
普通に学校に行って、普通に日常を過ごして、普通に友達とふざけたりしながら、普通の女の子として普通の生活をしてほしいって思ってる。

だから、善逸がもうギアを纏わなくていいように、戦わなくていいような世界にするために、私は……ーー




「羽炭ってば!」

「ッ!」


ぐいッ!と力強く腕を引かれて、そこでようやく私が思考の海に沈んでいたのに気付く。
私の腕を引っ張った本人…善逸は、ひどく泣きそうに顔を歪めて私を見上げていた。


「さっきから何回も呼んでるのに、羽炭ってばずっと上の空だよ…。ねぇ、どこか悪い?体調とかさぁ…俺心配だよ…」

「ううん、大丈夫。ちょっと考え事をしてただけ」

「本当に…?」

「うん、本当。ごめんね」

「ならいいけど…」

あぁ、優しい子。昔からこの優しさだけはちっとも変わらない。自分だって辛くて苦しいのに、他人にも優しくできるのは善逸の美点であり美徳だ。


「…ドクター、見つからないね」


善逸がこぼした。
待機を命じられた私たちは今、連絡が途絶しているドクターを探しにマリアの指示の元外へと繰り出している。
様態が急変したマムの治療はドクターしかできない。そのために私たちは、気乗りしないけれどマムのためにあの奇天烈ヤブ医者を探しに来ているわけだ。

先程マリアに通信すれば、うっかりマムと繋がって焦ったけれど、どうにか落ち着いたらしいマムの久しぶりに聞いた優しい声に泣きそうになった。


「よかった…マムが元気そうで」

「うん…。けど、いつまた具合が悪くなるかわからないから、急ごっか」

「でも俺、安心したらおなか減ってきたんだけど…」

「あー…朝から何も食べてないもんね。けど、もう少し我慢できる?戻ったら私がめいいっぱいおいしいオムライス作ってあげるから。ね?」

「ひゃああああ…!!嬉しい…!あッ、あッ…!ケチャップで文字書いて!」

「はいはい」


「やったー!!」と飛び跳ねる善逸に笑いかける。

…やっぱり私は、善逸のこの笑顔を守りたい。この笑顔を守れるなら、私はなんだってできる。なんだって我慢できる。

もう偽善者だなんて、言わせない…