じゅういち
『あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あああああああああああああ!!!!』
モニター越しに立花響さんの絶叫が部屋に響き渡る。謹慎待機を言い渡され、彼女らとの決闘もつけられないままに私たちの代わりに出て行ったのはドクターだった。
彼が召喚したネフィリムがシンフォギアごと立花響さんの左腕を食い千切り、胃袋に入れたのは今の今。今更になって、ドクターが言っていたネフィリムの餌というものが何か理解した私は、激痛に耐えているであろう立花響さんをただただ立ち尽くしてみていた。
「あんの、奇天烈…!!」
どんッ!善逸が壁を殴った。
「どこまで道を踏み外したら気が済むの、ドクター…」
唐突にマリアが踵を返した。びっくりして背中を見つめると、すぐにマムから叱咤が飛んでくる。
「どこへ行くのですか、マリア。今あなたたちに命じているのはこの場での待機ですよ」
「けどあいつは…!人の命をもてあそんでいるだけ!!こんなことが私たちのなすべきことなのですか…!?」
マムは答えなかった。ただ静かに沈黙。それが余計に私たちの不安を煽って、本当に正しいことをしているのかがわからなくなってくる。
「…正しいことをしてるんだよね…」
善逸がこぼした。これが、私たちが今彼女らにしていることが間違っていないのなら、どうしてこうも胸が痛くなるのだろうか。
「…その優しさは、今日を限りに捨ててしまいなさい。私たちには、微笑みなど必要ないのですから」
マリアは部屋を出て行った。何とも言えない空気がこの場を包む。
「…私が、決闘なんて言ったから…」
あんなことを言わなかったら、彼女らはここに来ることも、立花響さんも左腕をネフィリムに食い千切られることもなかった。幼稚で子供じみた私の思い付きが彼女を苦しめている。
「羽炭…」
けれど、目を逸らすことは許されない。それは現実から、彼女から逃げるのと一緒。私は見届けないといけないんだ。
ふと、気付いた。
私が今思ってるこれって、もしかして偽善なのではないのかって。
そう思った瞬間、耳元でさーッと血の気が引く音がした。何よりも善逸が嫌う“偽善”。それを、私がしているのでは…と。
ばッ、と善逸を見た。幸いにも彼女はモニターを見るのに必死で、私の様子に気付いていない。それにほっと胸を撫で下ろす。
…徹しなければ。私が偽善者に成り下がっていたんじゃ、善逸に嫌われてしまう。
それは…
「やだ、なぁ…」
爆発の光で真っ白になったモニターを、私はただただ見つめていた。
---
☆こそこそ話
☆偽善者
善良であると偽り、これを行う人間の事。