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はち




ある日、私たちはネフィリムの餌を補給すべくリディアン音楽院に潜入していた。ちょうど学祭を催していたらしい。賑わう屋台を物珍しそうに見渡す善逸はどこにでもいるような女の子だ。


「わ…出店がいっぱい…!見て羽炭!たこ焼き!」

「おいしそうだね。せっかくだし買って行こうか」

「うん!……いや、いやいやいや!買わない買わない!俺たちは学祭を楽しむためにここに来たわけじゃないだろ!」

「目移りしてたのは善逸でしょ?」

「うッ…そうだけどさぁ…!」

「ちょっとくらい満喫したってバチは当たらないよ。すみません、二つくださいな」

「はーい!」

「ちょ、羽炭…!」


二人分のお金を店番の女の子に手渡し、たこ焼きを受け取る。ほかほかと湯気を立てるそれはソースの匂いが腹ぺこ空きっ腹を刺激して涎が出そう。
未だ戸惑う善逸の手を引き、近くの中庭のベンチに腰掛けてたこ焼きを広げた。


「はい、あーん」

「…あー…」


たこ焼きを少し冷ましてから善逸の口元に持っていってやると、納得してなさそうな顔でそれを頬張った。が、瞬く間にキラキラと顔を綻ばせ、そんな善逸を見て私も胸がほっこりした。


「おいしい?」

「!…おいしい」

「そっか。私も食べよっと」

「あ、待って羽炭!…はい、あーん」

「私自分で食べれるけど」

「俺がやりたいだけ。ね、だめ?」

「うッ…だめじゃ、ない…もー…しょーがないな…」

「へへ」


こういう時だけ善逸は本当に楽しそうだ。
差し出されるたこ焼きに少し息を吹きかけて、ぱくり。口に広がるソースと鰹節の香ばしい匂いに思わず頬が緩んだ。


「ん”んッ…!」

「善逸?どうかした?」

「何でもない…!」


その割に顔が赤いけど、熱でもある?
顔を覗き込んでみても、善逸は「何でもない!」の一点張り。そこまで言うならもう何も言わないけど…

私たちの今回の目的は、空腹になったネフィリムの抑制のための食料調達。つまり、SONG側が持つ装者のシンフォギアを強奪する事。
本当はマリアが行くと言っていたのだけど、マリアが力を使う度にフィーネの魂がより強固にマリアの魂を塗りつぶしてしまう。それだけはなんとしても阻止しないといけないため、こうして私たちが名乗り出たわけだ。

私たちはたこ焼きを平らげ、ふと何となしに振り返ってみると、校舎へと続く階段を登っている風鳴翼さんがいた。


「あッ…!ぜ、善逸…!かもねぎ来た!行こう!」

「ちょッ…!待て待て羽炭!落ち着け!」


慌てて風鳴翼さんを追いかけようと足を踏み出せば、善逸に腕を引かれて瞬く間に元の場所に戻ってきた。


「なんでそう死に急ぐみたいなことするわけ!?作戦も心の準備もないのに、かももねぎもないからね!?」

「じゃあどうすんの?このままだとあの人を見失っちゃうけど…」

「そうだけど…!と、とりあえず尾行しよう!どうにか隙を見つけて、その時に奪えたら御の字なんじゃない!?」

「まぁ、そっか…よし、行こう」


こそりこそり。傍から見ればかなり怪しいんであろう私たちは、柱の陰に隠れて風鳴翼さんを尾行していた。…が、急に振り返る。咄嗟に顔を引っ込めたけど、ば、バレてないよね…!?


「…ねぇ、今更なんだけどさ」

「ん?」

「こっそりギアのペンダントだけ奪うなんて土台無理な話なんじゃない…?」

「…じゃあ、強硬手段…?」

「穏便に!!穏便に考えよう!!ね!?」


そんなこと言うけど、善逸だってライブ会場で強硬手段取ろうとしてたじゃん。覚えてるからね、私。

そうこうしているうちに、風鳴翼さんが雪音クリスさんと合流してしまった。そしてあろう事か、さっきから監視するような視線を感じるだの、誰かに後をつけられているだの…

……え、これバレてないよね。大丈夫だよね…?


「見つけた!雪音さーん!」


風鳴翼さんの言葉に善逸と二人、顔面蒼白にさせていたら、私たちの横を女の子三人組が駆け抜けた。

こっそりと話を聞く限りじゃ、あの三人組は講堂で開催されるカラオケ大会の勝ち抜きステージに雪音クリスさんを出場させたいらしい。なんでも優勝者には望みが一つ叶えられる権利を与えられるとか…

ぴこん!頭上に電球が浮かんだ。


「ねぇ善逸、私いい事思いつ、」

「やだからね」

「まだなんも言ってない…」

「全部聞かなくてもわかるからね!?どうせ、俺たちも勝ち抜きステージに参加しよーとか言うんだろ!!無理だから!!人前で歌うとかほんっっっと無理だからあああああ!!」


善逸が半狂乱で絶叫した。だって、なんでも望みを一つ叶えられるんだよ?こんな絶好のチャンスを逃すわけにはいかないよ。
どうにか説得を試みるが、善逸は「絶対嫌!」の一点張り。まいったなぁ…


「善逸…」

「嫌」

「善逸ぅ…」

「いーやッ!!そ、そんなかわいい声だしても無駄だから!!俺本当に…冗談なしで死んじゃう…」

「死なないよ」


ぎゅーッと善逸の手を両手で握り込む。「は、羽炭…!?」途端に顔を真っ赤にさせるこの子がかわいくて頬を緩めれば、お見通しなのかすぐにむすッとふくれっ面になった。


「善逸は歌うの嫌い?」

「う…嫌いじゃない、けど…それとこれとは話が別…」

「私ね、善逸の歌う声すっごく好き」

「!」

「優しくて、胸がぽかぽかして、聞いてるこっちも幸せになれるような声なんだよ。そうだなぁ、伊之助風に言えば、ほわほわする?」

「ちょ…ほんと勘弁して…」


顔どころか首まで真っ赤にさせた善逸は涙目になりながら俯いた。その姿に不覚にも心臓を撃ち抜かれた音が聞こえた気がした私である。うわ…かわいすぎかよ…普通に女の子じゃん…。これで元男とか本当は嘘でしょ…


「お、俺…そんなに歌上手くないし…お世辞とかほんと…」

「私が今まで嘘ついたことある?」

「………な、ない…」

「ね?…あ、じゃあこういうのはどう?会場の人たちにじゃなくて、私のために歌って?」


こてん、首を傾げる。
善逸はいつも自分を卑下するけど、私は本当に善逸の声が好きなのだ。人前で歌うのが嫌とか、時々歌が嫌いだなんて言うけれど、実際に歌っているところを見ると誰よりも楽しそうに口ずさむから。

ぶわりぶわり。顔を真っ赤っかにさせた善逸がちらりと私を見た。


「………じ、じゃあ…一緒に歌ってくれる…?」

「うん、一緒に歌おう」

「!え、えへへ…」


ふにゃり、とはにかんだ善逸がびっくりするほどかわいくて思わず顔を背けた私であった。





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☆こそこそ話

☆ネフィリム
米国の聖遺物研究機関より持ち出した完全聖遺物。
ネフィリムとは、堕ちた巨人を意味するネフィルの複数形。 伝承には、共喰いを繰り返すことで際限なく巨大化してきたとあり、 この個体は、すべてのネフィルを取り込むことで、 一にして全と完成した「ネフィリム」であると推察される。