×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -
じゅう




いつからだっけ。私たちが歌う歌が"誰かのために"じゃなく"戦うための手段"になったのは。





会場が拍手と喝采で溢れる。気付けば私たちは歌を歌いきっていて、思いっきり歌えた事、何も考えなくてもよかった事、そして何より、心の底から楽しんでいたことに心底驚いた。


「チャンピオンとてうかうかしてられない素晴らしい歌声でした!!これは得点が気になるところです!!」

「二人がかりとはやってくれる…!」

「え、だってダメって言われてないもん」

「そうだけど…!い、いやそうじゃなくて!!」


なんか雪音クリスさんが悶々と地団駄踏んでるんだけど。え、ダメだったの?デュエット。何も聞いてなかったからてっきり…

そこまで考えて、唐突に無線にマムの声が入った。要件は、アジトが特定されてしまった事、早急に移動しなければいけないため、マムに言われた場所まで行かなければいけない事。


「そんな…!あと少しでペンダントが手に入るかもしれないんだよ…!?」

『緊急事態です。命令に従いなさい』


そう言い捨ててマムからの通信は途切れた。ペンダントも手に入らず、不完全燃焼。私も善逸も悔しくて歯噛みした。


「…行こう、羽炭」

「ぜ、善逸…!でも…」

「いいから!」

「あッ…」


ぐいッと善逸に手を引かれるがままステージを降りる。観客のどよめきが耳に入る。


「お、おい!ケツを撒くのか!?」


雪音クリスさんがなんか言っているけれど、それでも善逸は振り返ることなくただ走る。


「マリアさんがいるから大丈夫だとは思う!…けど、やっぱり心配だよ…」

「善逸…」


さっきマムは本国の連中たちを退けたと言っていた。…もし、私たちが思う退けたとマムの言う退けたが一致しなければ、マリアは…

講堂を出て、露店が賑わう中庭を抜ける。もうすぐ校門を潜ろうとしたところで、私たちの前に風鳴翼さんが立ち塞がった。後ろには雪音クリスさんと、融合症例第一号…立花響さん。


「羽炭ちゃんと善乃ちゃん、だよね…?」

「…急いでんだけど、どいてくんない?」


存外冷たい言葉が善逸から飛び出して、少し驚いた。


「数だけではそっちに分がある。けど、ここで戦う事で君たちが失うものの事を考えて」

「お前…!そんな汚い事言うのかよ!!さっきあんなに楽しそうに歌ったばかりで…!」

「言うよ」

「なッ…」

「どんなに汚くても、それが汚いってわかってても、私たちはそれを利用する」


言い切った善逸に横目を向ける。私と背中合わせに立っているから今の彼女の表情はうかがえないけど、けどきっと、泣くのを我慢してるようなクシャッとした顔をしてるんだと思う。
そっと善逸の手を握った。


「今ここで戦いたくないだけ。…ごめん、本当に急いでるんだ。通してもらうよ」

「竈門くんが来てる!!」

「!!」

「…会わなくてもいいの?たった二人の兄妹なんでしょ…?せっかく同じ世界にいるのに、会わないのなんて寂しすぎるよ…」


ぐらぐら。ぐらぐら。私は今すごく細い岩場に立っているようだった。不安定で、すごく揺れ動いてる。…だけど。
善逸がきつく私の手を握り返した。


「…会わない。いや、会えないの方がただしいか…。なんにせよ、私はもうあの子に顔向けできないから」

「羽炭」

「わかってるよ、善乃。…なら、決闘でもしようか」

「け、決闘…!?」

「時と場所はこちらが告げます。それまではどうか…」

「…行こう」

「うん」


三人の間を擦り抜け、リディアンを出る。視線がいつまでも突き刺さっていたけど、私たちはそれを振り払ってマムの指定したポイントに急いだのだった。




***


空が赤いグラデーションを描く頃、マムに言われたポイントにステルスを解いたヘリがやって来た。開いたハッチから降りてくるマリアに私たちは駆け寄った。


「マリア…!」

「マリアさん、大丈夫…?」

「え、えぇ…」

「そっか、よかった…。マリアの中のフィーネが覚醒したら、もう会えなくなるもん…」

「…フィーネの器となっても、私は私よ。心配しないで」

「うんッ…」


二人してマリアに抱き着いていると、マムがドクターを伴って降りてきた。


「二人とも、無事で何よりです。さぁ、追いつかれる前に出発しましょう」

「待ってマム!」


私はマムに制止をかけた。だって、このまま引き下がれない。あの子たちに決闘するって言ってしまった。ペンダントだって取り損ねた。


「私たち、あの子たちのペンダントを取り損ねてるの…!」

「決闘すると、そう約束したんだ…!だから……ッ、」

「マム…!うッ…」


ばしんッ!とマムが私と善逸の頬を叩いた。呆然とマムを見つめると、今までにないくらい怖い顔をしていて、思わず一歩後ずさった。


「いい加減にしなさい!マリアも、あなたたち二人も!この戦いは遊びではないのですよ!羽炭は少しはわかっていると思っていたのに…」

「まぁまぁ、そのくらいにしましょう」


やれやれ、と言いたげにしゃしゃり出てきたドクターを睨みつけた。


「まだ取り返しのつかない状況ではないですし、ねぇ?それに、その子たちが交わしてきた約束、決闘に乗ってみたいのですが…」


いまいち、ドクターの真意がわからない。普段から胡散臭いだけに、何を考えているの…
それを思ったのは私だけではないらしく、マリアも、珍しく善逸も訝し気にドクターを見ていた。


「まずは移動しましょうかねぇ。それで、後のことは私に任せてもらえれば…」